Kiro IDE:スペック駆動開発の徹底分析とAIエディター市場の比較研究

タグ: AIツール

作成日: 2025年07月15日

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プロンプト

KiroというIDEについて詳しく調査を行い、他のAIエディターと比較してどのような違いがあるのかまとめて欲しい。

Kiro IDE: スペック駆動開発の徹底分析とAIエディター市場の比較研究

第1章 エグゼクティブサマリー

Kiroの紹介

Amazon Web Services (AWS) によって開発されたKiroは、AI搭載統合開発環境(IDE)市場における新たな参入者である 1。Kiroは、プロトタイプから本番環境までの開発プロセス全体を円滑化するためにゼロから構築された「エージェント型IDE」として位置づけられている 3。

中核理念:スペック駆動開発

Kiroの中心的哲学は「スペック駆動開発(Spec-Driven Development)」であり、これは他のAIツールで一般的な、より自由形式の「Vibeコーディング」パラダイムに対する構造化された対案として提唱されている 1。このアプローチは、ソフトウェアエンジニアリングのベストプラクティスをデフォルトで組み込むことを目的としている 6。

主な差別化要因

Kiroは、スペック(Specs)、エージェントフック(Agent Hooks)、エージェントステアリング(Agent Steering)、モデルコンテキストプロトコル(MCP)統合といった独自の機能群によって差別化される。これらの機能は、本レポートで詳述する。

競争上の位置づけ

Kiroは、単なるコード生成の品質だけでなく、開発ワークフロー全体で競争している。他のAIアシスタントであるGitHub Copilot、Cursor、Tabnineが既存のワークフローを「拡張」する役割を担うのに対し、Kiroは構造化され、思想を持った(opinionated)プロセスを「強制」することで、根本的な差別化を図っている 7。

本レポートの目的

本レポートは、Kiroのアーキテクチャに関する詳細な分析と、競合製品との徹底的な比較分析を提供し、技術リーダーが戦略的評価を行うために必要な洞察を装備することを目的とする。

第2章 Kiroの解体:AI支援開発におけるパラダイムシフト

本セクションでは、Kiroのアーキテクチャ、機能、そしてその根底にある哲学を詳細に分析する。

2.1 「プロトタイプから本番へ」の哲学:スペック駆動開発 vs. Vibeコーディング

Kiroが解決を目指す問題

Kiroが解決しようとしている問題は、AIが生成する魅力的で魔法のようなプロトタイプと、堅牢で本番環境に対応可能なアプリケーションとの間に存在するギャップである 3。多くのAIツールはコード生成には優れているが、本番環境で求められる構造性を担保することに苦慮している 2。

Vibeコーディングの特性

「Vibeコーディング」とは、コードを生成するために迅速かつ反復的にプロンプトを入力するプロセスを指す。この手法は実験には効果的だが、生成されたコードは品質に欠けることが多く、本番環境に投入する前に大規模なリファクタリングを必要とすることが少なくない 4。

Kiroの解決策:スペック駆動開発

スペック駆動開発は、Kiroが提示する中核的な解決策である。これは、コード生成の「前」に、高レベルのプロンプトを正式な仕様書に変換するワークフローを特徴とする 1。このアプローチにより、AIによるコーディングに構造と成熟したエンジニアリングプラクティスがもたらされる 4。

3段階のワークフロー

Kiroは、強制的かつ連続的なプロセスを開発者に課す 6。

  1. 要件定義フェーズ(Requirements Phase): 開発者が入力した単一のプロンプト(例:「ソーシャルサインイン機能を追加」)を基に、Kiroは詳細なrequirements.mdファイルを生成する。このファイルには、ユーザーストーリーや、EARS(Easy Approach to Requirements Syntax)記法を用いた受け入れ基準が含まれ、AIの解釈における前提条件を明示化する 1。
  2. 設計フェーズ(Design Phase): 承認された要件とプロジェクトのコンテキスト(ステアリングファイルから取得)に基づき、Kiroはdesign.mdドキュメントを生成する。これには、TypeScriptのインターフェース、データフローを示すMermaid図、データベーススキーマ、APIエンドポイントといった技術仕様が含まれる 1。これにより、実装前に計画をレビューすることが可能となる 10。
  3. 実装フェーズ(Implementation Phase): Kiroは設計を個別の連続したタスクリストに分解し、tasks.mdファイルを作成する。開発者は各タスクを順に実行し、ステップごとにコードの変更点(差分)を確認することで、常にコントロールを維持する 1。

組織的知識の継承という核心的価値

Kiroのワークフローは、単に構造化されたコードを生成するだけでなく、より深遠な価値を提供する。従来のAIチャット履歴は一時的なものであり、個々のユーザーに紐づいていてプロジェクト全体で共有されることは少ない。しかし、Kiroは計画プロセスそのものをバージョン管理可能なMarkdown成果物(requirements.md, design.md, tasks.md)として生成する 10。

このアプローチがもたらす本質的な変化は、開発の「なぜ」(要件)と「どのように」(設計)を、プロジェクトのソース管理履歴に直接埋め込むことにある。これにより、一種の「組織的知識(Institutional Memory)」が形成される。新しい開発者がプロジェクトに参加した際、最終的なコードだけでなく、それに至るまでの完全な思考プロセス、要件、アーキテクチャ上の決定を、これらのスペックファイルを確認することで理解できる 10。これは、長期的なソフトウェア保守やチームのオンボーディングにおける主要な課題を直接的に解決するものであり、単なる「構造化されたコード生成」を超えた、重要な二次的、三次的便益と言える。

2.2 Kiroアーキテクチャの四本柱

2.2.1 スペック:基盤となる成果物

requirements.md、design.md、tasks.mdの生成と利用方法について深掘りする。これらは静的なドキュメントではなく、チャットや直接編集を通じて改良可能な対話型の成果物である 1。開発者は各段階と各タスクの実装をコードの差分を通じてレビューし、承認することで、常に主導権を握る 4。「オートパイロット」モードを有効にすることで、AIにより多くの自律性を与えることも可能だ 4。

初期のユーザーからは、この機能がKiroの最も印象的で決定的な特徴であると評価されている 6。一方で、その厳格さゆえに、時に過剰なユニットテストを生成し、プロセスを遅延させるという指摘もある 6。

2.2.2 エージェントフック:IDE内でのイベント駆動型自動化

エージェントフックは、「ファイルの保存」「新規作成」「削除」といったファイルシステム上のイベントをトリガーとして、AIアクションを自動実行するイベント駆動型の自動化フレームワークである 1。これは「AIエージェントを搭載したGitフック」と表現されている 9。具体的なユースケースとしては、機能追加時のドキュメントや

README.mdの自動更新、テストの実行、Figmaデザインシステムとの同期、プロジェクト管理チケットの更新などが挙げられる 1。フックの作成は、Kiroのサイドバーまたはコマンドパレットから容易に行える 1。

この機能は、開発ワークフローにおける自動化のタイミングを根本的に変える。従来の自動化(リンティング、テスト、ドキュメント生成など)は、コミットやプルリクエストのタイミングでCI/CDパイプライン上で実行されることが多かった。しかし、エージェントフックは「ファイル保存」のようなローカルイベントでトリガーされる 1。これは、ドキュメンテーションやテストといったタスクのフィードバックループが、コードがコミットされる「前」に、開発者のIDE「内」で即座に発生することを意味する。この自動化と品質チェックの「シフトレフト」は、開発サイクルの後期で問題修正に費やす時間を削減し、統合ポイントだけでなく、開発プロセス全体を通じて一貫性を継続的に維持することを可能にする。これにより、IDEは単なるコード記述ツールから、自己保守能力を持つ開発環境へと変貌を遂げる 10。

2.2.3 エージェントステアリング:永続的なプロジェクトコンテキストの提供

エージェントステアリングは、プロジェクトの規約、アーキテクチャ、ビジネスコンテキストといった「組織的知識」を維持するためのKiroのメカニズムである 9。これにより、AIアシスタントが長期的な記憶を持たないという根本的な問題が解決される 4。

.kiro/steering/ディレクトリ内に作成される3つのデフォルトのステアリングファイルがその中核をなす 1。

これらのファイルには、コンテキストのきめ細かな制御を可能にする3つの強力なインクルージョンモード(always、fileMatch(条件付き)、manual)が設定できる 9。さらに、開発者は

api-standards.mdやtesting.mdのようなカスタムステアリングファイルを作成し、プロジェクト固有のニーズに対応できる 1。

2.2.4 MCP(モデルコンテキストプロトコル)統合:Kiroの知識を安全に拡張

MCPは、Kiroを外部のデータソースや専門ツールに安全に接続するためのプロトコルである 3。最も顕著な使用例はAWS Documentationサーバーであり、これによりKiroは古くなった可能性のあるモデルの学習データに頼ることなく、最新のAWSドキュメントにアクセスできる 9。

企業にとっての重要な価値は、機密情報を外部のAIサービスに送信することなく、プライベートなナレッジベース、内部API、独自のドキュメントシステムと統合できる点にある。MCPサーバーは安全な仲介役として機能する 9。MCPサーバーの設定は、Kiroの設定画面から追加できる 1。

2.3 ユーザーエクスペリエンス(UX)とエコシステム

基盤と互換性

Kiroは、VS CodeのオープンソースコアであるCode OSSを基盤として構築されている。これは、大多数の開発者にとって馴染み深い操作感を提供し、導入障壁を下げるための戦略的な決定である 3。VS Codeの設定のインポートをサポートし、Open VSXのプラグインやテーマとの互換性も有している 1。

インターフェースと機能

UIは、メインエディタ、チャットパネル、そしてスペック、フック、ステアリング、MCPを管理するための専用の「Kiro」サイドバーで構成される 18。また、UIデザインの画像やホワイトボードに描かれたアーキテクチャ図などを入力として受け取り、実装の指針とするマルチモーダル機能も備えている 4。

ユーザーからのフィードバック

初期のユーザーからは、アイコンにツールチップがない、時折UIがフリーズするといった批判も寄せられており、製品がまだプレビュー段階にあり、いくつかのQOL(Quality of Life)機能が不足していることが示唆されている 6。

2.4 プライバシー、データハンドリング、モデル利用

データポリシー

データプライバシーポリシーは明確に定義されている。プレビュー期間中および将来の無料版では、ユーザーが明示的にオプトアウトしない限り、ユーザーコンテンツ(コード、会話)がモデルのトレーニングに使用される可能性がある 19。

Pro版のプライバシー

有料のPro/Pro+版では、ユーザーコンテンツは基盤となるファンデーションモデル(FM)のトレーニングには使用「されない」 19。これは、企業やプロのユーザーにとって極めて重要な区別である。

テレメトリ

AWSはサービス改善のためにクライアントサイドのテレメトリを収集する場合があるが、これは設定で無効にすることができる 19。

利用モデル

KiroはAnthropic社のClaudeモデルを搭載しており、具体的にはSonnet 3.7とSonnet 4が言及されている。将来的にはさらに多くのモデルが選択可能になる予定である 4。

第3章 競争環境:AI IDEの比較分析

本セクションでは、Kiroを主要な競合製品と比較し、その哲学的および機能的な違いを明らかにする。

3.1 哲学的な分岐点:規範的ワークフロー vs. 拡張的支援

Kiroのスタンス

Kiroは非常に「思想を持った(opinionated)」かつ「規範的(prescriptive)」なツールである。本番環境への対応と一貫性を確保するために、構造化され標準化された開発パイプライン(要件 -> 設計 -> タスク -> コード)を強制する 6。即時のコード生成よりも計画を優先する。

競合のスタンス

GitHub Copilot、Cursor、Tabnineは、主に「拡張的(augmentative)」なツールである。これらは、開発者の既存の柔軟なワークフローを根本的に変えるのではなく、それを強化し加速させる強力なアシスタントとして機能する 20。プロセスの強制よりも、強力なツール(チャット、リファクタリング、補完)をオンデマンドで提供することに重点を置いている。

開発者心理への賭け

AIエディター市場は、二つの哲学的な陣営に分岐しつつある。CopilotやCursorのようなツールは、開発者が自身の選択したプロセスを高速化するためにAIを強力なペアプログラマーとして利用し、コントロールと柔軟性を維持したいという前提に基づいている。一方、Kiroは、「Vibeコーディング」の自由さが本番環境対応における課題を生むという前提に立ち、開発者(あるいはその管理者)が、より信頼性の高いコードを生み出す構造化された反復可能なプロセスのために、ある程度の柔軟性を犠牲にすることを受け入れるだろうという賭けに出ている 6。これは開発者の心理とチームの力学に関する根本的な賭けであり、Kiroの成功は、その強制的な構造が価値ある規律と見なされるか、それとも不便な制約と感じられるかにかかっている。

3.2 表1:主要AIエディターの機能比較分析

この表は、技術的な意思決定者が自身の優先事項(例:「オンプレミスでのセキュリティが最も優れているツールはどれか?」や「ワークフローの自動化機能が最も豊富なのはどれか?」)に基づいて迅速に比較検討できるよう、複雑で多面的な情報を一覧できるように設計されている。

機能カテゴリ Kiro GitHub Copilot Cursor Tabnine Amazon Q Developer
中核哲学 規範的:スペック駆動開発で構造化されたワークフローを強制 6 拡張的:既存のワークフローをAIで強化・加速 21 拡張的:AIファーストの思想で生産性を最大化 20 拡張的/保護的:プライバシーとコンプライアンスを最優先 22 拡張的:AWSエコシステムに特化した専門的支援 23
主要な対話モデル スペック生成、タスクベースの実装、チャット 1 チャット、コード補完、エージェントモード 21 コードベース全体を対象としたチャット、インライン編集 20 コード補完、チャット、専門エージェント 24 チャット、コード補完、セキュリティスキャン 23
コードベースコンテキスト Agent Steeringファイルで永続的なコンテキストを管理 9 リポジトリ全体をインデックス化(Enterprise版)、アクティブファイル 21 コードベース全体をインデックス化し、深いコンテキスト理解を実現 25 プライベートリポジトリで独自モデルをトレーニング可能 24 プライベートリポジトリと連携し、コンテキストを強化 23
自動化能力 Agent Hooksによるイベント駆動型のIDE内自動化 9 GitHub Actionsとの連携、Issueへのエージェント割り当て 21 大規模なリファクタリングと複数ファイルにまたがる編集 20 Jira連携、コードレビュー、テスト生成などの専門エージェント 24 Java/.NETアプリのアップグレード、テスト生成 26
セキュリティとプライバシー Pro版以上はトレーニングにデータを使用しない 19。オプトアウト可能。 Enterprise版でデータ保持ポリシーを管理 21。IP補償あり。 プライバシーモードでコードを保持しない 20。SOC 2認定。 オンプレミス/VPCデプロイ可能。コードを保持しない 22。IP補償あり。 Pro版でIP補償あり。パブリックコードの提案を抑制可能 26。
カスタマイズと拡張性 SteeringファイルでAIの振る舞いを細かく制御 9。Open VSXプラグイン対応。 プレビュー機能、モデル選択を管理者が制御 21。 複数のLLM(OpenAI, Anthropic, Gemini)を選択可能 25。 独自コードベースでプライベートモデルをトレーニング可能 24。 AWSサービスに特化したコード生成と分析 23。
エコシステム統合 AWS認証、MCPによる外部ツール連携(Figmaなど) 1 GitHubプラットフォーム(Issues, PRs, Actions)とネイティブに統合 21 VS Codeフォークだが独立したIDE。VS Code拡張機能はインポート可能 20。 多数のIDEに対応するプラグインとして提供。GitLab/Bitbucket連携 22。 AWSエコシステム(IAM, Lambda, S3等)と深く統合 28。

3.3 詳細な競合プロファイル

3.3.1 GitHub Copilot:エコシステムの覇者

コード補完ツールから、チャット、デバッグ支援、複雑なタスクやIssueを処理する「エージェントモード」を備えた本格的なAIアシスタントへと進化した 21。その最大の強みはGitHubプラットフォームへのネイティブな統合であり、プルリクエストのレビュー、Issueの割り当て、GitHubワークフロー全体の活用が可能である 21。すでにGitHubを利用しているチームにとっては「最も抵抗の少ない選択肢」と見なされている 33。最近のアップデートにより、機能面でCursorと非常に競争力が高まっているが 34、一部のユーザーからは編集の適用がCursorより遅いとの報告もある 35。

3.3.2 Cursor:AIファーストのパワーユーザー向けエディター

開発者を「並外れて生産的にする」ために構築された、VS Codeからフォークした「AIファースト」エディター 20。その際立った特徴は、複雑な複数ファイルにまたがる編集やリファクタリングのための、コードベース全体に対する深い理解力である 20。ユーザーはそのコンテキスト認識能力を「魔法のようだ」と評している 34。基盤となるモデル(OpenAI, Anthropic, Gemini)を柔軟に選択できるカスタマイズ性も魅力だ 25。一方で、新しいIDEへの切り替えをチームに要求するため、導入に摩擦が生じる可能性がある 33。また、devコンテナのような高度なVS Code機能でバグが発生することがあり 36、リクエストベースの価格設定は予測が難しく、レート制限につながる可能性がある 34。

3.3.3 Tabnine:セキュリティとプライバシーの擁護者

多数のIDE向けプラグインとして提供される、コード補完とチャットに重点を置いたAIアシスタント 22。その最大の差別化要因は、プライバシー、セキュリティ、コンプライアンスへの揺るぎない焦点である。セルフホストのオンプレミスまたはVPCデプロイオプションを提供し、コードが企業ネットワークから出ないことを保証する 22。IP責任からユーザーを保護するため、許容ライセンスのオープンソースコードのみで独自のモデルをトレーニングしている 22。さらに、企業が自社のプライベートコードベースで専用モデルをトレーニングし、高度にパーソナライズされ、コンプライアンスに準拠した提案を得ることも可能である 24。このセキュリティ第一のアプローチは、時に最新のフロンティアモデルを使用する競合他社に比べてコード生成の品質が劣るというトレードオフを生むことがある 33。

3.3.4 Amazon Q Developer:AWSネイティブのエキスパート

Amazon CodeWhispererの進化形であり、AWSエコシステムに深く統合されたAIアシスタントである 23。AWS固有の質問への回答、ベストプラクティスに関するガイダンスの提供、AWSサービス用コードの生成に優れている 28。リアルタイムのコード提案、脆弱性スキャン、機能実装やアプリケーションアップグレードのためのエージェント機能などを備えている 23。

AWSの二正面戦略

AWSは、Kiroというスタンドアロンで思想を持ったIDEを立ち上げる一方で、既存のIDEに統合されるアシスタントであるAmazon Q Developerを進化させている。この二つの製品は、同じAWSから提供されているにもかかわらず、異なる市場と哲学を対象としている。

  1. Amazon Q Developerは、既存のIDE(VS Code, JetBrainsなど)を使用する広範な開発者層をターゲットとし、その主な付加価値としてAWSに関する深い専門知識を提供する。これはGitHub Copilotと直接競合する。
  2. Kiroは、より優れた本番環境対応を約束する代わりに、新しい高度に構造化されたワークフローの採用を厭わない開発者(およびチーム)をターゲットとする。これは哲学の面でCursorのようなツールと競合する。

この二正面戦略は、AWSがAI開発の未来について両賭けしていることを示唆している。彼らは「拡張的アシスタント」モデル(Amazon Q)をサポートすると同時に、「構造化されたエージェント型IDE」モデル(Kiro)を開拓している。これにより、異なる市場セグメントを獲得し、特にエンタープライズ領域でどちらのアプローチがより多くの支持を得るかを学習することが可能になる。

第4章 戦略的含意と推奨事項

本セクションでは、ここまでの分析を実用的な洞察に統合する。

4.1 開発者アーキタイプと最適なツール選択

規制産業のエンタープライズアーキテクト

このユーザーは、セキュリティ、コンプライアンス、標準化を最優先する。

グリーンフィールドプロジェクトのリーダー(本番志向)

このユーザーは、新しい複雑なアプリケーションを開始し、長期的な保守性とチームの一貫性を重視する。

アジャイルなスタートアップ開発者(迅速なプロトタイピングとリファクタリング)

このユーザーは、迅速に行動し、実験を行い、既存の複雑なコードベース内で作業する必要がある。

AWSクラウドエンジニア

このユーザーは、AWSエコシステム内で集中的に作業する。

4.2 開発の未来:アシスタントからエージェントへ

市場は明らかに、単純なコード補完を超えて進化している。すべての主要ツールにおける「エージェント型」機能(Kiroの中核、Copilotのエージェントモード、Cursorの複雑なタスク、Tabnineの専門エージェント)の出現は、業界の大きなトレンドを示している 2。

Kiroは、このトレンドの先駆者として位置づけられるが、そのアプローチはユニークで構造化されている。他のツールがオンデマンドでエージェントを提供するのに対し、Kiroは開発体験全体を、スペックとフックによって導かれるエージェントの「周り」に構築している 1。

これが意味することは、開発者の役割が「コードの書き手」から「エージェントの監督者」へとシフトしているということである。最も価値のあるスキルは、要件を明確に定義し、システムを設計し、AIエージェントを効果的に実装へと導く能力になるだろう。Kiroのようなツールは、この新しい役割のために明確に設計されている。

4.3 最終推奨事項

Kiroの採用について

Kiroは、初期プロトタイプの最大開発速度よりも、長期的な保守性、コードの一貫性、本番環境への対応を優先するチームや組織に推奨される。構造化されたプロセスを最初から確立できるグリーンフィールドプロジェクトに最適である。その厳格な性質は、エンジニアリング規律を徹底したいチームにとっては、欠点ではなく特徴となり得る 6。

代替ツールの選択について

付録:詳細な価格とプランの比較

A.1 表2:AIエディターの価格とプラン比較

この表は、複数のベンダーから提供される複雑で頻繁に変動する価格情報を、単一の比較しやすい形式に集約する。予算と費用対効果は重要な評価基準であるため、これは意思決定者にとって不可欠な情報となる。

ツール 無料版 Pro/個人版 ビジネス/エンタープライズ版
Kiro プレビュー期間中は無料。将来的には月間50インタラクションの制限付き無料版が提供予定 7。 Pro: 月額19(1,000インタラクション/月)<br>∗∗Pro+∗∗:月額39(3,000インタラクション/月)7 エンタープライズプランの詳細は未公開 7。
GitHub Copilot 限定的な無料版あり(月間50チャット/エージェントリクエスト、2,000補完)45。 Pro: 月額10または年額100 Pro+: 月額39または年額390 45 Business: 月額19/ユーザー<br>∗∗Enterprise∗∗:月額39/ユーザー 47
Cursor Hobby: 無料版(限定的、50低速リクエスト)49。 Pro: 月額20(500高速リクエスト、無制限の低速リクエスト)<br>∗∗Ultra∗∗:月額200(Proの20倍の利用量)50 Business: 月額$40/ユーザー 50。
Tabnine Basic: 無料版(基本的なコード補完)38。 Dev: 月額12(プレビュー参加者は9)38。 Enterprise: 月額$39/ユーザー 38。
Amazon Q Developer 無料版あり(月間50エージェントリクエスト、1,000行のコード変換)26。 Pro: 月額19/ユーザー(1,000エージェントリクエスト)<br>∗∗Pro+∗∗:月額39/ユーザー(3,000エージェントリクエスト、近日提供)26 Pro/Pro+が組織向けプランを兼ねる。IAM Identity Centerサポート、IP補償など 26。

引用文献

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  2. AWS Kiro: 5 Key Features To Amazon’s New AI Coding Tool - CRN, 7月 15, 2025にアクセス、 https://www.crn.com/news/cloud/2025/aws-kiro-5-key-features-to-amazon-s-new-ai-coding-tool
  3. Introducing Kiro, 7月 15, 2025にアクセス、 https://kiro.dev/blog/introducing-kiro/
  4. Kiro: The AI IDE for prototype to production, 7月 15, 2025にアクセス、 https://kiro.dev/
  5. Amazon Launches Kiro — A Spec-Driven Vibe Coding IDE - Generative AI, 7月 15, 2025にアクセス、 https://generativeai.pub/amazon-launches-kiro-a-spec-driven-vibe-coding-ide-e8c9ce936ffe?source=rss——ai-5
  6. Amazon’s new Claude-powered spec-driven IDE (Kiro) feels like a game-changer. Thoughts? : r/ClaudeAI - Reddit, 7月 15, 2025にアクセス、 https://www.reddit.com/r/ClaudeAI/comments/1lzsvot/amazons_new_claudepowered_specdriven_ide_kiro/
  7. AWS Kiro: Another AI-Powered IDE Challenger or a Game Changer? - DEV Community, 7月 15, 2025にアクセス、 https://dev.to/onepoint/aws-kiro-another-ai-powered-ide-challenger-or-a-game-changer-1bj8
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  10. Kiro: The IDE That Plans Before It Codes by Ryan Cormack Jul, 2025 - Medium, 7月 15, 2025にアクセス、 https://medium.com/@ryancormack/kiro-the-ide-that-plans-before-it-codes-540f2483658c
  11. [AWS] We tried out the popular Kiro features, including applying rule files and implementing from an architecture diagram [KIRO] - DEV Community, 7月 15, 2025にアクセス、 https://dev.to/aws-builders/aws-we-tried-out-the-popular-kiro-features-including-applying-rule-files-and-implementing-from-54di
  12. Amazon’s NEW AI IDE is Actually Different (in a good way!) – Kiro - YouTube, 7月 15, 2025にアクセス、 https://www.youtube.com/watch?v=Z9fUPyowRLI
  13. AWS Kiro IDE: Not Just Another AI Toy for Developers - DEV Community, 7月 15, 2025にアクセス、 https://dev.to/aws-builders/aws-kiro-ide-not-just-another-ai-toy-for-developers-595h
  14. Hooks - Docs - Kiro, 7月 15, 2025にアクセス、 https://kiro.dev/docs/hooks/
  15. Steering - Docs - Kiro, 7月 15, 2025にアクセス、 https://kiro.dev/docs/steering/
  16. Model Context Protocol (MCP) - Docs - Kiro, 7月 15, 2025にアクセス、 https://kiro.dev/docs/mcp/
  17. Kiro - The New Agentic AI IDE from AWS - DEV Community, 7月 15, 2025にアクセス、 https://dev.to/aws-builders/kiro-the-new-agentic-ai-ide-from-aws-5311
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  49. Cursor AI Pricing Explained: Which Plan is Right for You? UI Bakery Blog, 7月 15, 2025にアクセス、 https://uibakery.io/blog/cursor-ai-pricing-explained
  50. A Complete Guide to Cursor’s New Pricing: Subscriptions and Request Quotas - Apidog, 7月 15, 2025にアクセス、 https://apidog.com/blog/cursor-pricing-guide/
  51. Introducing the Ultra Plan Cursor - The AI Code Editor, 7月 15, 2025にアクセス、 https://www.cursor.com/blog/new-tier
  52. Tabnine Pricing 2025, 7月 15, 2025にアクセス、 https://www.g2.com/products/tabnine/pricing
  53. Plans & Pricing Tabnine: The AI code assistant that you control, 7月 15, 2025にアクセス、 https://www.tabnine.com/pricing/
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