Jujutsu (jj) 調査レポート
1. 基本情報
- ツール名: Jujutsu (jj)
- ツールの読み方: ジュジュツ
- 開発元: Open Source Community (Martin von Zweigbergk)
- 公式サイト: https://jj-vcs.dev/
- 関連リンク:
- GitHub: https://github.com/jj-vcs/jj
- ドキュメント: https://docs.jj-vcs.dev/
- カテゴリ: バージョン管理
- 概要: Jujutsu (jj) は、Gitと互換性を持つ次世代のバージョン管理システム(VCS)です。Gitリポジトリをバックエンドとして使用できるため、既存のGitワークフローやツール(GitHubなど)と共存しながら、Gitの複雑さや使いにくさを解消することを目指しています。Rust言語で開発されており、高速かつ安全な動作が特徴です。
2. 目的と主な利用シーン
- 解決する課題:
- Gitの複雑なコマンド体系やメンタルモデルの難しさ
- マージコンフリクトの解決にかかる手間とストレス
- 誤った操作によるデータ損失のリスク(Undo機能の欠如)
- 想定利用者:
- 日常的にGitを使用しているソフトウェアエンジニア
- 大規模なリポジトリや複雑な履歴を扱う開発チーム
- 既存のGitツールとの互換性を維持しつつ、より良いVCS体験を求めるユーザー
- 利用シーン:
- 日常的な開発作業: Gitの代わりとして、コミット、プッシュ、プルなどの操作を行う
- 複雑なリベース作業: コンフリクト解決を後回しにしたり、自動リベース機能を活用したりする
- Gitとの併用: ローカルでは
jjコマンドを使用し、リモートリポジトリ(GitHubなど)とはGitプロトコルで通信する
3. 主要機能
- Git互換性: Gitリポジトリをバックエンドとして使用でき、
jjコマンドでGitリポジトリを操作可能。GitHubなどのGitホスティングサービスと連携できる。 - ワーキングコピーの自動コミット: 作業中の変更(ワーキングコピー)も自動的にコミットとして扱われ、更新される。
git stashやgit addのような操作を意識する必要がない。 - 第一級市民としてのコンフリクト: コンフリクトが発生しても操作を中断せず、コンフリクト状態をコミットとして記録できる。解決は後で任意のタイミングで行える。
- 操作ログとUndo: すべての操作(チェックアウトやリベース含む)がログに記録され、
jj undoコマンドで簡単に以前の状態に戻すことができる。 - 自動リベース: コミットを修正すると、その後のコミット(子孫)が自動的にリベースされる。
- ブランチレスな操作: 名前付きブランチを作成せずに、無名のリビジョンだけで作業を進めることが可能(必要に応じてブックマークを使用)。
- 強力なリビジョン選択: 柔軟なクエリ言語(Revsets)を用いて、操作対象のコミットを柔軟に指定できる。
4. 開始手順・セットアップ
- 前提条件:
- Rust (Cargo) がインストールされていること(推奨)
- Gitがインストールされていること
- インストール/導入:
# Cargoを使用する場合 cargo install --locked jj-cli # Homebrew (macOS/Linux) brew install jj - 初期設定:
# ユーザー情報の設定 jj config set --user user.name "Your Name" jj config set --user user.email "you@example.com" - クイックスタート:
# 既存のGitリポジトリでjjを使い始める cd my-git-repo jj git init # 新しいリポジトリを作成 jj git init my-repo
5. 特徴・強み (Pros)
- 安全性と安心感: 強力なUndo機能により、どのような操作を行っても以前の状態に戻せるため、安心して複雑な履歴操作を行える。
- コンフリクト処理の革新: コンフリクト解決を強制されず、作業の流れを止めずに開発を継続できる点が、従来のVCSと大きく異なる。
- Gitエコシステムとの共存: 完全に新しいVCSに移行する必要がなく、既存のGitインフラをそのまま利用できるため、導入障壁が非常に低い。
- Rustによる実装: 高速な動作とメモリ安全性、クロスプラットフォーム対応を実現している。
6. 弱み・注意点 (Cons)
- 学習コスト: Gitとは異なる概念(ブランチレス、自動コミットなど)があるため、慣れるまでに時間がかかる場合がある。
- 日本語情報の不足: 公式ドキュメントは英語のみであり、日本語での解説記事やコミュニティ情報はまだ比較的少ない。
- GUIツールの不足: Gitに比べてGUIクライアントの選択肢が少なく、CLIでの操作が主体となる。
7. 料金プラン
| プラン名 | 料金 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| OSS版 | 無料 | すべての機能を無制限に利用可能(Apache 2.0ライセンス) |
- 課金体系: 完全無料のオープンソースソフトウェア。
- 無料トライアル: なし(常に無料)。
8. 導入実績・事例
- 導入企業:
- Google: 開発者のMartin von Zweigbergk氏がGoogleに在籍しており、社内でも利用されている可能性がある(公式な導入事例としては明言されていないが、開発の背景にある)。
- その他、多くのオープンソース開発者やテック企業のエンジニアが個人またはチームレベルで採用している。
- 導入事例: Gitの代替クライアントとして、個人の開発環境に導入し、GitHubへのプッシュなどに利用されている。特に「スタック開発」を行うユーザーに好まれている。
- 対象業界: ソフトウェア開発全般。
9. サポート体制
- ドキュメント: 公式ドキュメント(英語)が充実しており、チュートリアルやGitとの比較ガイドなどが提供されている。
- コミュニティ: DiscordサーバーやGitHub Discussionsが活発で、開発者やユーザー同士の交流が行われている。
- 公式サポート: オープンソースプロジェクトであるため、企業による商用サポートは提供されていない(コミュニティベースのサポート)。
10. エコシステムと連携
10.1 API・外部サービス連携
- API: CLIツールとしての提供が主だが、ライブラリとしての利用も想定されている。
- 外部サービス連携:
- GitHub: プルリクエストの作成や連携機能など、統合機能が強化されている。
- Gerrit: コードレビューシステムGerritとの連携もサポート (
jj gerrit upload)。 - Gitホスティング全般: GitLab, Bitbucketなど、標準的なGitリモートリポジトリと連携可能。
10.2 技術スタックとの相性
| 技術スタック | 相性 | メリット・推奨理由 | 懸念点・注意点 |
|---|---|---|---|
| Git | ◎ | 完全な互換性を持ち、バックエンドとして利用可能 | 特になし |
| Rust | ◎ | Rust製であり、エコシステムとの親和性が高い | 特になし |
| GitHub Actions | ◎ | Git互換なのでCI/CDパイプラインはそのまま動作する | jj固有の機能を使う場合は設定が必要 |
11. セキュリティとコンプライアンス
- 認証: バックエンドとして使用するGit(SSH/HTTPS)の認証メカニズムを利用する。GitHubなどの認証情報をそのまま使用可能。
- データ管理: データはローカルのファイルシステム(
.jjディレクトリおよび.gitディレクトリ)に保存される。 - 準拠規格: 特になし(ツールであるため)。OSSとしてコードが公開されており、透明性が高い。
12. 操作性 (UI/UX) と学習コスト
- UI/UX: CLIベースだが、出力が見やすく整形されており、操作ログの表示なども親切である。Gitのような「インデックス」操作が不要なため、直感的と感じるユーザーも多い。
- 学習コスト: Git経験者であれば基本的な概念は理解しやすいが、
jj独自の概念(Change ID、Operation Logなど)を学ぶ必要がある。
13. ベストプラクティス
- 効果的な活用法 (Modern Practices):
- こまめな
jj describe: 自動コミットされるため、変更の意味を記述するためにこまめに説明を追加する。 - スタック開発: 小さな変更を積み重ねていくスタイル(Stacked Changes)を取り入れ、レビューとマージを効率化する。
- コンフリクトのコミット: コンフリクト解消に時間を取られず、一旦コミットして作業を進め、後で落ち着いて解消する。
- こまめな
- 陥りやすい罠 (Antipatterns):
- Gitのメンタルモデルの引きずり:
git addやgit stashを探してしまう(jjでは不要)。 - Change IDの無視: リベースや書き換えで重要になるChange IDの概念を無視して操作すると混乱の元になる。
- Gitのメンタルモデルの引きずり:
14. ユーザーの声(レビュー分析)
- 調査対象: GitHub, Hacker News, 技術ブログ
- 総合評価: 定量的なスコアはないが、試用したユーザーからは「Gitに戻れない」という声も上がるほど高評価を得ている。
- ポジティブな評価:
- 「
jj undoが魔法のように便利。どんなミスも恐れずに操作できる。」 - 「コンフリクト解決が苦にならなくなった。マージコミットの中にコンフリクトを保存できるのは革命的。」
- 「Gitと完全に互換性があるので、チームの他のメンバーに影響を与えずに自分だけ
jjを使えるのが良い。」
- 「
- ネガティブな評価 / 改善要望:
- 「まだ実験的な機能もあり、破壊的変更が怖い(ただしv0.37.0時点ではかなり安定している)。」
- 「GUIがないと複雑な履歴を可視化しにくい場合がある。」
15. 直近半年のアップデート情報
- 2026-01-08 (v0.37.0): 隠れた/分岐したChange IDを参照する新構文の導入、ファイル検索コマンド (
jj file search) の初期バージョン追加。 - 2025-12-04 (v0.36.0): ドキュメントサイトの移転、並行実行時の競合状態の修正。
- 2025-11-06 (v0.35.0): ワークスペースごとの設定ファイル対応、
jj bookmark trackでのリモート紐付け機能。 - 2025-10-01 (v0.34.0): Gerrit連携 (
jj gerrit upload)、自動二分探索 (jj bisect run) のサポート。 - 2025-09-04 (v0.33.0):
jj undoのシーケンシャル化とjj redoの追加。
(出典: GitHub Releases)
16. 類似ツールとの比較
16.1 機能比較表 (星取表)
| 機能カテゴリ | 機能項目 | 本ツール (Jujutsu) | Git | Sapling | Mercurial |
|---|---|---|---|---|---|
| 基本機能 | バージョン管理 | ◎ Git互換 |
◎ デファクト |
◯ 大規模向け |
◯ 使いやすい |
| UX | コンフリクト処理 | ◎ 第一級市民 |
△ 中断される |
◯ スマート |
◯ 比較的良い |
| 安全性 | Undo機能 | ◎ 操作ログあり |
△ Reflog (複雑) |
◯ スマートログ |
◯ バックアウト |
| エコシステム | 普及率 | △ 新興 |
◎ 圧倒的 |
△ 限定的 |
◯ 一定数あり |
16.2 詳細比較
| ツール名 | 特徴 | 強み | 弱み | 選択肢となるケース |
|---|---|---|---|---|
| Jujutsu (jj) | Git互換、コンフリクト管理、操作ログ | 強力なUndo、安全な履歴操作、Git併用可 | 学習コスト、GUI不足 | 既存のGitプロジェクトでより安全・快適な操作を求める場合 |
| Git | デファクトスタンダード、分散型 | 圧倒的な普及率、エコシステム、情報量 | UI/UXの複雑さ、学習難易度が高い | 標準的な開発環境、チーム全員で統一する場合 |
| Sapling | Meta製、大規模リポジトリ向け、Git互換 | 超大規模リポジトリでのパフォーマンス | Metaのワークフローに最適化されている | Facebook/Meta規模の巨大なモノレポを扱う場合 |
| Mercurial | 分散型、Python製 | UIの一貫性、拡張性 | Gitに比べてシェアが低い | Pythonエコシステム、Gitの複雑さを避けたい場合 |
17. 総評
- 総合的な評価: Jujutsuは、Gitの長年の課題であった「使いにくさ」や「安全性」の問題に対して、非常にエレガントな解決策を提示している。特に「Gitリポジトリをそのまま使える」という互換性の高さが最大の武器であり、導入リスクを最小限に抑えつつ、最先端のVCS体験を得ることができる。コンフリクト処理やUndo機能は一度使うと手放せなくなるほどの利便性がある。
- 推奨されるチームやプロジェクト:
- 複雑なリベースやマージ頻繁に行うプロジェクト。
- Gitの操作ミスによるトラブルを減らしたいチーム。
- 新しいツールを積極的に試して生産性を向上させたい個人の開発者。
- 選択時のポイント:
- チーム全体で強制するのではなく、まずは個人のツールとして導入できる点が強み。
- GUIへの依存度が高いメンバーがいる場合は、CLI操作への抵抗感を考慮する必要がある。
- 開発スピードが速いため、定期的なアップデートへの追従が推奨される。