Jenkins 調査レポート

開発元: Kohsuke Kawaguchi, CloudBees, and community
カテゴリ: CI/CD

Jenkinsは、ビルド、テスト、デプロイを自動化するオープンソースのCI/CDサーバーです。

Jenkins 調査レポート

1. 基本情報

  • ツール名: Jenkins
  • 開発元: Kohsuke Kawaguchi (initial author), CloudBees and the community
  • 公式サイト: https://www.jenkins.io/
  • カテゴリ: 開発者ツール (CI/CD, オートメーションサーバー)
  • 概要: Jenkinsは、オープンソースのオートメーションサーバーです。ソフトウェア開発におけるビルド、テスト、デプロイといったプロセスを自動化し、継続的インテグレーション(CI)と継続的デリバリー(CD)を支援します。

2. 目的と主な利用シーン

  • このツールが解決しようとしている課題: ソフトウェア開発のライフサイクルにおける手動で反復的なタスクを自動化し、開発の効率性、品質、スピードを向上させること。ビルド、テスト、デプロイの各段階で発生する人的ミスを削減し、迅速なフィードバックループを実現する。
  • 想定される主な利用者や部署: ソフトウェア開発者、DevOpsエンジニア、QAエンジニア、IT運用担当者。
  • 具体的な利用シーン:
    • ソースコードの変更をトリガーとした自動ビルドと単体テストの実行。
    • ビルド成果物のアーティファクトリポジトリへの自動デプロイ。
    • テスト環境や本番環境へのアプリケーションの自動デプロイ。
    • 定期的なバッチ処理や、時間のかかるタスクの自動実行。
    • 複数のプラットフォームや環境に対するビルドとテストの並列実行。

3. 主要機能

  • 継続的インテグレーション/継続的デリバリー (CI/CD): CI/CDパイプラインを「Jenkinsfile」としてコードで定義し、ビルド、テスト、デプロイのプロセス全体を自動化。
  • 豊富なプラグインエコシステム: 2000を超えるプラグインが利用可能で、Git, Maven, Docker, Kubernetes, Slackなど、ほぼすべての開発・運用ツールと連携できる。Dockerサポートは継続的に強化されており、最新のLTS版ではDebian 13ベースのコンテナイメージが提供されている。
  • 分散ビルド: 複数のマシン(エージェント)にビルドやテストの処理を分散させ、大規模なプロジェクトでも迅速な処理を実現。
  • 簡単な設定: WebベースのUIから直感的に設定が可能で、オンザフライのエラーチェックや組み込みヘルプも提供。
  • 拡張性: プラグインアーキテクチャにより、Jenkinsの機能を自由に拡張可能。独自のプラグインを開発することもできる。

4. 特徴・強み (Pros)

  • 圧倒的な柔軟性と拡張性: 2000以上のプラグインにより、ニッチなツールやレガシーシステムとの連携、独自のワークフロー構築など、あらゆる要件に柔軟に対応できる。
  • オンプレミスでの運用: 自社のインフラ上でJenkinsをホストできるため、セキュリティ要件が厳しいプロジェクトや、外部サービスへのアクセスが制限される環境でも利用しやすい。
  • 長年の実績と巨大なコミュニティ: 2011年から続く歴史があり、世界中で広く利用されている。そのため、ドキュメント、チュートリアル、フォーラムなどの情報が豊富で、問題解決がしやすい。
  • 無料・オープンソース: ライセンス費用がかからず、自由に利用・改変できる。

5. 弱み・注意点 (Cons)

  • 管理・運用コスト: サーバーのセットアップ、セキュリティ設定、プラグインの管理、アップデート対応など、運用担当者の負担が大きい。特にSaaS型CI/CDツールと比較すると、インフラ管理の知識が求められる。
  • 複雑化しやすい設定: 柔軟性が高い反面、ジョブやパイプライン、プラグインの数が増えるにつれて設定が複雑化し、「Jenkins職人」と呼ばれるような特定の担当者に依存しがちになる。
  • UI/UX: 近年改善が進んでいるものの、モダンなSaaSツールと比較すると、UIが古く直感的でないと感じられることがある。
  • プラグインの依存関係: 多数のプラグインを利用する場合、プラグイン同士の依存関係やJenkins本体とのバージョン互換性の問題が発生することがある。
  • 実行環境の要件: 2024年後半のアップデートにより、Jenkinsの実行にはJava 17が必須となった。古いJava環境で運用しているシステムでは、Jenkinsのアップデートに伴い、Javaのバージョンアップも必要になる点に注意が必要。

6. 料金プラン

  • 無料プラン: Jenkinsはオープンソースソフトウェア(OSS)であり、すべての機能を無料で利用可能。
  • 有料プラン: 開発元であるCloudBees社が、エンタープライズ向けの商用版「CloudBees CI」を提供している。CloudBees CIは、OSS版Jenkinsをベースに、安定性の高いビルドの提供、管理機能の強化、専門家によるテクニカルサポートなどが追加されている。価格は要問い合わせ。
  • 課金体系: (CloudBees CIの場合) ユーザー数やエージェント数に応じた年間サブスクリプションが一般的。
  • 無料トライアル: CloudBees CIには無料トライアルが存在する。

7. 導入実績・事例

  • 国内外の主要な導入企業名: Netflix, Facebook, eBay, LinkedIn, Nintendo, SONYなど、多数のグローバル企業で採用実績がある。日本国内でも、Yahoo! JAPAN, 楽天, NTTグループなど、多くの企業で利用されている。
  • 導入事例からわかる効果や使われ方: ビルド・デプロイ時間の短縮、手動作業の削減によるヒューマンエラーの防止、開発サイクルの高速化、品質向上などの効果が報告されている。モバイルアプリ、Webサービス、組み込みシステム、ゲーム開発など、多様なプロジェクトのCI/CD基盤として利用されている。
  • 特に導入が進んでいる業界や企業規模: 業界を問わず、スタートアップから大企業まで、あらゆる規模のソフトウェア開発組織で導入されている。特に、自社でインフラを管理したい、複雑なパイプラインを構築したい、多様なツールと連携させたいといったニーズを持つ組織で採用される傾向が強い。

8. サポート体制

  • ドキュメント: 公式サイトで包括的なドキュメントが提供されており、インストール、設定、パイプライン作成、プラグイン開発など、幅広い情報が網羅されている。チュートリアルやCookbookも充実している。
  • コミュニティ: Jenkinsコミュニティは非常に活発で、メーリングリスト、フォーラム、IRC/Gitterチャット、Stack Overflowなどでユーザー同士のQ&Aが頻繁に行われている。世界中でJenkinsのミートアップも開催されている。
  • 公式サポート: オープンソース版のJenkinsには公式のサポート窓口はないが、CloudBees社が提供する商用版「CloudBees CI」では、専門家による24時間365日のテクニカルサポートが受けられる。

9. 連携機能 (API・インテグレーション)

  • API: Jenkinsは、外部からジョブの実行、ビルド情報の取得、設定の変更などを行うための豊富なREST APIを提供している。APIのドキュメントはJenkinsの各画面から参照可能。
  • 外部サービス連携: Jenkinsの最大の強みはプラグインによる連携機能にある。ソースコード管理(Git, Subversion)、ビルドツール(Maven, Gradle)、静的解析ツール(SonarQube)、テストツール(JUnit, Selenium)、コンテナ技術(Docker, Kubernetes)、クラウドサービス(AWS, Azure, GCP)、チャットツール(Slack, Microsoft Teams)など、2000以上のプラグインにより、開発ライフサイクルに関わるあらゆるツールとシームレスに連携できる。

10. セキュリティとコンプライアンス

  • 認証: Jenkins自身のユーザーデータベースのほか、LDAP, Active Directory, SAML, OpenID Connectなどと連携した認証が可能。プラグインにより2段階認証(2FA)にも対応。
  • データ管理: ビルド成果物や設定ファイルはJenkinsサーバー内に保存される。オンプレミスで運用するため、データの保存場所を自社の管理下に置くことができる。認証情報(パスワードやAPIキー)を安全に管理するためのCredentialsプラグインが標準で提供されている。
  • 準拠規格: Jenkins自体は特定のセキュリティ規格の認証を取得しているわけではないが、オンプレミス環境に構築することで、組織のセキュリティポリシーに準拠した運用が可能。定期的にセキュリティアドバイザリが公開されており、脆弱性への対応が迅速に行われている。

11. 操作性 (UI/UX) と学習コスト

  • UI/UX: 伝統的なWeb UIは、多機能である一方、情報量が多く初見では分かりにくい部分もあると指摘されてきた。しかし、2025年に入ってからUIの近代化が加速しており、特に2025年後半のLTSリリースでは、ヘッダー、サイドパネル、ボタン、カラーリングといった広範囲なUI要素が再設計され、よりモダンで直感的な外観へと進化している。また、主要なプラグインであるJUnitプラグインのテスト結果表示画面が全面的に刷新され、グラフ表示などが改善されたことで、テスト結果の分析が格段に行いやすくなった。旧来のUIも一部残るが、Blue Oceanと合わせて、操作性は着実に改善されている。
  • 学習コスト: シンプルなジョブの作成は比較的容易だが、複雑なパイプラインの構築(Jenkinsfileの記述)、プラグインの選定と設定、サーバーの運用管理などをマスターするには、相応の学習コストがかかる。特に、Groovy言語で記述するJenkinsfileは、習熟にある程度の時間が必要。

12. ユーザーの声(レビュー分析)

  • 調査対象: G2, Capterra, ITreview (AGENTS.mdの指示に基づき調査)
  • 総合評価: G2では4.4/5.0 (2025年10月時点、500件以上のレビューに基づく)
  • ポジティブな評価:
    • 圧倒的な柔軟性と拡張性: 「2000以上のプラグインがあり、やりたいことはほぼ何でも実現できる」「GCPやAWSなどクラウド連携も豊富」といった声が多数。
    • 強力な自動化エンジン: 「パイプライン制御が強力で、複雑なCI/CDプロセスもコードでしっかり管理できる」「ビルド・テスト・デプロイの自動化で開発効率が劇的に向上した」という評価。
    • コストメリット: 「オープンソースで無料なのが最大の魅力。スモールスタートしやすい」
    • オンプレミス運用: 「セキュリティ要件が厳しいプロジェクトでも、自社サーバーで管理できるので安心」
  • ネガティブな評価 / 改善要望:
    • 管理・運用コスト: 「サーバーのセットアップやプラグインの依存関係の管理が大変」「SaaSツールに比べてインフラの知識が求められる」といった指摘が多い。
    • 学習曲線: 「多機能な反面、初心者が使いこなすには学習コストが高い」「設定が複雑化しやすく、特定の担当者に依存しがち(Jenkins職人)」
    • UIの問題: 「UIが古く直感的でない」という意見は根強いものの、近年のアップデートで改善されつつある。
  • 特徴的なユースケース:
    • ソフトウェア開発のCI/CDだけでなく、インフラのプロビジョニング(Terraform連携)や、データ分析バッチの実行基盤、IoTデバイスのファームウェアビルドなど、汎用的な自動化ツールとして活用されている例が見られる。

13. 直近半年のアップデート情報

  • 2025年10月 (LTS 2.528.1):
    • 広範囲なUI改善: ヘッダー、サイドパネル、ボタン、カラーリングなど、UIの多くの要素がモダンなデザインに更新された。
    • JUnitプラグインのUI刷新: テスト結果表示画面が全面的に再設計され、視認性と分析の容易さが大幅に向上。
    • Debian 13 (Trixie) コンテナイメージ: DockerコンテナのベースイメージがDebian 13にアップデートされた。
  • 2025年9月 (LTS 2.516.3):
    • セキュリティ修正: 重要なセキュリティアドバイザリが公開・修正された。
    • Jetty 12へのアップグレード: 内部で使用されているWebサーバー(Jetty)がバージョン12にアップグレードされ、パフォーマンスと安定性が向上。
  • 2025年8月:
    • GSoC 2025 プロジェクト完了: AIによるビルド失敗診断、Gradleでのプラグイン開発支援ツールなどが成果として報告された。
    • Update CenterのHTTPSを強制: セキュリティ向上のため、アップデートサイトへのアクセスがHTTPSに統一された。
  • 2025年7月 (LTS 2.516.1):
    • ヘッダーとナビゲーションの再設計: UI近代化の第一弾として、主要なナビゲーションが刷新された。
  • Java 17への移行完了:
    • 2024年後半のLTSリリースをもって、Jenkinsの実行にはJava 17が必須となった。
  • アップデートの傾向:
    • UI/UXの近代化: ユーザーからのフィードバックを反映し、UIの見た目と使いやすさの改善に最注力している。
    • 基盤技術の刷新: Java 17への移行、Jetty 12へのアップグレード、最新のDebianコンテナイメージの採用など、基盤となる技術のモダン化を継続的に進めている。
    • セキュリティと安定性の向上: 定期的なセキュリティ修正に加え、HTTPS強制など、基盤部分の継続的な強化が行われている。

14. 類似ツールとの比較

  • GitHub Actions:
    • 特徴: GitHubに深く統合された、イベント駆動型のCI/CDプラットフォーム。
    • 強み: GitHubエコシステムとのシームレスな連携、豊富なマーケットプレイスのアクション、シンプルなワークフロー定義。
    • 弱み: 無料プランでの実行時間制限、複雑なワークフローには不向きな場合がある。
    • どのような場合に選択肢となるか: コードがGitHubにあり、CI/CDのメンテナンスを最小限に抑えたい小〜中規模チーム。
  • GitLab CI/CD:
    • 特徴: GitLabプラットフォームに統合された、オールインワンのDevOpsソリューション。
    • 強み: コード管理からデプロイまでを単一ツールで完結、強力なコンテナ連携、組み込みのセキュリティスキャン。
    • 弱み: 複雑なワークフローの学習コストがやや高い。
    • どのような場合に選択肢となるか: 統合されたDevOps環境を求めており、コンテナベースのワークフローを多用するチーム。
  • CircleCI:
    • 特徴: パフォーマンスとDockerサポートに定評のあるCI/CDプラットフォーム。
    • 強み: 高速なビルド、高度なキャッシュ機能と並列実行、柔軟なリソースクラス設定。
    • 弱み: クレジットベースの料金体系が大規模になると高価になる可能性がある。
    • どのような場合に選択肢となるか: 高パフォーマンスなビルド、特にDockerを駆使したビルドが求められるプロジェクト。

15. 総評

  • 調査担当者としての総合的な評価: Jenkinsは、CI/CDツールの「デファクトスタンダード」として長年利用されてきた実績があり、その圧倒的な柔軟性と拡張性は他の追随を許さない。無料で利用できるオープンソースでありながら、大規模かつ複雑なプロジェクトにも対応できるパワフルなツールである。ただし、その柔軟性と引き換えに、設定の複雑さや運用管理のコストといった課題も抱えている。
  • どのようなチームやプロジェクトに推奨できるか:
    • オンプレミスでの運用が必須なプロジェクト
    • 独自の開発ツールやレガシーシステムとの連携が必要なチーム
    • 複雑で特殊なビルド・デプロイのワークフローを構築したい場合
    • CI/CD基盤の構築・運用に専門のエンジニアを配置できる組織
  • 比較対象の他ツールと比べて、どのような場合に選択肢となり得るか: 近年台頭しているGitHub ActionsやGitLab CI/CDなどのSaaS型CI/CDツールと比較した場合、インフラ管理を自社で行いたい、あるいはSaaSでは実現できない高度なカスタマイズが必要な場合にJenkinsは有力な選択肢となる。一方で、インフラ管理のコストをかけずに手軽にCI/CDを始めたい、ソースコード管理とCI/CDを一体的に利用したいといった場合は、SaaS型ツールに軍配が上がるだろう。