Zscaler 調査レポート
1. 基本情報
- ツール名: Zscaler (Zero Trust Exchange)
- ツールの読み方: ジースケラー
- 開発元: Zscaler, Inc.
- 公式サイト: https://www.zscaler.com/
- 関連リンク:
- レビューサイト: G2 | Capterra | Gartner Peer Insights
- カテゴリ: CDN/セキュリティ
- 概要: Zscalerは、従来の境界防御型セキュリティから脱却し、ユーザー、デバイス、アプリケーションを直接かつ安全に接続するクラウドネイティブなゼロトラスト・セキュリティ・プラットフォームです。ZIA (Secure Internet Access) や ZPA (Secure Private Access) を中核に、サイバー脅威からの保護とデータ損失の防止を実現します。
2. 目的と主な利用シーン
- 解決する課題: 従来のVPNによるパフォーマンス低下とセキュリティリスクの解消、クラウド移行・ハイブリッドワークに伴う境界防御の限界への対応、ランサムウェア等の高度なサイバー攻撃の防御。
- 想定利用者: 企業のCISO、ITインフラストラクチャ管理者、ネットワークおよびセキュリティエンジニア。
- 利用シーン:
- リモートワーカーから社内(プライベート環境)のアプリケーションへの安全なVPNレス・アクセス(ZPA)
- インターネットやSaaSアプリケーション利用時のサイバー脅威からの保護とDLPによる情報漏洩対策(ZIA)
- M&A(企業の合併・買収)時のITインフラ統合における、ネットワークを結合させない安全なアクセス提供
- IoTおよびOT(制御技術)デバイスのセキュアなリモートアクセスとセグメンテーション
3. 主要機能
- Zscaler Internet Access (ZIA): セキュアWebゲートウェイ(SWG)として機能し、クラウドネイティブなサイバー脅威防御とゼロトラストアクセスにより、インターネットおよびSaaSアプリを安全に利用する機能。
- Zscaler Private Access (ZPA): ネットワークベースのVPNに代わるZTNA(Zero Trust Network Access)ソリューション。ユーザーをネットワーク全体ではなく特定のアプリケーションにのみ接続し、ラテラルムーブメント(横展開)を防止。
- Zscaler Digital Experience (ZDX): エンドユーザーのデバイスからネットワーク、アプリケーションに至るまでの通信経路全体を可視化し、パフォーマンスのボトルネックを特定してデジタル体験を最適化する機能。
- Cloud Data Security / DLP: Web、メール、エンドポイント全体のデータ損失防止(DLP)を統合的に管理し、機密データを保護する。
- AI Security & Zero Trust + AI: AIアプリケーションへの安全なアクセスの確保、AIシステムとプロンプトの強化、インテリジェントな資産管理や脅威分析を行うAI特化型のセキュリティ機能。
- Zero Trust Cloud / Branch: クラウドワークロードの保護、マイクロセグメンテーション、ゼロトラストSD-WANにより、データセンターからクラウド、ブランチ(支社)までの通信を保護。
4. 開始手順・セットアップ
- 前提条件:
- サポート対象のOS(Windows、macOS、Linux、iOS、Android)
- IDプロバイダー(IdP)(Entra ID (Azure AD), Okta 等)によるSAML統合
- インストール/導入:
- エンドポイントへのZscaler Client Connectorの展開(MDMツールを使用した一括展開が一般的)
- 初期設定:
- 管理ポータル(Zscaler Cloud Portal)でのネットワークトラフィックの転送設定(GRE、IPsec、PACファイル等)
- IdP連携によるユーザーとグループのプロビジョニング設定
- ポリシー(アクセス制御、DLP、マルウェア対策)の設定と適用
- クイックスタート:
- Zscaler Client Connectorを端末にインストールし、IdP経由で認証することで、ユーザーのトラフィックが自動的にZscalerクラウドを経由し、保護が有効になります。
5. 特徴・強み (Pros)
- 世界最大規模のインライン・セキュリティクラウド: 1日あたり5000億件以上のトランザクションを処理する巨大なインフラにより、高速かつスケーラブルなセキュリティを提供。
- 真のゼロトラスト・アーキテクチャ: VPNのようにネットワークレベルでのアクセスを許可せず、アプリケーションごとの細かなアクセス制御を実現するため、セキュリティ侵害の横展開を効果的に防ぐ。
- 包括的なSSE/SASE機能: SWG, ZTNA, CASB, DLP, デジタル体験監視(ZDX)などの多様な機能を単一のプラットフォームで統合して提供。
- 優れたAI活用と脅威防御: 膨大なクラウドデータセットを活用したインテリジェントな脅威防御(ThreatLabz)や、AI Asset Managementなど最先端のセキュリティ機能をいち早く実装。
6. 弱み・注意点 (Cons)
- 導入・運用の複雑さ: 機能が非常に多岐にわたるため、初期のネットワークアーキテクチャ設計やポリシーの最適化に専門知識が必要となり、導入のハードルが高い。
- コスト: エンタープライズ向けに設計されており、多機能な分、中小企業にとっては高額な投資となる場合がある。
- インターネット接続への依存: すべてのトラフィックがZscalerクラウドを経由するため、Zscalerの障害や通信遅延が直接的にユーザーの業務パフォーマンス(特に一部の通信環境下)に影響を及ぼすリスクがある。
- 日本語対応: UIや公式ドキュメントは日本語に対応しているが、最新機能や一部の高度な技術文書は英語が先行する傾向がある。
7. 料金プラン
Zscalerはライセンス体系を公開していませんが、業界の調査(UnderDefense等)に基づく2026年現在の一般的な目安は以下の通りです。(※環境や契約規模、代理店により大きく異なります)
| プラン/モジュール名 | 料金 (目安) | 主な特徴 |
|---|---|---|
| ZIA (Internet Access) | $72〜$325+/ユーザー/年 | エントリーレベルからフルエンタープライズ機能(高度な脅威防御やCASB等)まで段階的に提供。 |
| ZPA (Private Access) | $140〜$375+/ユーザー/年 | ベーシックなアクセス制御から、高度なセキュリティ機能を含むフルアクセス制御まで。 |
| ZDX (Digital Experience) | 約$2〜$5/ユーザー/月 | オプションのアドオンとして提供されるパフォーマンス可視化ツール。 |
- 課金体系: ユーザー数に基づく年間サブスクリプション。ZIA, ZPA等の各種サービスのエディション(機能レベル)とアドオンの組み合わせにより価格が決定する。
- 無料トライアル: セキュリティ・リスクアセスメントやデモ、PoC(概念実証)を通じて評価可能。
8. 導入実績・事例
ZscalerはGlobal 2000企業の40%に利用されています。
- 導入企業: MGM Resorts International, United Airlines, NOV, Siemens など多数
- 導入事例:
- MGM Resorts International (エンタメ・ホスピタリティ): 70,000人の従業員と31のリゾートに対して、ゼロトラストアーキテクチャによりセキュリティと生産性を強化。
- Siemens (製造業): 192カ国、36万人の従業員規模で、真のゼロトラストエンタープライズになることでデジタル・トランスフォーメーション(DX)を加速。
- United Airlines (航空・運輸): 8万人以上の従業員と世界350以上の拠点を繋ぎ、進化する脅威を検知・ブロックするためにZscalerを導入。
- 対象業界: 医療、金融、製造、教育、政府・公共部門(US Federal/State, オーストラリア政府等)など幅広い業界に対応。
9. サポート体制
- ドキュメント: Zscaler Help Portal にて、詳細な設定ガイド、トラブルシューティング、リリースノートが包括的に提供されている(https://help.zscaler.com/)。
- コミュニティ: Zenith Community (https://community.zscaler.com/) や、デジタルとゼロトラストの先駆者の声を広めるプラットフォーム「CXO Revolutionaries」などの活発なユーザーコミュニティが存在する。
- 公式サポート: サポートチケットシステム(Zscaler Cloud Portal)を通じたカスタマーサクセスセンターからの技術サポート、および電話サポートを提供。セキュリティインシデントへの対応やアドバイザリーアップデートも充実。
10. エコシステムと連携
10.1 API・外部サービス連携
- API: Zscalerは堅牢なREST APIを提供しており、自動化、ログ抽出、ポリシーの動的更新などの運用管理をプログラムで行うことが可能。
- 外部サービス連携: SIEM/SOARプラットフォームとの連携によるログ統合、IdPとの認証連携、MDM/UEMソリューションとのデバイス統合など、多岐にわたる。
10.2 技術スタックとの相性
| 技術スタック・パートナー | 相性 | メリット・推奨理由 | 懸念点・注意点 |
|---|---|---|---|
| Microsoft (Entra ID / Intune) | ◎ | 緊密なテクノロジーパートナーシップ。ユーザープロビジョニングや条件付きアクセスの統合が非常にスムーズ。 | 特になし。 |
| CrowdStrike | ◎ | エンドポイントセキュリティとのネイティブ連携。ゼロトラストアセスメントデータの共有により、動的なアクセス制御を実現。 | 連携設定の初期設計が必要。 |
| Okta | ◎ | IdPとしての標準的な連携先。SAML/SCIMによる認証およびユーザー管理の自動化が容易。 | 特になし。 |
| AWS / Azure / GCP | ◯ | マルチクラウド環境へのセキュアなアクセス経路(Cloud Connector等)を提供。 | クラウドごとのルーティング設計やインフラチームとの調整が必須。 |
| Rubrik / SAP | ◯ | 公式のテクノロジーパートナーとしてエコシステムに組み込まれており、セキュアなデータ保護や業務アプリへのアクセスを実現。 | 特定業務システムに合わせたポリシーチューニングが必要。 |
11. セキュリティとコンプライアンス
- 認証: SAML 2.0をサポートし、多要素認証(MFA)をIdP側で処理した上でセキュアなシングルサインオン(SSO)環境を提供。
- データ管理: グローバルに分散されたデータセンターでトラフィックをインライン処理。Webやメール、エンドポイント向けの高度なDLP機能を実装。
- 準拠規格: NISTのガイドラインへの準拠(NCCoE選定)、ISO27001, SOC2, 各国の政府基準(FedRAMP, IRAPなど)といったグローバルなセキュリティ・コンプライアンス要件を満たしている。
12. 操作性 (UI/UX) と学習コスト
- UI/UX: クラウド管理ポータルは直感的なダッシュボード(Executive Insights等)を備え、脅威の可視化やポリシーの管理を一元的に行える。ただし、メニュー階層が深く設定項目が多いため、全容を把握するには慣れが必要。
- 学習コスト: プラットフォーム全体をマスターするための学習コストは高い。Zscaler Cyber Academy等のトレーニングプログラムを活用することが推奨される。
13. ベストプラクティス
- 効果的な活用法 (Modern Practices):
- 境界型VPNを段階的に廃止し、IdPおよびエンドポイントセキュリティ(例: CrowdStrike)と連携したコンテキストベースのZPAアクセス制御に移行する。
- デジタル体験監視(ZDX)を活用し、ネットワーク遅延の切り分けとリモートワーカーのトラブルシューティングを迅速化する。
- 陥りやすい罠 (Antipatterns):
- 既存のネットワーク構成(IPアドレスベースのルーティング)の考え方をそのままZscalerのポリシーに持ち込むこと。ユーザーとアプリケーションの識別ベースへの発想の転換が必要。
- クラウドプロキシに大量の非標準トラフィックを無理に流し込み、パフォーマンスの低下やセッション切れを引き起こすこと(必要に応じたバイパス設定が重要)。
14. ユーザーの声(レビュー分析)
- 調査対象: G2, Capterra, Gartner Peer Insights
- 総合評価: 4.6/5.0 (G2, 42件のレビュー) / 4.4/5.0 (G2全体, 433件の評価)
- ポジティブな評価:
- 「Zscalerを使用することで、VPNなしで社内リソースにアクセスでき、非常に簡単かつ高速で満足している。」(Capterraより引用)
- 「エンドユーザーの生産性を高めると同時に、サイバー脅威から強力に保護する使いやすさが素晴らしい。」(G2より引用)
- カスタマーサポートが優れており、教育されたスキルを持つ従業員がプロセス全体を伴走してくれる点。
- ネガティブな評価 / 改善要望:
- 一部の環境(ネットワーク接続が不安定な場合など)でパフォーマンスの低下や予期せぬ切断が発生することがある。
- 「設定やコンフィギュレーションが複雑であり、特に導入初期のトラブルシューティングが難しい。」
- 小規模組織にとっては価格設定が高額に感じられる。
- 特徴的なユースケース:
- コロナ禍を契機としたリモートワーク体制の構築時に、従来のWebプロキシからゼロトラストモジュールへと段階的に拡張し、全社的な基本インフラとして定着させている事例。
15. 直近半年のアップデート情報
ZscalerはAI技術の統合や最新の脅威レポートの公開を積極的に行っています。
- 2026-03: 「ThreatLabz 2026 AI Security Report」を公開。AIの採用拡大に伴うセキュリティギャップやサプライチェーンリスク、AIの脅威に対するレポートを発表。
- 2026-02: 「Zscaler ThreatLabz 2026 VPN Risk Report (Cybersecurity Insiders共催)」を公開。VPNの脆弱性に関するリスクレポートを提供。
- 2025-11: Gartner Peer Insights “Voice of the Customer” の SSE (Security Service Edge) 部門で、Zscalerが2025年のCustomers’ Choiceに選出。
- 2025-08: 2025 Gartner Magic Quadrant for Security Service Edge (SSE) においてリーダーに選出。
(出典: 公式サイト ニュースルーム・リソース など)
16. 類似ツールとの比較
16.1 機能比較表 (星取表)
| 機能カテゴリ | 機能項目 | 本ツール (Zscaler) | Palo Alto (Prisma SASE) | Netskope | Cisco (Secure Access) |
|---|---|---|---|---|---|
| 基本機能 | ZTNA (VPN代替) | ◎ 市場のパイオニアで圧倒的な実績 |
◯ 強力だが設定が複雑な場合も |
◯ クラウドネイティブでスムーズ |
◯ Duoなどとの統合が強力 |
| SWG / CASB | クラウドプロキシ | ◎ インライン処理の規模が世界最大 |
◯ 次世代ファイアウォール技術を応用 |
◎ データ保護とCASBに強み |
◯ UmbrellaベースでDNS保護に優れる |
| 体験・可視化 | DEM (デジタル体験監視) | ◎ ZDXが非常に統合されている |
◯ ADEMモジュールで対応 |
◯ Proactive DEMを提供 |
◯ ThousandEyesとの連携が強力 |
| セキュリティ | AI特化の脅威防御 | ◎ 豊富なデータを基盤とした専用AI機能 |
◎ 脅威インテリジェンスが極めて強力 |
◯ 機械学習によるDLPに強み |
◯ Talosを活用 |
16.2 詳細比較
| ツール名 | 特徴 | 強み | 弱み | 選択肢となるケース |
|---|---|---|---|---|
| Zscaler | 世界最大のクラウドネイティブSSE/SASEプラットフォーム | 全面的にゼロトラスト思想で作られたアーキテクチャ。巨大なトラフィック処理能力。 | 初期導入の難易度と複雑さ。コストがエンタープライズ向け。 | クラウド移行が本格化し、レガシーネットワークから完全に脱却したい大企業。 |
| Palo Alto Networks (Prisma SASE) | 強力な次世代ファイアウォール機能とSD-WANを統合したSASE | オンプレミスの強力な境界防御のポリシーや知見をそのままクラウドに拡張できる。 | Zscalerと比べると、元がオンプレミス技術からの発展形である側面がある。 | 既にPalo Altoのファイアウォールを多数導入しており、統一したポリシー管理を行いたい場合。 |
| Netskope (Netskope One) | データセキュリティとCASB(クラウドアプリ制御)に特化したSSE | SaaSアプリケーションのきめ細かな可視化と制御、強力なDLP。 | Zscalerほどの広範なネットワークセキュリティの歴史とシェアには及ばない。 | クラウドアプリの利用状況の可視化や、情報漏洩対策(データ保護)を最優先課題とする場合。 |
| Cisco (Secure Access) | UmbrellaやDuoなどの既存製品群を統合したSSEソリューション | Ciscoの広範なネットワーク機器や既存セキュリティ製品との強力な統合能力。 | 複数の買収製品が統合されたプラットフォームであるため、UI/UXに一貫性が欠ける部分がある。 | ネットワークインフラ全体をCisco製品で統一しており、親和性を重視する企業。 |
17. 総評
- 総合的な評価: Zscalerは、SASEおよびSSE市場において間違いなく業界のリーダーです。従来のファイアウォールやVPNといった境界型防御モデルから、ユーザーとアプリケーションを直接つなぐ「ゼロトラストアーキテクチャ」への移行を牽引してきました。膨大なトラフィックを処理するインラインクラウドインフラは他社の追随を許さず、その信頼性とパフォーマンスは高く評価されています。
- 推奨されるチームやプロジェクト: グローバルに展開する大企業や、クラウドサービスへの移行を積極的に進めているエンタープライズ企業、およびM&Aによって異なるITインフラを安全に統合する必要があるプロジェクトに最適です。
- 選択時のポイント: 既存のネットワーク構成を抜本的に見直し、真のゼロトラストを実現したい場合はZscalerが有力な選択肢となります。一方で、データ保護・可視化を最優先する場合はNetskope、既存のファイアウォールアセットを活用したい場合はPalo Alto Networksといったように、自社の現在のネットワークインフラストラクチャと優先すべきセキュリティ要件に基づいて比較検討を行うことが重要です。