Vertex AI Studio 調査レポート
1. 基本情報
- ツール名: Vertex AI Studio
- ツールの読み方: バーテックス エーアイ スタジオ
- 開発元: Google
- 公式サイト: https://cloud.google.com/generative-ai-studio
- 関連リンク:
- ドキュメント: https://cloud.google.com/vertex-ai/docs
- レビューサイト: G2
- カテゴリ: AI開発基盤
- 概要: Google Cloud上で生成AIモデルのプロトタイピング、カスタマイズ、本番環境への統合を迅速に行うための統合開発環境。開発者はコーディング不要のUIを通じて、Geminiをはじめとする最新の基盤モデルを試し、自社データでチューニングし、アプリケーションに組み込むまでの一連のワークフローを加速できる。
2. 目的と主な利用シーン
- 解決する課題: 生成AIアプリケーションの開発サイクルを短縮し、アイデア検証から本番デプロイまでのプロセスを効率化する。専門家でなくても最新AIモデルの能力を引き出し、ビジネス活用することを支援する。
- 想定利用者:
- AI/MLエンジニア
- アプリケーション開発者
- データサイエンティスト
- AIを活用した新規事業開発担当者
- 利用シーン:
- 迅速なプロトタイピング: 新しいAI機能のアイデアを、コードを書かずに即座に検証する。
- カスタムAIモデルの構築: 自社データを用いて基盤モデルをファインチューニングし、特定のドメインやタスクに特化したモデルを作成する。
- AIエージェントの開発: 自然言語でタスクを理解し、ツールやAPIを呼び出して自律的に実行するAIエージェントを構築・テストする。
- マルチモーダルAIの活用: テキスト、画像、音声、動画を組み合わせた高度なAIアプリケーションを開発する。
3. 主要機能
- プロンプトデザイン: テキスト、画像、音声、動画など、様々な形式の入力を組み合わせたマルチモーダルなプロンプトを作成し、リアルタイムでモデルの応答をテスト・比較できる。
- モデルチューニング: Supervised fine-tuningやRLHF(人間からのフィードバックによる強化学習)などの手法を用いて、特定のタスクに合わせて基盤モデルの性能を向上させる。
- Model Garden: Gemini, Imagen, VeoといったGoogleの最新モデルに加え、Llama, Claude, Mistralなどのパートナー製モデルやオープンソースモデルを含む100以上の基盤モデルにアクセスし、デプロイできる。
- Agent Builder: コーディング不要で、会話型AIエージェントを構築、テスト、デプロイするためのツールセット。外部APIとの連携(Tool use)もサポート。
- MLOps連携: Vertex AI Pipelines, Model Registry, MonitoringといったMLOpsツール群とシームレスに連携し、モデルのバージョン管理、CI/CD、本番環境でのパフォーマンス監視までを一貫して行える。
4. 開始手順・セットアップ
- 前提条件:
- Google Cloudアカウントおよびプロジェクトの作成。
- 請求先アカウント(クレジットカード情報)の登録。
- 導入/有効化:
- Google Cloud Consoleにアクセス。
- 「Vertex AI API」を有効化する。
- 初期設定:
- IAM権限の設定(必要に応じて)。
- (ローカル開発の場合) Google Cloud SDKのインストールと認証:
gcloud auth login
- クイックスタート:
- コンソールの「Vertex AI Studio」>「言語」セクションに移動。
- 「テキストプロンプトを作成」をクリック。
- モデル(Geminiなど)を選択し、プロンプトを入力して実行。
5. 特徴・強み (Pros)
- 最先端モデルへの迅速なアクセス: Gemini 3 Pro/Flashなど、Googleが開発した最新・最大規模のマルチモーダルモデルをいち早く利用でき、競合優位性を確保できる。
- エンドツーエンドの統合開発環境: アイデアの検証から、データ準備、モデルのチューニング、評価、デプロイ、運用まで、AI開発のライフサイクル全体を単一のプラットフォームで完結できる。
- 豊富なモデル選択肢: Google製モデルだけでなく、Model Gardenを通じて多様なオープンソースモデルやパートナーモデルを選択でき、特定のユースケースに最適なモデルを柔軟に比較・活用できる。
- エンタープライズ級の基盤: Google Cloudの堅牢なインフラ上で動作し、データガバナンス、セキュリティ、スケーラビリティが確保されているため、本格的な業務利用にも対応可能。
6. 弱み・注意点 (Cons)
- 学習コストの高さ: 非常に多機能で専門的なツールが統合されているため、プラットフォーム全体の概念や操作に習熟するには一定の学習時間が必要。特にML開発の経験が少ないユーザーには複雑に感じられる可能性がある。
- 複雑な料金体系: 利用するモデル、API呼び出し回数、データの種類(テキスト、画像、動画)、トレーニングやデプロイに使用するコンピューティングリソースなど、課金要素が多岐にわたり、正確なコスト予測が難しい場合がある。
- 日本語対応の状況: UIは日本語化されているが、最新のドキュメント、チュートリアル、技術サポートは英語が中心となる場合が多い。
7. 料金プラン
Vertex AI Studio自体の利用料金はかからず、バックエンドで利用するVertex AIの各サービス(モデル利用、トレーニング、デプロイなど)に応じた従量課金制。
| プラン名 | 料金 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 無料利用枠 | 無料 | ・新規顧客向けに$300の無料クレジット(90日間有効)。 ・請求先アカウントなしで一部機能を試せる「Express Mode」あり。 |
| 従量課金 | モデルやリソース毎に変動 | ・モデル利用料: トークン数(入出力)、画像数、動画/音声の秒数に応じて課金。 ・トレーニング: 使用したマシンタイプと時間に応じて課金。 ・デプロイ: モデルをデプロイしたエンドポイントの稼働時間に応じて課金。 |
- 主要モデルの料金例(100万トークンあたり):
- Gemini 3 Pro (Preview): 入力 $2〜$4, 出力 $12〜$18
- Gemini 3 Flash (Preview): 入力 $0.5, 出力 $3
- Gemini 2.5 Pro: 入力 $1.25〜$2.5, 出力 $10〜$15
- 課金体系: 従量課金。詳細は公式料金ページを参照。
- 無料トライアル: 新規Google Cloud顧客は$300のクレジットを利用可能。
8. 導入実績・事例
- 導入企業: Deutsche Bank, Siemens, Vodafone, メルカリ, 楽天グループなど。
- 導入事例: 不正検知、顧客サポートの自動化、製品推薦、コンテンツ生成、創薬研究など、多岐にわたる業界で活用されている。
- 対象業界: 金融、小売、製造、メディア、ヘルスケアなど、業界を問わず利用されている。
9. サポート体制
- ドキュメント: 公式ドキュメントが非常に充実しており、クイックスタート、チュートリアル、APIリファレンスが豊富に提供されている。
- コミュニティ: Google Cloud CommunityやStack Overflow、GitHubなどで開発者同士の情報交換が活発に行われている。
- 公式サポート: Google Cloudのサポートプラン(Basic, Standard, Enhanced, Premium)を通じて、24時間365日のテクニカルサポートを含む様々なレベルの支援を受けられる。
10. エコシステムと連携
10.1 API・外部サービス連携
- API: Vertex AI APIを通じて、Studioで構築・テストしたモデルやプロンプトをあらゆるアプリケーションからプログラムで呼び出すことが可能。Python, Node.js, Java, Goなど、主要言語向けのSDKも提供。
- 外部サービス連携: Google Cloud内のサービス(BigQuery, Cloud Storage, Cloud Functionsなど)とのネイティブな連携に加え、APIを通じてSlack, Salesforceなどサードパーティ製ツールとの連携も容易に実現できる。
10.2 技術スタックとの相性
| 技術スタック | 相性 | メリット・推奨理由 | 懸念点・注意点 |
|---|---|---|---|
| Python (Pandas/Scikit-learn) | ◎ | 公式SDKが最も充実しており、Notebooks環境との親和性が高い。 | 特になし。 |
| TensorFlow / Keras | ◎ | Google製フレームワークのため、TPUなどの最適化を最大限享受できる。 | 独自の作法が必要な場合がある。 |
| Node.js | ◯ | Cloud FunctionsやCloud Runでのバックエンド開発に適している。 | データ分析やMLOps機能のSDKサポートはPythonに劣る場合がある。 |
| Kubernetes (GKE) | ◎ | Vertex AI PipelinesはKubeflowベースであり、GKEとの統合が強力。 | 設定が複雑になる傾向がある。 |
11. セキュリティとコンプライアンス
- 認証: SSO (Google Identity)、IAMによる詳細な権限管理、2段階認証に対応。
- データ管理: 顧客のプロンプトやデータは、Googleの基盤モデルの学習には使用されないことが明記されている。VPC Service ControlsやCMEK(顧客管理の暗号鍵)により、データセキュリティを強化できる。
- 準拠規格: SOC 1/2/3, ISO/IEC 27001/27017/27018, PCI DSS, HIPAA, GDPRなど、主要な国際的コンプライアンス基準に準拠。
12. 操作性 (UI/UX) と学習コスト
- UI/UX: Webベースの統合コンソールはよく整理されており、プロンプトのテストなど基本的な操作は直感的に行える。しかし、機能が非常に豊富なため、メニューの階層が深く、目的の機能を見つけるのに慣れが必要な場合がある。
- 学習コスト: シンプルなプロトタイピングは容易に始められるが、モデルのチューニング、MLOpsパイプラインの構築、Agent Builderの高度な活用など、プラットフォームの全機能を使いこなすには、Google Cloudと機械学習に関する体系的な知識が求められ、学習コストは高い。
13. ベストプラクティス
- 効果的な活用法 (Modern Practices):
- プロンプト管理の体系化: Vertex AI Studioのプロンプト保存機能を活用し、チーム内でプロンプトのバージョン管理と共有を徹底する。
- 評価ループの構築: 「Automatic Side-by-Side Evaluation (AutoSxS)」を利用して、プロンプトやモデルの変更が応答品質に与える影響を定量的に測定する。
- 陥りやすい罠 (Antipatterns):
- プロンプトのハードコード: アプリケーションコード内にプロンプトを直接記述せず、Studioで管理されたプロンプトをAPI経由で呼び出すか、設定ファイルとして分離する。
- コスト意識の欠如: 高性能なモデル(Gemini Proなど)を全てのタスクに使用せず、タスクの難易度に応じて軽量モデル(Flash)と使い分ける。
14. ユーザーの声(レビュー分析)
- 調査対象: G2
- 総合評価: 4.4 / 5.0 (2026年1月時点、Vertex AIプラットフォーム全体として)
- ポジティブな評価:
- 「機械学習に関する全ての作業(トレーニング、デプロイ、監視)を単一の場所で完結できる点が素晴らしい。複数のツールを行き来する必要がない。」
- 「Googleの最新かつ強力なモデル(Geminiなど)に簡単にアクセスでき、スケーラビリティも非常に高い。」
- 「BigQueryやCloud Storageなど、他のGoogle Cloudサービスとの統合がシームレスで、データパイプラインの構築が容易。」
- ネガティブな評価 / 改善要望:
- 「料金体系が非常に複雑。大規模に利用するとコストが急増する可能性があり、予算管理が難しい。」
- 「機能が多すぎて、特にMLの経験がない人にとっては学習曲線が急。ドキュメントは豊富だが圧倒されてしまうことがある。」
- 「UIが時々複雑に感じられ、カスタマイズや設定の自由度が高い反面、初心者には分かりにくい部分がある。」
- 特徴的なユースケース:
- レビューからは、単なるモデルのAPI利用に留まらず、Vertex AI Pipelinesを活用してモデルの再学習とデプロイを自動化する本格的なMLOps基盤として活用しているケースが多く見られた。
15. 直近半年のアップデート情報
- 2026-01-20: Gemini 3 Pro/Flash が一般提供開始(GA)。推論能力と処理速度が大幅に向上し、Studio内での利用が可能に。
- 2026-01-13: Veo 3.1(動画生成モデル)で、参照画像から動画を生成する際の9:16アスペクト比対応や、高解像度化の機能が追加。(出典)
- 2026-01-06: Model Gardenで、コーディングや複雑な推論タスクに特化したGLM 4.7モデルが実験的に利用可能に。
- 2025-12-18: Vertex AI Studioでのプロンプト保存・共有機能がGA(一般提供)に。
- 2025-12-17: Gemini 3 Flashがパブリックプレビューとして利用可能に。複雑なマルチモーダル理解やエージェント機能に強みを持つ。
- 2025-12-16: Vertex AI Agent Engineの主要機能(Sessions, Memory Bank)がGAに。エージェント開発機能が大幅に強化。
- 2025-11-17: Veo 3.1(動画生成モデル)がGAに。
- 2025-10-15: Anthropic社のClaude Haiku 4.5がModel Gardenで利用可能に。
- 2025-09-24: Gemini 1.5 ProおよびFlashの新しい安定版(002)がGAとなり、多言語理解やSQL生成能力などが大幅に改善。
(出典: Generative AI on Vertex AI release notes)
16. 類似ツールとの比較
16.1 機能比較表 (星取表)
| 機能カテゴリ | 機能項目 | Vertex AI Studio | OpenAI Playground | Amazon Bedrock | Azure AI Studio |
|---|---|---|---|---|---|
| モデル | 最新モデル | ◎ Gemini 3 |
◎ GPT-4o |
◯ Claude 3.5 |
◎ GPT-4o |
| マルチモーダル | 入力対応 | ◎ 動画/音声対応 |
◯ 画像/音声 |
◯ 画像 |
◯ 画像/音声 |
| 開発 | チューニング | ◎ SFT/RLHF |
△ SFTのみ |
◯ SFT/Pretrain |
◯ SFT |
| 運用 | MLOps | ◎ 完全統合 |
× 非対応 |
◯ SageMaker連携 |
◎ 完全統合 |
16.2 詳細比較
| ツール名 | 特徴 | 強み | 弱み | 選択肢となるケース |
|---|---|---|---|---|
| Vertex AI Studio | Google Cloudに完全統合されたエンドツーエンドのAI開発プラットフォーム。 | Googleの最新モデル(Gemini等)への最速アクセス。プロトタイピングからMLOpsまで一気通貫でカバー。 | 多機能ゆえの複雑さと学習コスト。Google Cloudへの強い依存。 | Google Cloudを主要インフラとしており、本格的なAIアプリ開発・運用までを見据える場合。 |
| OpenAI Playground | OpenAIモデル(GPTシリーズ)を試すためのシンプルで直感的なWebインターフェース。 | 非常にシンプルで使いやすい。APIキーがあればすぐに始められる手軽さ。 | モデルチューニングやデプロイ、運用管理といったエンタープライズ向け機能は提供されない。 | OpenAIモデルの性能評価や、簡単なAPI連携のプロトタイピングを迅速に行いたい場合。 |
| Amazon Bedrock | 複数のAI企業の基盤モデル(Anthropic, Cohere等)を単一APIで利用できるAWSのマネージドサービス。 | マルチプロバイダーのモデルを選択できる柔軟性。AWSエコシステムとの緊密な連携。 | Googleの最新モデル(Gemini 3等)は利用不可。UIはAWSコンソールに準拠。 | 特定のプロバイダーに依存せず、複数の主要モデルをAWS上で比較・利用したい場合。 |
| Azure AI Studio | Azure上で生成AIアプリを構築するための統合プラットフォーム。特にOpenAIモデルとの連携が強力。 | Azureの各種サービスとの親和性が高い。責任あるAIに関するツールが充実。 | Google製モデルの利用は可能だが、Vertex AIほどのネイティブな統合や最適化はされていない。 | 既にAzure基盤で開発を行っており、特にOpenAIモデルをエンタープライズレベルで活用したい場合。 |
17. 総評
- 総合的な評価: Vertex AI Studioは、単なるAIモデルのプレイグラウンドに留まらず、Googleの最先端AI技術をビジネスに組み込むための、極めて強力で包括的な開発・運用プラットフォームである。Gemini 3ファミリーのような最新鋭モデルを迅速に試せるだけでなく、その後のファインチューニング、デプロイ、そしてMLOpsのサイクルまでを一気通貫でサポートする統合力が最大の強みだ。一方で、その多機能性とGoogle Cloudへの深い統合は、初心者にとって高い学習コストや複雑な料金体系という課題ももたらす。しかし、エンタープライズレベルでの本格的なAIアプリケーション開発を目指す組織にとって、その投資に見合う価値を提供する、現状最高峰の選択肢の一つと言える。
- 推奨されるチームやプロジェクト:
- Googleの最新AIモデル(Gemini, Imagen, Veo)を最大限に活用したプロダクトを開発したいチーム。
- 迅速なプロトタイピングから、自動化されたモデルの再学習・デプロイといった本格的なMLOps運用までを見据えるプロジェクト。
- 既存のデータ基盤がGoogle Cloud上にあり、BigQueryなどとのシームレスなデータ連携を重視する企業。
- 選択時のポイント:
- エコシステムを重視する場合: 主なクラウド基盤がGoogle Cloudであれば、Vertex AI Studioが第一選択肢となる。AWSならAmazon Bedrock、AzureならAzure AI Studioが連携面で有利。
- シンプルさを求める場合: モデルの性能を手軽に試したい、あるいはAPI連携のデモを作成したいだけであれば、OpenAI Playgroundのようなよりシンプルなツールが適している。
- 利用したいモデルが明確な場合: 特定のモデル(例: AnthropicのClaude)を複数のクラウドで比較したい場合はAmazon Bedrockが、GoogleのGeminiを深く活用したい場合はVertex AI Studioが最適。