Karpenter 調査レポート

開発元: AWS
カテゴリ: 構成管理

柔軟性、パフォーマンス、シンプルさを追求して構築された、Kubernetes向けのオープンソースノードオートスケーラー

Karpenter 調査レポート

1. 基本情報

  • ツール名: Karpenter
  • 開発元: AWS (現在はCloud Native Computing Foundation (CNCF)のプロジェクト)
  • 公式サイト: https://karpenter.sh/
  • 関連リンク:
  • カテゴリ: 構成管理、Kubernetes、オートスケーリング
  • 概要: Karpenterは、Kubernetesクラスタ向けのオープンソースなオートスケーラーです。アプリケーションの負荷に応じて、適切なコンピューティングリソースをジャストインタイムで起動することで、アプリケーションの可用性向上とインフラコストの削減を実現します。

2. 目的と主な利用シーン

  • 目的: 従来のKubernetes Cluster Autoscalerが抱える、スケーリングの遅さやノードグループ管理の複雑さといった課題を解決し、より効率的で柔軟なノードプロビジョニングを提供することを目的としています。
  • 主な利用者: Kubernetesクラスタを管理するDevOpsエンジニア、SRE、プラットフォームエンジニア。
  • 具体的な利用シーン:
    • トラフィックが急増する可能性があるアプリケーションの実行環境
    • バッチ処理や機械学習のワークロードなど、コンピューティングリソースの要求量が動的に変動する環境
    • コスト最適化が重要な本番環境
    • ノードグループの管理を簡素化したい場合

3. 主要機能

  • ジャストインタイムなノードプロビジョニング: スケジューリング不可能なPod(保留中のPod)のリソース要求を監視し、数秒で最適なノードを起動します。
  • ノードグループ不要: 事前にノードグループを定義する必要がなく、Podの要件(CPU, メモリ, GPU, アーキテクチャなど)に合致するインスタンスタイプをクラウドプロバイダーから直接選択します。
  • ワークロードの統合 (Consolidation): クラスタ内のノード使用率を監視し、ワークロードをより効率的なノードに集約することで、不要なノードを削除しコストを削減します。
  • ノードの自動更新とドリフト検出: ノードの有効期限(Expiration)や構成のドリフト(Drift)を検出し、自動的にノードを入れ替えることで、セキュリティパッチの適用やOSのアップグレードを容易にします。
  • 柔軟なインスタンス選択: スポットインスタンスやオンデマンドインスタンスなど、様々な購入オプションを横断して最適なインスタンスを自動で選択します。

4. 特徴・強み (Pros)

  • 高速なスケーリング: クラウドプロバイダーのAPIを直接呼び出すため、従来のCluster Autoscaler(数分かかる場合がある)よりも大幅に高速(数秒)にノードを起動できます。
  • コスト効率の向上: Podの要求に最適なインスタンスをジャストインタイムで確保し、不要になったノードを積極的に削除するため、過剰なプロビジョニングを防ぎ、インフラコストを大幅に削減できます。
  • 運用オーバーヘッドの削減: ノードグループの管理が不要になるため、クラスタ管理者の運用負荷が大幅に軽減されます。
  • スポットインスタンスの高度なサポート: スポットインスタンスの中断を自動的に処理し、ワークロードを安全に移行する機能が組み込まれています。

5. 弱み・注意点 (Cons)

  • 限定的なクラウドプロバイダーサポート: 主にAWS向けに開発されており、AzureやAlibabaCloudなど他のプロバイダーへの対応はまだ発展途上です。
  • 比較的新しいプロジェクト: 広く使われているCluster Autoscalerと比較すると歴史が浅いため、長期的な安定性や実績を重視する環境では慎重な検討が必要です。
  • 日本語サポートの欠如: ドキュメントやコミュニティはすべて英語が基本となります。

6. 料金プラン

  • オープンソース: Karpenter自体はApache License 2.0で提供されるオープンソースソフトウェアであり、無料で利用できます。
  • 課金体系: 料金は、KarpenterがプロビジョニングするEC2インスタンスなどの、基盤となるクラウドプロバイダーのリソース使用量に対して発生します。

7. 導入実績・事例

  • KarpenterはCNCFの公式プロジェクトであり、AWS上でKubernetesを運用する多くの企業で採用が進んでいます。具体的な導入企業名は公式サイトには明記されていませんが、Kubernetesコミュニティで広く議論され、デファクトスタンダードの地位を確立しつつあります。

8. サポート体制

  • ドキュメント: 公式サイト(karpenter.sh)に詳細なドキュメント、チュートリアル、設定例が整備されています。
  • コミュニティ: サポートはコミュニティベースで提供されており、GitHubのIssueやKubernetesの公式Slackチャネル(#karpenter)で活発な議論が行われています。
  • 公式サポート: AWSによる直接の商用サポートはありませんが、AWS Enterprise Supportの契約者は、AWS環境でのKarpenterの利用について問い合わせが可能です。

9. 連携機能 (API・インテグレーション)

  • Kubernetes APIと深く統合されており、Podのスケジューリング制約(アフィニティ、tolerationなど)をネイティブに理解します。
  • AWSのEC2フリートAPIなど、クラウドプロバイダーのAPIと直接連携して、仮想マシンをプロビジョニングします。

10. セキュリティとコンプライアンス

  • Karpenter自体のセキュリティは、CNCFの管理下にあることで一定の信頼性が担保されています。
  • 実際のセキュリティとコンプライアンスは、KarpenterがプロビジョニングするノードのAMI(Amazon Machine Image)や、ユーザーが設定するIAMポリシー、セキュリティグループなどの構成に依存します。

11. 操作性 (UI/UX) と学習コスト

  • UI/UX: GUIは提供されておらず、すべての設定はKubernetesのカスタムリソース(CRD)であるNodePoolをYAML形式で記述して行います。
  • 学習コスト: Kubernetesのスケジューリングの仕組みや、クラウドプロバイダーのインスタンスタイプに関する知識が必要です。基本的な設定はシンプルですが、高度な最適化を行うには中程度の学習コストがかかります。

12. ユーザーの声(レビュー分析)

  • 調査対象: Spaceliftブログ、nOpsブログ、GitHubなど技術コミュニティ
  • ポジティブな評価:
    • 「Cluster Autoscalerと比較して、ノードの起動が圧倒的に速い」
    • 「ノードグループの管理から解放され、運用が劇的に楽になった」
    • 「スポットインスタンスを積極的に活用できるようになり、コンピューティングコストを50%以上削減できた」
  • ネガティブな評価 / 改善要望:
    • 「初期設定やIAMポリシーの設計が少し複雑に感じた」
    • 「まだ対応していないクラウドプロバイダーでも利用したい」

13. 直近半年のアップデート情報

  • Karpenterは活発に開発が続けられており、複数のバージョンラインに対して頻繁にアップデートがリリースされています。
  • 2025年10月: v1.8.2, v1.7.3, v1.6.5 など、複数のバージョンでバグ修正や安定性向上のためのパッチがリリースされました。
  • 主なアップデート傾向: 新しいインスタンスタイプへの対応、スケジューリングロジックの改善、セキュリティ修正、パフォーマンス向上などが中心です。このことから、プロジェクトが安定的にメンテナンスされていることがわかります。

14. 類似ツールとの比較

  • Kubernetes Cluster Autoscaler:
    • 特徴: Kubernetesの公式オートスケーラー。ノードグループ単位でスケーリングを行う。
    • 強み: 成熟度が高く、ほぼ全てのクラウドプロバイダーに対応している。
    • 弱み: スケーリングが遅く、Podの要求に最適化されていないインスタンスが起動することがある。ノードグループの管理が複雑。
    • 選択肢: マルチクラウド環境や、既存の運用フローを大きく変えたくない場合に選択肢となる。
  • Karpenter:
    • 特徴: Podの要求に応じてノードを直接プロビジョニングする。
    • 強み: 高速なスケーリング、高いコスト効率、シンプルな運用。
    • 弱み: 主にAWSに最適化されている。
    • 選択肢: AWS環境で、コスト最適化とパフォーマンスを重視する動的なワークロードを実行する場合に最適な選択肢となる。

15. 総評

  • 総合的な評価: Karpenterは、特にAWS環境におけるKubernetesのノードオートスケーリングを革新する、非常に強力なツールです。従来のCluster Autoscalerの課題であった速度とコスト効率を大幅に改善し、クラスタ管理の運用オーバーヘッドを削減します。
  • 推奨されるチームやプロジェクト: AWS上で動的なワークロードを実行しており、インフラコストの最適化と俊敏性の向上を目指す全てのチームに推奨できます。
  • 選択時のポイント: クラウド環境がAWSであり、Kubernetesの宣言的な設定(YAML)に慣れているチームであれば、Cluster Autoscalerからの移行を積極的に検討する価値があります。マルチクラウド戦略を重視する場合は、Cluster Autoscalerの方が適している可能性があります。