Cucumber 調査レポート
1. 基本情報
- ツール名: Cucumber
- 開発元: The Cucumber Open Source Project
- 公式サイト: https://cucumber.io/
- カテゴリ: テスト自動化, BDD (Behavior-Driven Development)
- 概要: Cucumberは、自然言語(Gherkin)で記述された仕様書を基に、自動化された受け入れテストを実行するためのコミュニティ主導のオープンソースツールです。2024年12月にSmartBear社からコミュニティへ所有権が移管され、現在は独立したオープンソースプロジェクトとして開発が続けられています。ビジネス側と開発側のコミュニケーションを円滑にし、共通の理解を促進することを目的としています。
2. 目的と主な利用シーン
- このツールが解決しようとしている課題: ソフトウェア開発における、ビジネス要求と技術的な実装の間のギャップを埋めること。専門家でない関係者でも理解できる「生きたドキュメント」として機能し、仕様の認識齟齬を防ぎます。
- 想定される主な利用者や部署: 開発者、QAエンジニア、プロダクトマネージャー、ビジネスアナリストなど、プロジェクトに関わるすべてのステークホルダー。
- 具体的な利用シーン:
- Webアプリケーションの受け入れテストの自動化
- APIの振る舞いに関するテスト
- アジャイル開発プロセスにおける、ユーザーストーリーの振る舞いを定義・検証する場面
3. 主要機能
- Gherkin (ガーキン):
Given-When-Thenといったキーワードを用いて、振る舞いを記述するための平易な構文。これにより、技術者でないメンバーもテストシナリオを読み書きできます。 - ステップ定義: Gherkinで記述された各ステップ(文章)と、それを実行するプログラミングコード(Java, Ruby, JavaScriptなど)を関連付ける機能。
- クロスプラットフォーム対応: Java, JavaScript, Ruby, Go, .NETなど、24以上の多様なプログラミング言語に対応しています。
- 外部ツール連携: SeleniumやAppiumなどのUIテスト自動化ツールと連携し、実際のブラウザやモバイルアプリを操作するテストを記述できます。
4. 特徴・強み (Pros)
- コミュニケーションの促進: 自然言語でテストを記述するため、ビジネス側と開発側の認識合わせが容易になり、コラボレーションが活性化します。
- 生きたドキュメント: テストシナリオがそのまま仕様書として機能し、コードの振る-舞いと常に一致するため、ドキュメントが陳腐化しません。
- 振る舞いへの集中: 「どのように実装するか」ではなく「ソフトウェアがどのように振る舞うべきか」に焦点を当てる文化を醸成します。
- ステップの再利用性: 一度定義したステップ定義は、他の多くのシナリオで再利用することができ、テスト作成の効率が向上します。
5. 弱み・注意点 (Cons)
- 学習コスト: Gherkinの記述は容易ですが、質の高いシナリオを設計し、再利用性の高いステップ定義を記述するには一定の習熟が必要です。
- メンテナンスコストの増大: UIの変更など、アプリケーションの仕様変更が発生した場合、Gherkinの記述とステップ定義の両方を修正する必要があり、大規模なプロジェクトではメンテナンスが複雑になる可能性があります。
- テスト実行速度: UIテストと組み合わせる場合、各ステップでブラウザ操作が実行されるため、ユニットテストなどに比べて実行に時間がかかる傾向があります。
- 誤用のリスク: 本来の目的である「振る舞いの記述とコラボレーション」から外れ、単なるテストスクリプトの冗長な記述方法として使われてしまうことがあります。
6. 料金プラン
- オープンソース: Cucumberのコア機能はすべてオープンソースであり、無料で利用可能です。プロジェクトはコミュニティからの寄付や企業スポンサーによって支えられており、OpenCollective を通じて資金提供されています。
- 旧有料プラン: 以前SmartBear社によって提供されていた「Cucumber Studio」や「Cucumber for Jira」といった商用サービスは、プロジェクトのコミュニティへの移管に伴い、現在は提供されていません。
7. 導入実績・事例
- オープンソースであるため、特定の導入企業リストは公開されていませんが、世界中の多数のスタートアップから大企業まで、アジャイル開発やBDDを実践する多くのプロジェクトで採用実績があります。
- 特に、Webサービスやエンタープライズシステム開発の現場で広く利用されています。
8. サポート体制
- ドキュメント: 公式サイトに詳細なドキュメント、チュートリアルが整備されています。
- コミュニティサポート: 開発や利用に関するサポートは、コミュニティ主導で行われています。主な窓口は以下の通りです。
- GitHub Discussions: 質問やアイデアの議論、情報交換の場として利用されています。
- Community Discord: メンテナーや他のユーザーとリアルタイムでチャットできる公式のDiscordサーバーです。
- 商用サポート: プロジェクトのコミュニティ移管に伴い、SmartBear社による公式の商用サポートは現在提供されていません。
9. 連携機能 (API・インテグレーション)
- テスト自動化ツール: Selenium, Appiumなどと連携し、WebブラウザやモバイルアプリのUIテストを自動化できます。
- CI/CDツール: Jenkins, GitLab CI, GitHub Actions, Bamboo, Travis CIなど、主要なCI/CDパイプラインに組み込むことが可能です。
- プロジェクト管理: JiraやTrelloなど、多くのプロジェクト管理ツールと連携が可能です。特定の商用ツール(旧Cucumber for Jiraなど)を介さず、各言語のライブラリやCI/CD連携を通じて実現されることが一般的です。
- その他: Slackとの連携による通知や、REST APIによるカスタム連携にも対応しています。
10. セキュリティとコンプライアンス
- データ管理: Cucumberはローカル環境やCI/CD環境で実行されるツールのため、テストデータや実行結果は利用者の管理下に置かれます。クラウドサービスではないため、データの保存場所は利用者のインフラに依存します。
- 準拠規格: ツール自体が特定の認証(ISO27001など)を取得しているわけではありません。セキュリティは、利用者がどのようにテスト環境を構築・運用するかにかかっています。
11. 操作性 (UI/UX) と学習コスト
- UI/UX: 主なインターフェースはテキストファイル(
.featureファイル)とコマンドラインであるため、GUIツールのような直感的な操作性はありません。完全に開発者向けのツールと言えます。以前提供されていた有償のWeb UI(Cucumber Studio)は現在ありません。 - 学習コスト: BDDの概念やGherkinの記述方法、ステップ定義の実装方法を学ぶ必要があります。特に、ビジネス要件を効果的なシナリオに落とし込むスキルと、メンテナンス性の高いステップ定義を設計するスキルには経験が求められます。
12. ユーザーの声(レビュー分析)
- 調査対象: G2.com
- 総合評価: G2では5段階評価中4.3の高評価を得ています (2025年10月時点)。
- ポジティブな評価:
- 「テストコードの再利用性が高い点が良い。一度ステップを記述すれば、フィーチャーファイルで何度も使える」
- 「平易な英語でテストケースを記述できるため、技術者でないチームメンバーとのコミュニケーションが円滑になる」
- 「BDDフレームワークの統合が容易で、メンテナンスしやすい」
- ネガティブな評価 / 改善要望:
- 「セットアップが少し複雑に感じることがある」
- 「小規模なプロジェクトでは、フィーチャーファイルとステップ定義の管理が冗長に感じることがある」
- 「レポート機能が他のツールに比べて限定的」
13. 直近半年のアップデート情報
Cucumberはコミュニティ主導となってからも、各言語実装(cucumber-js, cucumber-jvmなど)で活発な開発が継続されています。以下は、直近の主なアップデートです(2025年10月時点)。
- 全般的な傾向:
- 内部実装が、よりメッセージベースのアーキテクチャに移行しており、フォーマッターやレポーティング機能の柔軟性と拡張性が向上しています。
- 依存ライブラリは継続的に最新版に更新され、セキュリティとパフォーマンスの向上が図られています。
- Cucumber-js (v12.x):
- 実行環境: Node.jsの最新LTS(Long-Term Support)バージョンへの追随と、古いバージョンのサポート終了が定期的に行われています。
- シャーディング機能: 大規模なテストスイートを複数のマシンに分散して並列実行するシャーディング機能が追加され、テスト実行時間の大幅な短縮が可能になりました (
v12.2.0)。 - フォーマッター: HTMLフォーマッターのデザインが刷新され、よりモダンで見やすいレポートが出力されるようになりました。また、JUnit-XMLフォーマッターもメッセージベースの新しいパッケージに置き換えられています。
- Cucumber-JVM (v7.x):
- JUnit 5連携: JUnit Platform Engineとの連携が強化され、JUnit 5環境での実行がよりスムーズになりました。Rerun機能のサポートなども追加されています。
- フォーマッターの改善:
UsageJsonFormatterが追加されたほか、多くの既存フォーマッター(Timeline, Rerun, TeamCityなど)がメッセージベースの実装に置き換えられ、内部的に統一感のある設計に改善されています。 - Gherkinパーサーの性能向上: Gherkin言語のパーサーのパフォーマンスが改善され、特に大規模なプロジェクトでのフィーチャーファイルの読み込みが高速化されています。
14. 類似ツールとの比較
- SpecFlow: .NET環境におけるBDDツールのデファクトスタンダード。Cucumberの.NET版と位置づけられ、機能やコンセプトは非常に似ていますが、.NETエコシステムとの親和性が高いです。
- Playwright / Cypress: これらはBDDツールではなく、モダンなE2E(End-to-End)テストフレームワークです。Gherkinのような自然言語層を持たず、開発者が直接コード(主にJavaScript/TypeScript)でテストを記述します。自動待機機能やデバッグ機能が強力で、開発者体験が高い点が特徴です。ビジネス側との協業よりも、開発者が効率的にE2Eテストを書きたい場合に選択肢となります。
- Robot Framework: キーワード駆動テストフレームワーク。Gherkinとは異なる構文で、よりテストデータ駆動なアプローチを得意とします。テスト自動化だけでなく、RPA(Robotic Process Automation)の領域でも利用されます。
15. 総評
- 総合的な評価:
- Cucumberは単なるテスト自動化ツールではなく、「チームのコラボレーションを促進し、仕様の共通理解を形成するためのツール」として非常に強力です。BDDの思想を実践する上で中心的な役割を果たします。技術的な観点だけでなく、チーム全体の開発プロセスを改善するポテンシャルを持っています。
- 推奨されるチームやプロジェクト:
- プロダクトオーナーやビジネスアナリストが開発プロセスに深く関与するアジャイルチーム。
- 仕様が複雑で、ドキュメントと実装の乖離に課題を抱えているプロジェクト。
- 長期的にメンテナンスされるプロダクトで、「生きたドキュメント」の価値を最大化したいチーム。
- 選択時のポイント:
- チーム全体でBDDのプラクティスに取り組む文化があるかどうかが最も重要です。もし、単にE2Eテストをコードで効率的に書きたいだけであれば、PlaywrightやCypressの方が学習コストが低く、開発者にとってのメリットが大きい場合があります。Cucumberを選択するということは、テストの書き方だけでなく、チームの働き方を選択するという側面も持ち合わせています。