Rakuten AI 調査レポート

開発元: Rakuten Group, Inc.
カテゴリ: 生成AI

楽天グループの多様なサービスにAIを統合し、ビジネスと消費者の両方にソリューションを提供する全社的なAIイニシアチブ。

Rakuten AI 調査レポート

1. 基本情報

  • ツール名: Rakuten AI (楽天AI)
  • 開発元: Rakuten Group, Inc. (楽天グループ株式会社)
  • 公式サイト: https://ai.rakuten.co.jp/
  • カテゴリ: AIプラットフォーム, 生成AI
  • 概要: Rakuten AIは、楽天グループが展開する70以上の多様なサービスにAI技術を統合する全社的な取り組み「AI-nization」の中核をなすイニシアチブです。消費者向けのAIエージェントから、事業者向けの業務効率化ツール、開発者向けの日本語に最適化された大規模言語モデル(LLM)まで、幅広いソリューションを提供し、人間の創造性を拡張することを目指しています。

2. 目的と主な利用シーン

  • 解決しようとしている課題: 楽天の広範なエコシステム(Eコマース、金融、モバイルなど)から得られる膨大なデータを活用し、顧客体験の向上、ビジネスパートナー(特に中小企業)の業務効率化、および社会課題の解決を実現すること。
  • 想定される主な利用者や部署:
    • 消費者: 楽天の各種サービス(楽天市場、楽天モバイルなど)の利用者。
    • ビジネス: 楽天市場の出店者、エネルギー、ホスピタリティ、不動産など、様々な業界の法人顧客。
    • 開発者: AIアプリケーションを構築するエンジニアや研究者。
  • 具体的な利用シーン:
    • Eコマース: AIによる高度な商品検索、パーソナライズされたレコメンデーション、商品説明文や画像の自動生成、売上データ分析。
    • 法人業務: 「Rakuten AI for Business」を通じたメール作成、マーケティングコンテンツ生成、顧客サポート業務の支援。
    • 物流: AIによる最適な梱包資材の選択、配送ルートの最適化、自律走行ロボットによる商品配送。
    • 開発: 日本語に最適化されたオープンなLLMを活用した、新たなAIアプリケーションやサービスの開発。

3. 主要機能

  • Rakuten AI for Business: 法人向けの生成AIサービス。業務別のテンプレート、入力情報をAIの学習に利用しないセキュリティ設定、社内利用状況を可視化するダッシュボード機能などを提供。
  • 日本語に最適化されたLLM: 「Rakuten AI 7B」やその8倍の性能を持つ「Rakuten AI 2.0」など、高性能な日本語LLMを開発し、オープンソース(Apache 2.0ライセンス)で公開。
  • Eコマース向けAIツール: 楽天市場出店者向け管理システム「RMS」に搭載されたAIアシスタント機能。画像加工やデータ分析を自動化し、店舗運営を効率化。
  • 意味検索(Semantic Search): 従来のキーワード検索ではなく、ユーザーの検索意図をAIが理解し、より関連性の高い商品を表示する機能。
  • Rakuten AI University: 楽天市場の出店者向けに、AIの基礎知識やツールの活用方法を解説するオンライン学習サービス。

4. 特徴・強み (Pros)

  • 広大なデータエコシステム: 全世界で20億の会員ID、70以上のサービスから得られる膨大なデータと25年以上にわたる業界知見がAIの精度と実用性を高めている。
  • 既存サービスへの深い統合: AIを単体の製品としてではなく、楽天の既存サービスに深く統合することで、巨大なユーザー基盤に対して即座に実用的な価値を提供。
  • 日本語市場への注力: 高品質な日本語LLMを自社開発・公開することで、国内のビジネスニーズや言語的ニュアンスに対応。
  • BtoBとBtoCの両輪での展開: 消費者向けAIと法人向けAIサービスを両方手がけることで、相乗効果を生み出し、包括的なAIエコシステムを構築。

5. 弱み・注意点 (Cons)

  • 第三者による評価の不足: 特に法人向けサービスは比較的新しいため、独立した第三者機関によるレビューや詳細な導入事例が少なく、実世界でのパフォーマンスや客観的な評価が難しい。
  • 楽天エコシステムへの依存: AI機能の多くは楽天のサービス群に最適化されているため、エコシステム外のツールとの連携や相互運用性には制限がある可能性がある。
  • 情報の限定性: 公式サイトでは全体像やビジョンが中心に語られており、各サービスの具体的な料金体系や技術的な詳細仕様に関する情報が限定的。

6. 料金プラン

  • Rakuten AI Agent: Rakuten Linkアプリ等を通じて無料で提供。
  • Rakuten AI LLM: Apache 2.0ライセンスに基づき、無料で利用・改変が可能。
  • Rakuten AI for Business: 法人向けサービスの料金体系については、公式サイトに具体的な記載がなく、個別見積もりの可能性が高い。(2025年10月時点)
  • 無料トライアル: 各サービスの無料トライアルに関する明確な情報はない。

7. 導入実績・事例

公式サイトでは、特定の企業名よりもユースケースとして紹介されている。

  • エネルギー業界: コールセンターの顧客対応履歴を元に、顧客への案内メールを生成。
  • 宿泊業界: 宿泊予約に関する問い合わせメール(海外旅行客含む)の作成を効率化。
  • 不動産業界: 入居者オーナーとのコミュニケーションの質を向上。
  • 地方自治体: 教育現場や本庁業務における各種事務作業の効率化。
  • 楽天市場出店者: 商品画像作成時間を90%削減、AIによる広告運用で広告費用対効果が1.5倍に向上した事例あり。

8. サポート体制

  • ドキュメント: 開発者向けにLLMのドキュメントが提供されている。
  • コミュニティ: オープンソースのLLMに関しては、開発者コミュニティによるサポートが期待される。
  • 公式サポート: 法人向けサービス「Rakuten AI for Business」に関するサポート体制の詳細は不明。また、「Rakuten AI University」を通じて出店者向けの教育プログラムを提供している。

9. 連携機能 (API・インテグレーション)

  • API: オープンソースのLLMはAPIを通じて様々なアプリケーションに組み込み可能。
  • 外部サービス連携: 主に楽天エコシステム内のサービス連携が中心であり、SlackやSalesforceといった外部の主要なSaaSとの標準連携に関する情報は公開されていない。

10. セキュリティとコンプライアンス

  • 倫理規定: 「楽天AI倫理規定」を策定し、それに従ってAIの開発・運用を行っている。
  • データ保護: 「Rakuten AI for Business」では、入力された情報がAIモデルの再学習に利用されることを防ぐセキュリティ機能を確保。
  • プライバシー: 厳格な基準に基づき、データ保護とプライバシーを最優先事項としている。

11. 操作性 (UI/UX) と学習コスト

  • 事業者向けツール: 既存の管理画面(RMSなど)にAI機能を追加する形で提供されており、店舗運営者が直感的に利用できるよう配慮されている。
  • 法人向けサービス: 業務別のテンプレートが用意されており、AIの専門知識がなくても精度の高いアウトプットを生成できるよう設計されており、学習コストは比較的低いと推測される。

12. ユーザーの声(レビュー分析)

  • 調査対象: G2, Capterra, ITreview, およびウェブ検索による調査を実施。
  • 総合評価: 2025年10月現在、法人向けサービスに関する主要なレビューサイトでの評価や、まとまった形でのユーザーレビューは見当たらなかった。これは、サービスの提供開始から日が浅いことや、BtoBのクローズドな形で提供されているためと考えられる。今後、導入事例の公開が期待される。

13. 直近半年のアップデート情報

  • Rakuten AI 2.0発表 (2025年): 従来モデル「Rakuten AI 7B」の8倍の性能を誇り、コストを2.5分の1に削減した新しい日本語LLMを発表。
  • GENIACプロジェクトに採択 (2025年8月): 経済産業省とNEDOが主導する国内の生成AI開発力強化プロジェクトに採択され、最先端のオープンなAI基盤モデルの研究開発に着手。
  • 「楽天ラクマ」へのAI出品機能導入 (2025年10月9日): 商品画像をアップロードするだけで、AIが最適なカテゴリ、商品名、商品説明文を自動で提案する機能をリリース。

14. 類似ツールとの比較

「Rakuten AI for Business」は、広義には国内の法人向け生成AIサービスが競合となる。

  • Google Cloud AI Platform (Vertex AI):
    • 特徴: 強力なインフラと多様なAI/MLサービスを提供。大規模なモデル開発から運用まで一気通貫でサポート。
    • 選択肢となる場合: 高度なカスタマイズや自社でのモデル開発・運用を重視する大企業に適している。
  • Microsoft Azure AI (Azure OpenAI Service):
    • 特徴: GPT-4など最新のOpenAIモデルをエンタープライズレベルのセキュリティで利用可能。Microsoft 365などとの親和性が高い。
    • 選択肢となる場合: 既にMicrosoft製品を社内で広く利用しており、既存の業務フローにシームレスに生成AIを組み込みたい場合に有力。
  • Amazon Bedrock:
    • 特徴: AnthropicやCohereなど、複数の主要な基盤モデルを単一のAPIで選択・利用できる。
    • 選択肢となる場合: 特定のモデルに縛られず、ユースケースに応じて最適なモデルを柔軟に使い分けたい場合に適している。

Rakuten AIの差別化要因: これら汎用的なクラウドAIプラットフォームに対し、Rakuten AIは楽天エコシステムに特化したデータと知見を活かしたチューニングが強み。特に日本の商習慣や消費者行動を深く理解したEコマース領域や、日本語に特化したLLMの性能が大きな差別化要因となる。

15. 総評

  • 総合的な評価: Rakuten AIは、単なるAIツールの提供に留まらず、巨大なビジネス・消費者エコシステム全体をAIで変革しようとする野心的なイニシアチブである。その最大の強みは、楽天が持つ独自の広範なデータを活用し、既存サービスに深く統合された実用的なソリューションを提供できる点にある。
  • 推奨されるチームやプロジェクト:
    • 楽天市場の出店者など、既に楽天エコシステム内でビジネスを展開している事業者。
    • 日本語のニュアンスを重視するコンテンツ作成や顧客対応を行う国内企業。
    • オープンソースの高性能な日本語LLMを求めている開発者や研究機関。
  • 選択時のポイント: 楽天エコシステムとの連携の深さが最大の選択基準となる。エコシステム外の企業にとっては、Azure AIやGoogle Cloud AIのような汎用プラットフォームの方が柔軟性が高い場合がある。一方で、国内市場に特化したビジネスや、Eコマース領域での活用を考えるならば、Rakuten AIは非常に有力な選択肢となるだろう。