メルカリにおける米穀出品禁止と農家直販の実態に関する調査報告
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メルカリにおける米穀出品禁止と農家直販の実態に関する調査報告
エグゼクティブ・サマリー
本報告書は、2025年6月にメルカリが導入した米穀類の出品禁止措置の背景と、それに伴い影響を受けた出品者構成、特に農家による直接販売(農家直送)が占めていた割合について分析するものである。政府による「国民生活安定緊急措置法」に基づく転売規制強化が直接的な引き金となり、メルカリをはじめとする主要C2C(個人間取引)プラットフォームは、個人および個人事業主による米穀全般の出品を禁止する措置を講じた。
本調査の結果、メルカリから出品者構成に関する公式データは公表されていないため、正確な割合の算出は不可能である。しかし、競合プラットフォームの過去データ、出品内容の定性的分析、および市場レポートの三角測量を通じて、その実態を推定することは可能である。分析によれば、禁止措置以前のメルカリ市場は、正規の「農家直送」を謳う出品者が相当数を占め、消費者にとっても価格面でのメリットがある活発な市場を形成していた。しかし、2024年から2025年にかけての米価高騰を背景に、利ざやを目的とした転売事業者や、低品質な米を販売する悪質な出品者が急増。プラットフォームがこれらの出品者を大規模かつ正確に識別することが困難であったため、法的リスクを回避する目的で、個人出品を一律に禁止するという広範な措置に至った。この決定は、結果として正規の農家が出品機会を失うという副作用を生んだ。
本報告書は、規制の背景、市場環境、出品者の類型を詳細に分析し、この措置が今後の農産物D2C(Direct to Consumer)市場に与える戦略的含意を考察する。
第1章 規制介入:メルカリ米穀出品禁止の背景とメカニズム
メルカリによる米穀出品の禁止は、事業戦略上の自発的な決定ではなく、政府の法改正に対応するための受動的なコンプライアンス措置であった。このセクションでは、規制の根拠と、それに対するプラットフォームの執行メカニズムを解明する。
1.1 政府による指令:「国民生活安定緊急措置法施行令」の改正
今回の措置の核心は、2025年6月13日に閣議決定された「国民生活安定緊急措置法施行令の一部を改正する政令」にある 1。この改正により、市販されている米穀を取得価格を超える価格で譲渡する、いわゆる高額転売が法的に禁止された 2。違反者には「一年以下の拘禁刑もしくは百万円以下の罰金」という厳しい罰則が科されることとなり、プラットフォームと出品者の双方に重大な法的リスクが生じた 1。
この規制は、それ以前に実施されていた「政府備蓄米」の出品禁止措置をさらに拡大したものである 4。当初は政府放出米という特定の対象に限定されていた規制が、市場全体の米穀にまで及んだことは、政府による規制対応が段階的に強化されていったことを示している。禁止対象は、もみ、玄米、精米、砕米といった一般的な食用米だけでなく、飼料用、肥料用、種子用の米、さらには輸入米までを含む包括的なものであった 1。一方で、パックご飯などの加工品は対象外とされた 7。
1.2 メルカリのコンプライアンスと執行メカニズム
政府の閣議決定を受け、メルカリは2025年6月13日に公式発表を行い、同年6月23日午前0時をもって個人および個人事業主による米穀全般の出品を禁止することを決定した 1。
メルカリが導入した執行戦略は多角的であり、違反出品の取引キャンセルや削除、さらには違反アカウントに対する利用制限といった厳しい措置を含んでいた 5。監視体制においては、AIを活用した検知システムと人による目視確認を組み合わせたハイブリッド方式を採用し、規制遵守に向けた大規模な投資を行う姿勢を示した 5。この動きはメルカリ単独のものではなく、楽天の「ラクマ」やLINEヤフーの「Yahoo!フリマ」「Yahoo!オークション」といった他の主要C2Cプラットフォームも追随し、業界全体で政府の指令に対応する形となった 7。
1.3 分析:特定の問題に対する包括的措置の選択
政府の規制が主たる標的としていたのは、価格差を利用して利益を得る「転売ヤー」であった 2。しかし、その対策として導入されたのは、個人出品者を一律に禁止するという「包括的」な措置であった。この背景には、プラットフォームが直面した運営上の根本的な課題がある。
理論上、規制対象は「購入した米」を高く転売する行為であり、農家が自ら「生産した米」を販売することは、この定義には当てはまらない。しかし、C2Cプラットフォーム上で、ある出品者が販売する米が「生産物」なのか「購入した転売品」なのかを、一件一件正確に、かつ大規模に検証することは事実上不可能である。悪意のある転売業者が「農家直送」を偽って出品することは容易に想像できる。
違反した場合の厳しい罰則(最大で懲役刑)を考慮すると 1、メルカリにとって最もリスクが低く、法的に安全な選択は、検証が困難な「個人」という出品者カテゴリー全体で米穀の取り扱いを禁止することであった。その結果、不正な転売業者を排除する過程で、正規の個人農家が不可避的に巻き込まれる形となった。これは、C2Cプラットフォームの持つ「誰でも簡単に出品できる」というオープンな特性と、危機的状況下における重要物資の厳格な流通管理という要請との間に存在する、構造的な緊張関係を浮き彫りにしている。
第2章 市場の混乱:出品禁止措置に至った経済的背景
メルカリの出品禁止措置は、単独で発生した事象ではない。米価の異常な高騰とそれに対する政府の市場介入が、転売活動の温床となる「パーフェクト・ストーム」を生み出し、最終的にプラットフォームによる厳しい規制を誘発した。
2.1 全国的な米価危機
禁止措置に先立つ期間、日本の米市場は深刻な価格高騰に見舞われていた。報道によれば、米価は前年比で1.5倍から2倍に跳ね上がり、スーパーマーケットなどでの5kg入り一袋の価格が前年より1000円も高いケースも珍しくなかった 10。この背景には、2023年産米の収穫量に対する懸念や需要の増加があり、続く2024年産米の集荷競争を激化させ、卸売価格を過去最高水準にまで押し上げた 10。
この価格高騰に対する見方は分かれており、生産者側は上昇する生産コストを補うための適正価格への是正と捉える声があった一方で、流通業者からは消費者の米離れを加速させかねないとの懸念が示されていた 11。
2.2 政府の市場介入と「備蓄米」という要因
価格高騰を抑制するため、政府は最大21万トンの政府備蓄米を市場に放出するという対策を講じた 3。この備蓄米は、市場価格よりも大幅に安価で小売事業者などに供給された。この措置が、市場価格の米と政府放出米との間に大きな価格差、すなわち利ざやを生む機会を創出してしまった 3。
この価格差を狙った転売行為の主要な舞台となったのが、メルカリなどのC2Cプラットフォームであった。一部の利用者は、安価な備蓄米を小売店で購入し、それをプラットフォーム上で高値で転売して利益を得るという行動に出た。この動きが社会問題化したことが、政府が当初、備蓄米に限定した転売禁止措置を導入する直接的な原因となった 3。
2.3 分析:意図せざる裁定取引エンジンとしてのプラットフォーム
摩擦の少ない商取引を実現するために設計されたC2Cプラットフォームのビジネスモデルは、国家的な食料品危機の状況下で、期せずして非常に効率的な価格裁定(アービトラージ)エンジンとして機能してしまった。参入障壁の低さと膨大な利用者数というプラットフォームの特性が、転売業者によって最大限に活用されたのである 14。
このプロセスは次のように整理できる。まず、政府の介入(安価な備蓄米の放出)と市場の力学(商業米の高騰)によって、顕著な価格の不均衡が生まれた 3。経済理論上、このような価格差が存在すれば、それを悪用しようとする裁定取引者が現れるのは必然である。メルカリのようなプラットフォームは、大規模な顧客リーチ、低い取引コスト、そしてある程度の匿名性を提供し、こうした活動に理想的なインフラを提供した。
「転売ヤー」と呼ばれる人々は、このインフラを利用して組織的に「安く買って高く売る」行為を繰り返し、中古品や個人の製作物を売買するための場を、主要食料品のグレーマーケットへと変貌させた 4。当初、メルカリは出品ページに注意喚起文を掲載するという比較的穏当な対応をとっていたが、それでは不正行為を抑制するには不十分であることが明らかになり 10、最終的に全面的な出品禁止という強硬策に踏み切らざるを得なかった。これは、重要物資において外部要因による急激な価格差が生じた際に、C2Cモデルが内包するシステム上の脆弱性を示している。
第3章 出品者ランドスケープの解体:「農家直送」のシェア推定
本章では、ユーザーの核心的な問いに答えるため、メルカリ市場における出品者の構成、特に農家による直接販売が占めていた割合を推定する。メルカリが公式データを公表していないため、直接的な数値は存在しない。したがって、本分析は、競合プラットフォームのデータ、出品内容の定性的分析、市場レポートを組み合わせた複合的なアプローチによって行われる。
3.1 データのブラックボックス:公式統計の不在
まず明確にすべきは、メルカリは米穀の出品者を「農家」「転売業者」「個人(趣味)」といったカテゴリーに分類した公式データを一切公開していない点である。したがって、正確な構成比率を提示することは不可能である。本分析は、入手可能な間接的証拠を元にした、論理的な推定となる。
3.2 楽天「ラクマ」のベンチマーク:C2C農産物市場の定量的代理指標
利用可能な定量的データの中で最も強力な代理指標となるのが、2018年に楽天「ラクマ」が実施した農産物取引に関する調査である 15。メルカリとラクマは日本のC2C市場を二分するプラットフォームであり、その機能や利用者層には多くの共通点がある。このデータは、危機以前のC2C農産物市場の健全な状態を把握する上で極めて重要である。
表1:楽天「ラクマ」における農産物販売の成長と構成(2017年-2018年)
指標 | 調査結果 | 出典 |
---|---|---|
農産物全体の成長率 | 取引流通額が1年間で6倍に増加(2017年3月比) | 15 |
カテゴリー別成長率(前年同月比) | 野菜:11.9倍 | 15 |
果物:5.9倍 | 15 | |
米:4.8倍 | 15 | |
最も人気のある品目 | 米が取引流通額で最大の品目であった。 | 15 |
消費者の価格メリット | ラクマの米は一般小売価格より1kgあたり平均75円安かった。 | 15 |
このデータが示す価値は大きい。第一に、2018年の時点で、農家から消費者への直接販売、特に米の販売は、C2Cプラットフォーム上で既に相当な規模を持ち、かつ急成長している市場セグメントであったことを証明している。米の取引額が4.8倍に成長し、最人気商品であったという事実は、業界最大手のメルカリにおいても同様か、それ以上の規模の市場が存在していたことを強く示唆する。第二に、このデータは「農家直送」チャネルが一部のニッチな活動ではなく、消費者に明確な価値(低価格)を提供する、エコシステムの重要な一部であったことを裏付けている。つまり、転売危機によって市場が混乱する以前には、正規の市場が確かに繁栄していたのである。
3.3 定性的証拠:メルカリにおける出品者の類型分析
出品内容を定性的に分析すると、メルカリの米市場には少なくとも4つの主要な出品者類型が存在していたことがわかる。
- 類型A:正規の農家
「農家直送」を掲げ、栽培方法、産地、生産にかける想いなどを詳細に記載する出品者群 18。自身の田んぼで収穫した米であることや 21、種まきから収穫までこだわって栽培していることなどをアピールする例が見られ 18、市場内で確立された存在であった 22。 - 類型B:趣味・余剰分の販売者
自家消費用に栽培した米や、親族から譲り受けた土地で収穫された米の余剰分を販売する個人。ある出品者は「(委託栽培している田んぼで獲れた)おコメは食べ切れないので出品しております」と明記しており、商業的農家ではないが、自ら生産に関わったものを販売している 21。 - 類型C:転売業者
今回の規制の直接的な原因となったグループ。小売店や卸から米を仕入れ、プラットフォーム上で再販売する 2。中には、消費者を欺くために農家直送を装う巧妙な手口を使う者もいた 23。ある米穀業者は、自社が卸した業務用パッケージの商品がそのままメルカリで転売されているのを発見している 23。 - 類型D:低品質な商品の販売者
転売業者と重なる部分もあるが、こちらは品質の低い商品を意図的に販売するグループ。「クズ米」や古い米を、高品質なブレンド米と偽って販売するケースが報告されている 11。購入者からは、届いた米が変色していた、異臭がした、砕けた米が多かったといった被害報告が多数上がっていた 25。
3.4 統合的な推定と分析:割合ではなくスペクトラムとして捉える
メルカリの米市場は、「農家か、それ以外か」という単純な二元論で割り切れるものではなく、複雑なスペクトラム(連続体)を形成していた。したがって、単一の割合で示すことは実態を誤認させる可能性がある。市場は、正規の生産者(類型A・B)という中核部分と、その成功したビジネスモデルに寄生する転売業者や詐欺的行為者(類型C・D)という層が重なり合って構成されていたと理解するのが最も正確である。
ラクマのデータ 15 は、C2Cプラットフォーム上に大規模で正規の米市場が存在したことを証明しており、これが類型Aの基盤を形成していた。出品内容の分析 21 は、小規模な生産者(類型B)の存在を裏付ける。そして、今回の規制危機全体が、報道や政府発表で記録されているように、転売業者(類型C)の爆発的な増加によって引き起こされた 2。さらに、消費者の苦情 25 は、詐欺的な底辺市場(類型D)の存在を明らかにしている。
結論として、2024年から2025年の価格危機以前は、出品の大部分が正規の生産者(類型A・B)によるものであり、その市場は成長途上にあったと推定される。しかし、危機が深刻化するにつれて、転売業者(類型C)の活動量と出品数が劇的に増加し、市場を混濁させ、最終的に規制当局の注意を引く支配的な問題へと発展した。 つまり、農家と非農家の割合は固定されたものではなく、市場環境に応じて大きく変動する動的なものであったと言える。
第4章 消費者からの視点:機会とリスクの天秤
このセクションでは、C2C米市場の需要側の動向と、消費者が直面したリスクについて探る。消費者がなぜこの市場に惹きつけられたのか、そして、どのようなリスクに晒されたのかを明らかにすることは、政府による規制介入が消費者保護の観点からも正当化される背景を理解する上で不可欠である。
4.1 C2Cマーケットプレイスの魅力
消費者がメルカリで米を購入する動機は複数あった。
- 価格: ラクマのデータが示すように、C2Cプラットフォームは顕著なコスト削減を提供し、米は1kgあたり最大75円安く手に入った 15。特に、形が不揃いなどの理由で出荷規格外となった「訳あり」商品は、通常価格の30%から50%引きで販売されることもあり、大きな魅力となっていた 27。
- 鮮度と生産者との繋がり: 消費者は「農家直送」が約束する鮮度や、生産者と直接コミュニケーションを取れることに価値を見出していた。これはスーパーマーケットでは得られない信頼感や繋がりを生み出した 16。
- 多様性: 地元の店舗では手に入らないような、特定の地域の品種や特別な栽培方法の米にアクセスできる点も魅力であった。
4.2 未規制市場の現実:「米ガチャ」
しかし、その魅力の裏側には大きなリスクが潜んでいた。
- 品質問題: 購入者からは、 substandard(基準以下の)な商品が届いたという体験談が数多く報告されている。「クズ米」が混ぜられていたり、異臭がしたり、味が悪かったりといった問題が頻発した 11。あるテレビ番組では、視聴者がメルカリで購入した米を専門家が鑑定し、「販売してはいけないレベル」と断じる場面もあった 26。
- 情報の非対称性と欺瞞: 最大の問題は、消費者が売り手の主張を検証する手段を持たない「情報の非対称性」にあった。出品者は献身的な農家かもしれないし、アパートの一室で米を袋に詰め替えている転売業者かもしれない 11。ある米穀生産者は、メルカリで販売される米の「自宅保管」という表記に言及し、適切な温度・湿度管理がされているか、虫やカビが発生していないかといった品質管理上の深刻な懸念を指摘している 24。
- 信頼の欠如: もちろん、肯定的なレビューも多数存在したが 29、否定的な体験談が広まるにつれて、市場全体が「自己責任」の雰囲気に包まれていった。消費者は出品者の評価に頼らざるを得なかったが、その評価自体も、商品を食べ終える前に付けられてしまうため、真の品質を反映していない可能性があった 26。
4.3 分析:規制の触媒としての信頼の侵食
C2C米市場の崩壊は、単なる経済的な問題(転売)だけでなく、信頼の崩壊でもあった。プラットフォームが主食である米の品質と信頼性を保証できなかったという事実は、深刻な消費者リスクを生み出し、政府による介入に強力な二次的根拠を与えた。
C2C農産物取引の価値提案は、鮮度、品質、そして生産者の物語に対する「信頼」の上に成り立っている 28。悪質な出品者(類型C・D)の行動は、この信頼の基盤を直接的に攻撃し、広範な消費者の不利益を生んだ 25。この信頼の侵食はカテゴリー全体の価値を毀損し、誠実な農家が悪質な出品者と不当な競争を強いられる状況を作り出した。
米のような基幹食料品の市場が、品質問題や詐欺行為で溢れるようになると、それは単なる商業上の問題から、公共の福祉と消費者保護の問題へと発展する。この公共性という側面が、転売による経済的混乱と結びついたことで、政府による広範な規制措置は、理解できるだけでなく、政治的にも必要なものとなったのである。
第5章 戦略的含意とD2C農産物Eコマースの未来
本章では、これまでの分析を統合し、今後の農産物D2C(消費者直接販売)電子商取引の展望と、農業事業者が取るべき戦略について考察する。
5.1 個人販売者にとっての一時代の終わり
今回の禁止措置は、個人の農家や小規模生産者にとって、参入障壁が低く広範な顧客にリーチできる重要な販売チャネルが閉鎖されたことを意味する。メルカリを主要な、あるいは補助的な収入源としていた人々は、代替手段の模索を余儀なくされている 31。今後のD2C市場における重要な分岐点は、事業の法的形態となる。販売への道が完全に閉ざされたわけではないが、その道はより狭く、参入障壁はより高くなった。
5.2 「法人」という例外:メルカリShopsと今後の方向性
今回の規制において、極めて重要な例外が存在する。それは、法人であれば、引き続きメルカリShopsを通じて米穀を販売できるという点である 1。これは単なる抜け道ではなく、メルカリがリスク管理の観点から意図的に選択した方針である。法人は登記された法的実体であり、匿名の個人に比べて身元の検証が容易で、より厳格な規制監督の対象となる。
この方針は、規制対象品目におけるC2Cマーケットプレイスの成熟化と公式化を象徴している。気軽な個人が出品する「ギグエコノミー」的なモデルから、より構造化されたB2Cに近い枠組みへの移行が示唆されている。
5.3 農業事業者に向けた戦略的提言
この市場の変化を踏まえ、農業事業者は以下の戦略を検討すべきである。
- 事業の法人化: 最も明確な教訓は、事業形態の公式化の重要性が増していることである。米のような規制対象産品を主要プラットフォームで販売するためには、「個人事業主」ではなく「法人」として事業を運営することが、今後不可欠になる可能性がある。
- 販売チャネルの多様化: 単一のプラットフォームへの過度な依存は、致命的なリスクとなり得る。事業者は複数のチャネルを組み合わせた戦略を構築すべきである。
- 農産物特化型ECプラットフォーム: 「食べチョク」や「ポケットマルシェ」など、農家と消費者を直接結びつけることに特化した専門サイトの活用。
- 自社ECサイトの構築: 独自のブランドを確立し、顧客との関係性やデータを直接管理できる自社ECサイトの開設。
- 楽天市場・Yahoo!ショッピングなど: これらはC2Cではなく、より公式な出店手続きを要する伝統的なEコマースモールだが、巨大な顧客基盤を持つ。
- 検証可能な信頼の構築: メルカリ市場で起きた信頼の欠如を教訓に、自らの信頼性を客観的に証明することがこれまで以上に重要となる。
- 透明性: 農場の所在地、栽培方法、生産者のプロフィールなどを積極的に開示する。
- トレーサビリティ: 商品が消費者に届くまでの過程を追跡できる仕組みを導入する。
- 第三者認証の取得: 有機JAS認証など、品質を客観的に証明する認証を取得する。
5.4 結論:市場のリセット
メルカリの米穀出品禁止は、単なる一品目の取り扱い停止ではない。それは、経済危機、規制強化、そしてC2Cモデル固有の脆弱性が重なり合って引き起こされた、市場全体のリセットであった。この措置は、誠実な小規模農家に不利益をもたらすという痛みを伴ったが、同時に、農産物のD2C販売のあり方を、より公式で、規制を遵守し、検証可能な信頼が求められる方向へと不可逆的にシフトさせた。未来志向の農業事業者にとって、これは単なる挑戦ではなく、より強靭で信頼性の高いビジネスモデルを未来に向けて構築する好機と捉えることができるだろう。
引用文献
- 米穀の出品禁止について|メルカリびより【公式サイト】, 6月 15, 2025にアクセス、 https://jp-news.mercari.com/articles/2025/06/13/2c81443ccc/
- 米の転売 備蓄米以外もすべて規制 小泉農相 23日から 2025年6月13日 - 農業協同組合新聞, 6月 15, 2025にアクセス、 https://www.jacom.or.jp/kome/news/2025/06/250613-82458.php
- 備蓄米追加放出・転売禁止… 政府の対策でコメの値段は下がるのか【スーパーJチャンネル】(2025年6月11日) - YouTube, 6月 15, 2025にアクセス、 https://www.youtube.com/watch?v=VrkJs0vEEZ4
- メルカリも「政府備蓄米」を出品禁止に–転売目的の買い占め抑止 ヤフオクに続き - CNET Japan, 6月 15, 2025にアクセス、 https://japan.cnet.com/article/35233588/
- メルカリ、米穀全般の出品禁止を決定, 6月 15, 2025にアクセス、 https://about.mercari.com/press/news/articles/20250613_anshinanzen/
- メルカリ、米穀全般を出品禁止に - PC Watch - インプレス, 6月 15, 2025にアクセス、 https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/2022568.html
- メルカリ、お米を出品禁止–政府の閣議決定を受け (更新)ラクマやヤフオクも - CNET Japan, 6月 15, 2025にアクセス、 https://japan.cnet.com/article/35234241/
- メルカリ、玄米・精米など米類の出品を禁止へ 6月23日からキャンセル・削除を実施 AMP[アンプ], 6月 15, 2025にアクセス、 https://ampmedia.jp/2025/06/13/mercari-250613/
- 東京穀物商品取引所でコーヒー試験上場が実現 - 日本食糧新聞・電子版, 6月 15, 2025にアクセス、 https://news.nissyoku.co.jp/news/nss-8383-0001
- メルカリが米の出品を容認→但し書き「冷静なご対応をお願い」に様々な反応, 6月 15, 2025にアクセス、 https://biz-journal.jp/company/post_386703.html
- 【お米品薄まとめ】フリマサイトに出品相次ぐ…“ルール違反”のものも 山盛りご飯が“減量危機” / コメ価格にJAグループ代表「理解いただきたい」 など - YouTube, 6月 15, 2025にアクセス、 https://www.youtube.com/watch?v=xdqkoHP-QTA
- 小泉進次郎大臣の2000円備蓄米、フリマ転売禁止で「転売ヤー、ざまあ」と歓喜する人が知らない事実 - ダイヤモンド・オンライン, 6月 15, 2025にアクセス、 https://diamond.jp/articles/-/366020?page=3
- [ニッポンの米]備蓄米の出品を禁止 大手フリマサイト各社 高値転売防止へ - 日本農業新聞, 6月 15, 2025にアクセス、 https://www.agrinews.co.jp/news/index/309802
- メルカリフォロワー数全国1位の農家が語るECサイト、フリマアプリ、SNSの活用術, 6月 15, 2025にアクセス、 https://news.mynavi.jp/article/20230527-2685601/
- 楽天のフリマアプリ「ラクマ」農産物の取引実態について調査結果を発表 - 楽天グループ - 楽天市場, 6月 15, 2025にアクセス、 https://corp.rakuten.co.jp/news/update/2018/0928_02.html
- 農業女子に聞いた、いまフリマアプリ「ラクマ」で農産物が人気のワケ - Rakuten Today, 6月 15, 2025にアクセス、 https://rakuten.today/tech-innovation-ja/rakuma-women-farmers-j.html?lang=ja
- 楽天のフリマアプリ「ラクマ」農産物の取引実態について調査結果を発表 - PR TIMES, 6月 15, 2025にアクセス、 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000789.000005889.html
- お米農家 ゆきこの直売店 - メルカリShops, 6月 15, 2025にアクセス、 https://mercari-shops.com/shops/xyUj5PG2saamAkuUKkrYXj
- 【お米がない!】フリマサイトで注意したいこと 新潟コシヒカリのお米農家「まごころ村」ブログ*出張販売・全国発送対応, 6月 15, 2025にアクセス、 https://ameblo.jp/magokoro3580/entry-12865757855.html
- 手塚農園*国産の美味しいお米 の出品した商品 - メルカリ - Mercari, 6月 15, 2025にアクセス、 https://jp.mercari.com/user/profile/873090421
- 玄米 9.5kg (時流に反して値上げ) - メルカリ, 6月 15, 2025にアクセス、 https://jp.mercari.com/item/m23465752587
- 【2025年最新】農家自慢のお米の人気アイテム - メルカリ, 6月 15, 2025にアクセス、 https://jp.mercari.com/search?keyword=%E8%BE%B2%E5%AE%B6%E8%87%AA%E6%85%A2%E3%81%AE%E3%81%8A%E7%B1%B3
- 【注意】メルカリで見かけた怪しいお米転売手口とは?本物の農家直送を見分ける方法, 6月 15, 2025にアクセス、 https://okome-kometouji.com/blogs/rice/reselling-on-mercari
- 【本物?】メルカリ等で転売されているお米に注意! - 米杜氏, 6月 15, 2025にアクセス、 https://okome-kometouji.com/blogs/rice/beware-of-reselling-rice
- メルカリ失敗談 米 日々のいろいろ ときどき商品レビュー - 楽天ブログ, 6月 15, 2025にアクセス、 https://plaza.rakuten.co.jp/kaimonoboegaki/diary/202106300000/
- メルカリでクズ米を買わされた!, 6月 15, 2025にアクセス、 https://ameblo.jp/e-cosodate/entry-12905071292.html
- 訳ありでも大満足!メルカリで楽しむお取り寄せ果物の世界 - Mercari, 6月 15, 2025にアクセス、 https://jp-news.mercari.com/contents/23691
- 農家さんがメルカリで野菜や果物を販売(出品)するメリット・デメリット, 6月 15, 2025にアクセス、 https://takaguchidesign.com/wp/mercari
- ショップの評価 - メルカリShops, 6月 15, 2025にアクセス、 https://mercari-shops.com/shops/Tf76SJw4sFG95FopjgvU2F/reviews
- 産直(産地直送)りんごをメルカリで!おすすめショップとお得な買い方 - Mercari, 6月 15, 2025にアクセス、 https://jp-news.mercari.com/contents/23226