アナリストレポート:ブラウザベースAIエージェントの比較分析 – Cursor vs. Google Jules
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アナリストレポート:ブラウザベースAIエージェントの比較分析 – Cursor vs. Google Jules
第1章 序論:非同期AIエージェントという新たなパラダイム
1.1. Co-Pilotからエージェントへの移行
近年のソフトウェア開発におけるAIの役割は、リアルタイムでコードを補完する「共同操縦士(Co-Pilot)」から、自律的にタスクを遂行する「エージェント」へと、そのパラダイムを大きく転換させつつあります。従来のAIコーディングアシスタントが、開発者の入力に追随して一行ずつコードを提案する存在であったのに対し、新世代のAIエージェントは、複雑で多段階にわたるタスクを独立して処理する能力を持ちます。これにより、開発者のワークフローは、コードを直接記述する「オーサリング」から、タスクを委任し、その結果をレビューする「デリゲーション」へと根本的に変化しています。本レポートでは、この新しいパラダイムを代表する2つのツール、CursorとGoogle Julesのブラウザベース機能に焦点を当てます。
1.2. 比較対象の紹介
Cursor Web & Mobile Agent
Cursorは、AIを搭載した人気のコードエディタであり、その機能をデスクトップ環境から拡張するものとして「Web & Mobile Agent」をリリースしました 1。この機能により、開発者は任意のブラウザやモバイルデバイスからコーディングタスクを管理できるようになります。ただし、その位置づけはあくまで主要なデスクトップ体験の拡張機能であり、リモートからの操作を可能にするためのものです 4。
Google Jules
一方、Google Julesは、Google Labsが提供するスタンドアロンの実験的なAIコーディングエージェントです。Googleの最新モデルであるGemini 2.5 Proを搭載し 5、完全にウェブインターフェース上で動作します。GitHubと直接連携し、非同期でタスクを実行することに特化しています 7。
1.3. レポートの目的と範囲
本レポートの目的は、CursorのWeb AgentとGoogle Julesが提供するブラウザベースの機能について、深く、網羅的かつ洞察に富んだ比較分析を行うことです。ユーザーの要求に基づき、Cursorの統合開発環境(IDE)としての全機能は直接の比較対象から除外し、各プラットフォームが実現する「外出先からの操作」や「タスク委任に特化した」ワークフローに焦点を当てて検証します。
第2章 中核思想と運用モデル:コンパニオン vs. デリゲート
2.1. Cursor Web Agent:統合ワークフローのためのリモートコマンドセンター
Cursorのブラウザインターフェースは、本質的にメインのIDEに対する**コンパニオン(伴侶)**として設計されています。Cursorチームが用いる言葉は、一貫してデスクトップ環境との継続性とシームレスな引き継ぎを強調しています。例えば、「ラップトップに戻ったら、Cursorでエージェントの作業を引き継いで変更をレビューできます」2 という発言や、Adobe Fireflyのモバイル版を「完全なデスクトップ体験のコンパニオン」4 と比較している点は、この思想を明確に示しています。
意図されているユーザーのワークフローは、まずタスクをリモートで(例えば、スマートフォンや別のPCから)開始し、進捗を監視した後、詳細なレビュー、インライン編集、複雑な追加指示のために、全機能を備えたIDEへと移行するというものです 1。つまり、ウェブUIは作業場そのものではなく、作業場を遠隔操作するためのコントロールパネルとしての役割を担っています。このモデルは、複数の公式発表やドキュメントによって裏付けられています 1。
2.2. Google Jules:タスクを委任し完了を待つ「デリゲート」
対照的に、Julesは自律的なデリゲート(代理人)、あるいは「ジュニア開発者のインターン」7 のような存在として位置づけられています。プロンプトの入力からプルリクエストの作成まで、ワークフロー全体がウェブUI内で完結するように設計されています 11。ユーザーはタスクを割り当て、完成した結果を待つだけで、その過程ではエージェントが提示する計画や最終的な成果物と対話します。
具体的なワークフローは、ユーザーがGitHubリポジトリを選択し、詳細なプロンプトを記述して「Give me a plan」をクリックすることから始まります 8。するとJulesは、リポジトリを安全なGoogle Cloudの仮想マシン(VM)にクローンし 7、コードベースを分析し、承認を得るための多段階の計画を提示します。承認後、変更を実行し、最終的にGitHub上でプルリクエストを作成します 11。ここでの開発者の役割は、継続的な共同作業者ではなく、マネージャーやレビュー担当者に近いものとなります。
2.3. 「コンパニオン vs. デリゲート」パラダイムとその戦略的意味合い
CursorとJulesの違いは、単なる機能の差ではなく、AI支援の世界における開発者の役割に関する根本的な設計思想の違いにあります。この点を深く考察すると、両者の戦略的な位置づけが明らかになります。
まず、Cursorのドキュメントやマーケティング資料では、「後で作業を引き継ぐ」1、「コンパニオン」4、「Cursorで開く」9 といった言葉が一貫して使われています。これらの表現は、IDEが主要な作業環境であることを前提としており、ウェブエージェントはその衛星的な存在であることを示唆しています。一方、Julesのドキュメントやユーザーレビューでは、「自律エージェント」7 に「タスクを割り当てる」12 と表現されています。その最終的な成果物が、ソフトウェア開発における標準的な納品物であるプルリクエスト 11 であることも、Julesが独立した作業者としての役割を担っていることを補強します。
この分析から導き出されるのは、Cursorが既存のIDE中心のワークフローを拡張し、どこからでもアクセス可能にすることで、開発者が「ハンズオン」であり続けることを支援するツールであるという結論です。対してJulesは、そのワークフローの特定の部分を完全に抽象化し、AIに置き換えることを目指すツールです。
この思想的な分岐は、それぞれのツールの採用経路やターゲットとなるユースケースを決定づけるでしょう。
- Cursorは、すでにVS Codeエコシステム(CursorはVS Codeのフォークである 16)に深く根ざしており、対話的で高コンテキストなペアプログラミングのスタイルを非同期かつリモートに拡張したい個人開発者やチームに訴求します。開発者が常にプロセスに関与し続けたい、反復的な開発や複雑なリファクタリングに適しています。
- Julesは、バックログの自動化を目指すエンジニアリングマネージャーやチームにアピールします。バグ修正、依存関係の更新、新機能のボイラープレート生成といった、明確に定義された個別のタスクを、シニア開発者の主要な業務を妨げることなく処理するのに理想的です。
第3章 機能詳細:直接比較
3.1. タスクの開始とコンテキストの提供
- Cursor: ユーザーはシンプルなウェブインターフェースにタスクを直接入力します 1。コンテキストは、追加の指示や画像のアップロードによって提供できます 9。しかし、その真のコンテキスト提供能力は、ウェブエージェントの作業が最終的に消費される完全なIDEの機能、例えばファイルやドキュメントを指定する
@-symbolsや、プロジェクト固有のルールを定義する.cursorrulesファイルに依存しています 17。ウェブエージェント自体のコンテキスト提供メカニズムは、よりシンプルなものとなっています。 - Jules: ユーザーは、選択したリポジトリとブランチに対して、明確で具体的なプロンプトを記述します 8。Julesのユニークな特徴として、リポジトリのルートにある
AGENTS.mdファイルを自動的に読み込み、プロジェクトのツールや規約を理解する能力が挙げられます。これにより、ドメイン固有のコンテキストを構造的に注入することが可能です 8。また、ユーザーはVMの環境設定スクリプトを提供することもできます 8。
3.2. 実行、計画、および人間の監視
- Cursor: プロンプトが送信されると、エージェントは即座に作業を開始します 1。比較のために、異なるモデルを使用して複数のエージェントを並行して実行することも可能です 1。主要なレビューメカニズムは差分(diff)表示であり、ウェブアプリから直接プルリクエストを作成・マージする機能も備わっています 1。ワークフローは、より詳細な制御のためにデスクトップエディタへシームレスに引き継げるよう設計されています 9。
- Jules: 厳格な「計画-承認-実行」サイクルを採用しています。プロンプトを受け取ると、Julesはまず変更対象のファイルとその理由を概説した詳細な計画を作成し、コードを記述する前にユーザーの承認を求めます 6。これは、プロセスに人間が介在する重要なチェックポイントとなります。一部のユーザーからは、Julesが自身の計画を自動承認することがあるとの報告もあり、これはベータ段階のバグか、あるいは積極的なデフォルト設定である可能性が指摘されています 20。最終的な納品物はプルリクエストです 11。
3.3. コラボレーションと統合
- Cursor: 明確で強力なチームコラボレーション機能を備えています。リポジトリへのアクセス権を持つチームメンバーは、エージェントの差分やPRをレビューできます 2。最も注目すべきは、Slackとの深い統合です。チームはSlackの会話内で
@Cursorとタグ付けすることでエージェントを起動でき、タスク完了通知を受け取ることも可能です 1。 - Jules: コラボレーションは、標準的なGitHubのワークフローを中心に構築されています。最終的なアウトプットがPRであるため、GitHubにおける既存のチームレビュープロセスが自然に適用されます。タスク完了時にはブラウザ通知を提供します 8。将来的な機能として、GitHubのIssueで「assign-to-jules」ラベルを付けることでタスクを割り当てる機能が言及されています 11。
3.4. 表1:機能詳細比較マトリクス
以下の表は、議論された機能的な違いを要約したものです。これにより、技術リーダーは自チームの既存のワークフローやニーズにどちらのツールがより適しているかを迅速に評価できます。
機能カテゴリ | Cursor Web & Mobile Agent | Google Jules | |
---|---|---|---|
タスク開始 | ウェブ/モバイルUIでの自然言語プロンプト 1 | ウェブUIで特定のリポジトリ/ブランチに対する自然言語プロンプト 8 | |
コンテキスト提供 | 追加指示、画像アップロード 9。引き継ぎ時にIDEの全コンテキスト( | .cursorrules等)を活用 18 | プロジェクト固有の指示のためのAGENTS.mdファイル 8。オプションの環境設定スクリプト 8 |
実行モデル | 非同期のバックグラウンドタスク 4 | 専用のGoogle Cloud VMで実行される非同期タスク 7 | |
計画フェーズ | エージェントは内部で計画。ユーザーは作業中の進捗と最終的な差分を確認。ウェブUIに明確な事前承認ステップなし 23 | 必須の計画レビュー:実行前にユーザーの承認が必要な多段階計画を生成 11 | |
人間の監視 | 実行後の差分レビュー 1。詳細な制御のためにIDEへ引き継ぎ 9 | 実行前の計画承認 11。実行後のGitHubでのPRレビュー 14。プロセス中のユーザーによる軌道修正が可能 6 | |
並列処理 | 複数のエージェントを並行実行可能(異なるモデルでの比較も可) 1 | 複数のタスクを同時に実行可能(ベータ版では最大5つ) 7 | |
主要アウトプット | コード変更(差分)、プルリクエスト 1 | 新しいブランチを持つGitHubプルリクエスト 11 | |
チームコラボレーション | Slackとの深い統合:Slackからエージェントを起動し通知を受信 1。エージェント実行への共有リンク 9 | GitHubネイティブ:標準的なPRレビュープロセスに依存。将来的にGitHub Issueラベルとの統合を計画 11 | |
独自機能 | ネイティブ風モバイル体験のためのPWA 2。複数モデルでの比較 1 | 変更内容の音声サマリー 6。 | AGENTS.mdコンテキストファイル 8 |
第4章 「ブラウザ操作」の解体:コードベース管理 vs. ウェブオートメーション
4.1. ユーザーの暗黙的な問い
「ブラウザ操作」という言葉には本質的な曖昧さが伴います。ユーザーがこの言葉を聞いたとき、MultiOnやAdeptのようなエージェントが行う、一般的なウェブサイトの操作(データ収集、フォーム入力など)を合理的に期待する可能性があります。このセクションでは、その曖昧さを解消します。
4.2. 現実:コードベース操作のためのウェブUI
調査資料は、CursorのWeb AgentとJulesの両方が、ウェブUIを持つコードベースエージェントであることを圧倒的に示しています。これらのツールの操作領域は、GitHubリポジトリのクローンを含むサンドボックス環境内に限定されており、一般的なインターネット上で動作するわけではありません。
CursorのWeb & Mobile Agentに関するドキュメントは、「バグ修正」「新機能の構築」「プルリクエストの管理」といったタスクに完全に焦点を当てており 2、一般的なウェブブラウジング機能については一切言及がありません。同様に、JulesはGitHubプロジェクトと統合し、コードベースをVMにクローンしてコーディングタスクを実行するものとして明確に説明されており 7、一般的なブラウザオートメーションに関する主張は公式ドキュメントやサイトには見当たりません 8。
4.3. 混乱の源泉:AIによるテスト自動化コードの生成
この混乱は、完全版のCursor IDEがPlaywrightやSeleniumのようなブラウザ自動化フレームワークのコードを生成する能力に起因する可能性が高いです 25。開発者はエージェントに「Playwrightのテストを作成して」と指示することができ、エージェントは必要なテストスクリプトを記述します 25。このスクリプトが実行されると、ブラウザが制御されます。
ここで重要なのは、AIエージェントがブラウザの自動化を実行しているのではなく、自動化を実行するコードを記述しているという点です。これは極めて重要な区別です。エージェントのスキルは、テストフレームワークのAPIとアプリケーションの構造を理解し、有効なテストコードを作成する能力にあります。
4.4. マーケティングの課題と将来のロードマップへの示唆
「ブラウザで動作するエージェント」と「ブラウザを自動化するエージェント」との間のこの曖昧さは、Anysphere社とGoogle社にとって、ユーザー教育とマーケティングにおける重大な課題を提示しています。ユーザーの期待を管理することは、失望を防ぐための鍵となります。
この期待と技術的現実との間の乖離は、明確なドキュメントとマーケティングを通じて積極的に対処されなければ、ユーザーの不満につながる可能性があります。この区別はまた、これらのツールにとって論理的かつ強力な将来の進化の方向性も示唆しています。真の「エンドツーエンド」のコーディングエージェントは、コードを書くだけでなく、それを実行し、ライブのウェブ環境で結果を観察し(例:「ボタンの位置がずれている」)、その視覚的なフィードバックに基づいてコードを反復修正するでしょう。これは、コードベースエージェントから真のソフトウェア開発エージェントへの橋渡しとなります。Geminiに関して言及されている「Computer Use API」27 は、Googleのエコシステムにおけるこの将来の方向性を示唆している可能性があります。
第5章 アーキテクチャの基盤と技術スタック
5.1. Cursor:柔軟なマルチモデル・オーケストレーションエンジン
- アーキテクチャ: Cursorのエージェントは、「Pocket Flow」に代表される独自のフローベースアーキテクチャ上に構築されています。これはノード、フロー、共有データストアのシステムを利用し、複雑で多段階の推論を可能にします 28。エージェントは、ファイル操作、検索、ターミナルコマンドの実行など、一連のツールにアクセスできます 23。
- 技術スタック: 主な差別化要因は、モデルに依存しないアプローチです。CursorはOpenAI(GPTシリーズ)、Anthropic(Claudeシリーズ)、Google(Geminiシリーズ)、xAI(Grokシリーズ)との「複数年にわたるパートナーシップ」を活用し、これらのモデルへのアクセスを提供します 1。これにより、ユーザーはタスクに最適なモデルを選択したり、比較のために並行して実行したりすることが可能です 1。バックグラウンドエージェントは、AWSインフラ上の隔離されたVMで実行されます 22。
5.2. Jules:垂直統合されたGemini搭載のモノリス
- アーキテクチャ: Julesはより直接的でシンプルな前提で動作します。ユーザーのリポジトリを安全なGoogle Cloud VMにクローンし 7、推論、計画、コード生成のプロセス全体が単一の強力なモデルによって処理されます。
- 技術スタック: Julesは、Googleのフラッグシップ・マルチモーダルモデルであるGemini 2.5 Proによって独占的に駆動されます 7。この緊密な垂直統合により、Googleは基盤となるクラウドインフラやTPUからモデル固有の能力まで、スタック全体をコーディングタスクに最適化できます。これにより、コード変更の音声サマリー生成といったユニークな機能が実現可能になります 6。
5.3. 「エコシステム vs. モノリス」戦略とそのトレードオフ
CursorとJulesのアーキテクチャ選択は、古典的な戦略的二分法を体現しています。Cursorが水平的なプラットフォーム、すなわち「AIオーケストレーター」を構築しているのに対し、Googleは垂直統合されたソリューションを構築しています。
Cursorが複数のモデルプロバイダーを利用し 1、柔軟な内部フレームワークを採用していること 28 は、選択肢を提供し、基盤モデルの上にインテリジェントなレイヤーとして機能するという戦略を明確に示しています。一方、JulesがGemini 2.5 Pro 11 とGoogle Cloud VM 13 に独占的に依存していることは、緊密に制御されたエンドツーエンドのエコシステムの独自の強みを活用する戦略を示唆しています。
これは基本的なビジネスおよび技術的な決定です。Cursorはモデルの性能に関してリスクを分散し、常に最新の「最良」モデルへのアクセスを提供できるようにしています。Googleは、自社の最良モデルとの深い統合が、マルチモデルアプローチでは再現不可能な優れた性能とユニークな機能を生み出すという賭けに出ています。
この選択は、プラットフォームを選ぶ開発者や企業にとって重大な意味を持ちます。
- Cursorを選択することは、Anysphere社のエージェントフレームワークと、サードパーティモデルを効果的にオーケストレーションする能力への賭けです。柔軟性を提供し、単一のAIプロバイダーへの依存を減らします。しかし、異なるモデル間で一貫した品質と性能を確保する上で課題に直面する可能性があります。
- Julesを選択することは、GoogleのAIスタック全体への賭けです。深い最適化とユニークで統合された機能の可能性を提供します。リスクは、Googleエコシステムへのロックインと、Geminiモデルファミリーの継続的な競争力への依存です。
第6章 価格、アクセシビリティ、および利用モデル
6.1. Cursor:階層型利用料を伴うサブスクリプションベースのアクセス
- アクセシビリティ: Web & Mobile Agent機能は、無料の「Hobby」プランでは利用できません。「Proトライアルまたは従量課金が有効な有料プラン」が必要です 9。無料プランは少数のリクエストに制限されており、試用を目的としています 33。
- 価格モデル: Cursorは階層型のSaaSサブスクリプションモデルを採用しています。
- Pro: 月額20ドルで、レート制限付きの「無制限」エージェントリクエストを提供 33。
- Ultra: 月額200ドルで、Proプランの20倍の利用レート制限を提供 1。
- Team/Enterprise: 追加の管理・セキュリティ機能を備えたカスタム価格 33。
- 利用システム: システムは複雑です。「リクエスト」が通貨単位となり、モデルによって消費されるリクエスト数が異なります 37。大規模なコンテキストを扱う「Max Mode」はさらに高価で、トークン数に基づいて課金されます 31。これは、Proプランの「無制限」が、実際にはより強力なモデルに対するレート制限によって制約されることを意味します 39。
6.2. Jules:将来的な収益化を見据えた無料パブリックベータ
- アクセシビリティ: Julesは現在、無料のパブリックベータとして提供されており、GoogleとGitHubのアカウントを持つ開発者であれば誰でもグローバルに利用できます 21。
- 価格モデル: 現在は無料です。Googleは、製品が成熟するにつれて「将来的に価格設定を導入する予定」であると明言しています 6。
- 利用システム: 無料ベータには寛大ですが、厳格な制限があります。ユーザーは通常、1日あたり5〜60タスク(情報源により異なるが、初期制限として5、文書上の日次上限として60が最も一般的)が許可され、最大5つのタスクを同時に実行できます 12。失敗したタスクやタイムアウトしたタスクもこの日次クォータにカウントされる可能性があり、これは初期の利用者にとって大きな問題点となっています 41。
6.3. 表2:価格と利用制限の比較
項目 | Cursor Web & Mobile Agent | Google Jules |
---|---|---|
アクセシビリティ | 有料プラン(Pro, Ultra, Team)またはProトライアルが必要。無料のHobbyプランでは利用不可 9 | パブリックベータ期間中は無料。GoogleとGitHubのアカウントが必要 21 |
価格モデル | 階層型SaaSサブスクリプション:Pro($20/月)、Ultra($200/月)、Team($40/ユーザー/月)34 | 現在は無料。将来的な価格設定は未定だが、Google Cloud課金との統合が予想される 6 |
主要な利用単位 | リクエスト。コストはモデルにより変動。「無制限」プランはプレミアムモデルのレート制限対象 31 | タスク。プロンプトからPRまでの一連の割り当て 20 |
無料枠の制限 | ウェブエージェントには適用外。IDEの無料枠は非常に限定的(例:50回の低速プレミアム利用)36 | 寛大なベータ制限:合計60タスク/日、5つの同時タスク 24。新規ユーザーには5タスク/日の実質的制限の報告あり 20 |
有料枠の制限 | Pro:「無制限」リクエスト(レート制限あり)。Ultra:Proの20倍のレート制限 1 | N/A(有料プランは未提供) |
コスト要因 | サブスクリプション階層。プレミアムモデルや「Max Mode」の多用はアップグレードや従量課金を要する場合がある 31 | 将来のコストは、他のGoogle Cloudサービス同様、コンピューティング利用(VM時間)とGemini APIコールに基づく可能性が高い |
6.4. 価格設定に反映されたコアビジネス戦略
これら二つの異なる価格戦略は、親会社のコアビジネスモデルを直接反映しています。Anysphere社(Cursor)はプロダクト主導の企業であり、その主要な収益源はソフトウェアのサブスクリプションです。そのため、その価格設定は機能と利用量に対する直接的な金銭の対価となっています 34。
一方、Googleはインフラストラクチャと広告の企業です。Julesの主要な目的は、直接的な収益創出ではなく、戦略的な市場獲得にある可能性が高いです。強力なツールを無料で提供することで、Googleは自社のGeminiモデルとGoogle Cloudプラットフォームの大量採用を促進し、中核であるインフラビジネスを通じた将来の収益化への道筋を作ることができます。
開発者はJulesの「無料」というラベルに注意を払うべきです。現在は魅力的ですが、これは古典的な「ランド・アンド・エクスパンド」戦術です。長期的なコストは、直接的な従量課金制か、あるいはGoogle Cloudエコシステムへのより深いロックインを通じて、大きなものになる可能性があります。GoogleがGemini APIの無料枠を縮小してきた過去 44 は、教訓的な事例として役立ちます。Cursorの価格設定は、より透明性が高く予測可能ですが、即時の金銭的コミットメントを必要とします。
第7章 戦略的分析と提言
7.1. ターゲットとなる開発者像とユースケース
- Cursorは「パワーユーザー」と「反復型開発者」向け: IDE内で生活し、緊密なフィードバックループを重視し、ハンズオンであり続けたいと願い、複雑なマルチファイルのリファクタリングを行う必要がある開発者 45。ウェブエージェントは、メインの作業環境から離れているときの継続性のニーズに応えます。
- Julesは「デリゲーター」と「バックログマネージャー」向け: 明確に定義された自己完結型のタスク(例:「このバグを修正」「この機能を追加」「依存関係を更新」)を委任し、完成した作業をPRとしてレビューしたいエンジニアリングマネージャーや開発者 7。チケットを処理するアジャイルなワークフローによく適合します。
7.2. 相対的な強みと弱み
- Cursorの強み: 柔軟性(マルチモデル)、強力なIDE統合(ウェブエージェントの作業の最終目的地)、強力なチームコラボレーション機能(Slack)、パワーユーザー向けの成熟した機能セット 16。
- Cursorの弱み: 参入障壁の高さ(ウェブエージェントには有料プランが必要)、複雑な価格設定、そしてその「コンパニオン」的な性質から、スタンドアロンのソリューションとしては不十分である点。
- Julesの強み: 「タスクを委任して完了を待つ」モデルのシンプルさ、ゼロコストでの参入、Gemini 2.5 Proとの緊密な統合による最適化されたパフォーマンスの可能性、そして明確で監査可能な「計画-承認-PR」ワークフロー 11。
- Julesの弱み: 単一のAIプロバイダーへの賭けであること、現在はベータ版で信頼性の問題があること 41、Slackのような豊富なサードパーティ統合の欠如、そして将来の価格が未知数である点。
7.3. 市場での位置づけと将来展望
- Cursor: AIネイティブ開発のためのプレミアムで機能豊富な「プロツール」としての地位を確立しつつあります。その将来は、オーケストレーション能力を深化させ、より多くのツールを追加し、開発者のワークフロー全体を覆う事実上のインテリジェントレイヤーになることにあります。最近のWeb & Mobileのローンチは、この力をユビキタスにするための一歩です 1。
- Jules: ソフトウェア開発ライフサイクルにGeminiを深く組み込むためのGoogleの戦略的な一手です。その将来は、Google CloudおよびFirebaseエコシステム全体とのより緊密な統合へと向かい 48、単なるエージェントからGoogleのPaaS/SaaSオファリングの中核コンポーネントへと進化していくでしょう。
7.4. 行動喚起的な提言
- VS Codeに深く投資し、ワークフローの増強を求めるチームへ: Cursorを選択すべきです。 VS Codeのフォークとしての慣れ親しんだ環境とその「コンパニオン」哲学は、スムーズに統合されるでしょう。Slack統合は、協調的なチームにとって大きなボーナスです。そのコストは、提供される深く反復的な制御によって正当化されます。
- バックログの自動化と個別タスクの委任を目指すチームや個人へ: Julesから始めるべきです。 その無料で高機能なベータ版は、エージェントによる委任を試すためのリスクのない方法です。シニア開発者の時間を消費することなく、バグのバックログを整理したり、新機能のボイラープレートを生成したりするのに最適です。
- コストを意識する個人開発者へ: 今はJulesで実験し、将来的にはCursorのようなツールに予算を割くことを検討すべきです。 Julesは今日、無料で絶大な価値を提供します。しかし、将来の収益化に備える必要があります。CursorのProプランのような有料ツールは、より予測可能な長期的なコスト構造と豊富な機能セットを提供します。
- 最終的な結論: どちらのツールが「優れているか」ではなく、どちらの運用哲学があなたの目標に合致しているかが選択の基準となります。AIに常にそばにいる超強力なペアプログラマーであってほしいなら、Cursorを使用してください。AIにチケットを割り当てられるジュニア開発者であってほしいなら、Julesを使用してください。
引用文献
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- Cursor on Web and Mobile Cursor - The AI Code Editor, 7月 1, 2025にアクセス、 https://www.cursor.com/blog/agent-web
- Cursor releases Web version of AI coding tool, expanding to browsers and mobile devices, 7月 1, 2025にアクセス、 https://www.aibase.com/news/19368
- Cursor Comes to the Web and Mobile - Thurrott.com, 7月 1, 2025にアクセス、 https://www.thurrott.com/dev/322781/cursor-comes-to-the-web-and-mobile
- Google crowns Jules to be its agent and spreads the AI love - The Register, 7月 1, 2025にアクセス、 https://www.theregister.com/2025/05/21/google_crowns_jules_to_be/
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- Google Jules: A Guide With 3 Practical Examples - DataCamp, 7月 1, 2025にアクセス、 https://www.datacamp.com/tutorial/google-jules
- Getting started Jules, 7月 1, 2025にアクセス、 https://jules.google/docs
- Web & Mobile Agent - Cursor, 7月 1, 2025にアクセス、 https://docs.cursor.com/get-started/web-and-mobile-agent
- Introducing Cursor on Web & Mobile - Announcements, 7月 1, 2025にアクセス、 https://forum.cursor.com/t/introducing-cursor-on-web-mobile/111183
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- Google Jules: An Asynchronous Coding Agent Explained - Habr, 7月 1, 2025にアクセス、 https://habr.com/en/articles/915534/
- Meet Jules: Google’s Asynchronous AI Coding Agent Transforming Software Development by Umesh Tharuka Malaviarachchi May, 2025 Medium, 7月 1, 2025にアクセス、 https://medium.com/@umeshtharukamalaviarachchi/meet-jules-googles-asynchronous-ai-coding-agent-transforming-software-development-2c4467c6245f
- Jules - Google’s coding agent : r/singularity - Reddit, 7月 1, 2025にアクセス、 https://www.reddit.com/r/singularity/comments/1kqkfvw/jules_googles_coding_agent/
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- Cursor AI: An In Depth Review in 2025 - Engine Labs Blog, 7月 1, 2025にアクセス、 https://blog.enginelabs.ai/cursor-ai-an-in-depth-review
- Introduction - Cursor Docs, 7月 1, 2025にアクセス、 https://docs.cursor.com/get-started/introduction
- How I Built an App with Cursor AI Agent for the First Time (the Good, the Bad, and the Drama) - DEV Community, 7月 1, 2025にアクセス、 https://dev.to/katya_pavlopoulos/how-i-built-an-app-with-cursor-ai-agent-for-the-first-time-the-good-the-bad-and-the-drama-168o
- Need Advice: Is Cursor AI Reliable for Production-Grade Code Reviews? - Discussions, 7月 1, 2025にアクセス、 https://forum.cursor.com/t/need-advice-is-cursor-ai-reliable-for-production-grade-code-reviews/108448
- Google’s Jules AI coding agent built a new feature I could actually ship - while I made coffee, 7月 1, 2025にアクセス、 https://www.zdnet.com/article/googles-jules-ai-coding-agent-built-a-new-feature-i-could-actually-ship-while-i-made-coffee/
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- Background Agents - Cursor Docs, 7月 1, 2025にアクセス、 https://docs.cursor.com/background-agent
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- Gemini free tier rate limits slashed again : r/Bard - Reddit, 7月 1, 2025にアクセス、 https://www.reddit.com/r/Bard/comments/1lj4wdp/gemini_free_tier_rate_limits_slashed_again/
- Best model for refactoring - Discussion - Cursor - Community Forum, 7月 1, 2025にアクセス、 https://forum.cursor.com/t/best-model-for-refactoring/91841
- Cursor vs GitHub Copilot: Which AI Coding Assistant is better? - Builder.io, 7月 1, 2025にアクセス、 https://www.builder.io/blog/cursor-vs-github-copilot
- Keep failing in jules(gemini code agent) : r/Bard - Reddit, 7月 1, 2025にアクセス、 https://www.reddit.com/r/Bard/comments/1kqt76l/keep_failing_in_julesgemini_code_agent/
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