Cline 調査レポート
1. 基本情報
- ツール名: Cline
- ツールの読み方: クライン
- 開発元: Cline Bot Inc.
- 公式サイト: https://cline.bot/
- 関連リンク:
- GitHub: https://github.com/cline/cline
- ドキュメント: https://docs.cline.bot/
- レビューサイト: G2、Capterra、ITreview等にまとまったレビューは登録されていない(2026年1月時点)
- カテゴリ: AIコーディング支援
- 概要: Clineは、IDE(VS Code, JetBrainsなど)やCLIで動作するオープンソースのAIコーディングエージェント。単なるコード補完ツールとは異なり、コードベース全体を理解し、開発者と対話しながら複雑なタスクの計画を立て、複数ステップの変更を実行する能力を持つ。
2. 目的と主な利用シーン
- 解決する課題: 大規模なリファクタリング、新機能の追加、バグ修正など、単一ファイルの変更では済まない複雑なコーディングタスクの自動化と効率化。
- 想定利用者: ソフトウェア開発者、特にアーキテクトやシニアレベルのエンジニア、セキュリティを重視する企業の開発チーム。
- 利用シーン:
- 既存のコードベースへの新機能の追加
- プロジェクト全体にわたる大規模なリファクタリング
- 複雑なバグの根本原因の特定と修正
- 既存のコードに基づいたテストコードの生成
- ターミナルコマンドの実行とデバッグ
3. 主要機能
- Plan Mode: 変更を加える前に、コードベースを調査し、開発者と協力して包括的な実行計画を作成する。
- Agent Loop: 計画に基づき、ファイルの読み取り、コードの編集、コマンドの実行といった一連のタスクを自律的に実行する。
- Model Freedom: Claude (Opus 4.5), GPT (5.1), Gemini (3.0 Pro), Grok (4.1)など、最新の主要な大規模言語モデルを自由に切り替えて利用可能。ユーザー自身のAPIキーを使用する(BYOK)。
- Client-side Architecture: ユーザーのコードは外部サーバーに送信されず、ローカル環境で実行されるため、セキュリティが高い。
- .clinerules: プロジェクト固有のコーディング規約やアーキテクチャパターンを定義し、Clineに遵守させることができる。
- Hooks & Workflows:
TaskStart,TaskCompleteなどのフックを利用して、外部ツールとの連携やカスタムワークフローの構築が可能。 - AGENTS.md Support: プロジェクトルートの
AGENTS.mdファイルに指示を記述することで、エージェントの振る舞いをリポジトリレベルで制御できる。 - Terminal Mastery: ターミナル内で直接コマンドを実行し、その出力を解釈して次のアクションに繋げることができる。
4. 開始手順・セットアップ
- 前提条件:
- VS Code (バージョン 1.85以上推奨)
- 利用するLLMプロバイダーのAPIキー (Anthropic, OpenAI, Gemini, またはローカルLLMなど)
- インストール/導入: VS Codeの拡張機能マーケットプレイスで「Cline」を検索し、インストールする。
- 初期設定:
- インストール後、サイドバーのClineアイコンをクリック。
- 設定画面 (歯車アイコン) を開き、”API Provider” を選択 (例: Anthropic)。
- 取得したAPIキーを入力する。
- クイックスタート: チャット入力欄に「Hello Worldを出力するPythonスクリプトを作成して」と入力し、送信。Clineが計画を立て、ファイルを生成する様子を確認する。
5. 特徴・強み (Pros)
- オープンソース: エージェントの動作が完全に透明であり、監査やカスタマイズが可能。
- 高いコンテキスト理解能力: コードベース全体を把握し、複雑な依存関係を考慮した上で変更を計画・実行できる。
- 最新モデルへの迅速な対応: Claude 4.5, GPT-5.1, Gemini 3.0といった最新・高性能モデルへの追随が非常に早い。
- Bring Your Own Key (BYOK) モデル: 推論コストがプロバイダーへの直接支払いとなり、中間マージンが発生しないため、コストを予測・管理しやすい。
- セキュリティ: コードがローカル環境から出ないため、企業の厳しいセキュリティ要件にも対応可能。SOC 2 Type I, GDPRに準拠。
- 拡張性: Hooks機能やリモートワークフローにより、CI/CDパイプラインへの統合や、独自の開発プロセスに合わせたカスタマイズが容易。
6. 弱み・注意点 (Cons)
- 高いトークン消費量: 広いコンテキストを収集するため、APIの利用料金が急速に増加する可能性がある。
- 学習コスト: 単純なコード補完ツールと比較して、エージェントにタスクを効果的に指示するための習熟が必要。
- セットアップの手間: ユーザー自身でAPIキーを取得し、設定する必要がある。
- 日本語での情報不足: 公式ドキュメントやコミュニティは主に英語で、日本語の情報は限定的。
7. 料金プラン
| プラン名 | 料金 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| オープンソース | 無料 | Cline本体は無料。利用するLLMのAPIキーが別途必要。 |
| Cline Teams | 問い合わせ | 集中請求、利用状況分析、シート管理などのエンタープライズ機能。 |
- 課金体系: 使用するAIモデルのAPI利用料金のみ。ユーザーが契約しているプロバイダー(Anthropic, OpenAI, Googleなど)に直接支払う (BYOK)。
- 無料トライアル: なし (ツール自体が無料のため)。
8. 導入実績・事例
- 導入企業: 公式サイトでは具体的な企業名は匿名だが、金融サービスやFortune 500企業での導入実績が示唆されている。
- 導入事例: Client-sideアーキテクチャが、セキュリティ要件の厳しい企業で採用される決め手となっている。
- 対象業界: 金融、ヘルスケアなど、コードの機密性が特に重視される業界。
9. サポート体制
- ドキュメント: 公式ドキュメントが整備されている (https://docs.cline.bot/)。
- コミュニティ: Discord, Reddit, GitHub Discussionsが活発。
- 公式サポート: GitHub Issuesでのバグ報告や機能リクエストが可能。エンタープライズ向けのサポートも提供。
10. エコシステムと連携
10.1 API・外部サービス連携
- API: Cline自体のAPI提供はないが、MCP (Model Context Protocol) を通じて外部APIやデータベースとの連携が可能。
- 外部サービス連携:
- IDE: VS Code, JetBrains, Cursor, Windsurfに対応。
- モデルプロバイダー: Claude, GPT, Gemini, Grok, Perplexity, Bedrock, Vertex AI, Azure OpenAI, SAP AI Coreなど、主要なモデルプロバイダーと幅広く連携可能。
- Observability: OpenTelemetryとの連携により、エージェントの利用状況やパフォーマンスを監視できる。
10.2 技術スタックとの相性
| 技術スタック | 相性 | メリット・推奨理由 | 懸念点・注意点 |
|---|---|---|---|
| TypeScript / JavaScript | ◎ | Cline自体がTypeScriptで書かれており、AST解析などが非常に得意。 | 特になし。 |
| Python | ◯ | 一般的な言語として高い精度で扱える。 | 仮想環境のパス設定などに注意が必要な場合がある。 |
| Docker | ◯ | ターミナル操作が可能なため、Dockerコマンドの実行やコンテナ管理が行える。 | コンテナ内でのファイル編集には工夫が必要。 |
| React / Next.js | ◎ | コンポーネント構造の理解やファイル分割の提案が得意。 | 大規模なプロジェクトではコンテキストサイズに注意。 |
11. セキュリティとコンプライアンス
- 認証: SSO対応 (エンタープライズプラン)。
- データ管理: Client-sideアーキテクチャにより、ユーザーのコードは外部サーバーに一切送信されない。
- 準拠規格: SOC 2 Type I, GDPR に準拠。
- 監査可能性: オープンソースであるため、セキュリティチームが全コードをレビュー可能。
12. 操作性 (UI/UX) と学習コスト
- UI/UX: チャット形式のインターフェースを基本とし、計画(Plan)と実行(Act)のフェーズが明確に分かれている。リアルタイムでClineの思考プロセスや実行内容が可視化されるため、透明性が高い。
- 学習コスト: GitHub Copilotのような補完ツールに比べると、エージェントの能力を最大限に引き出すためのプロンプトエンジニアリングや、計画のレビュー・修正といった対話的な使い方に慣れが必要。
13. ベストプラクティス
- 効果的な活用法 (Modern Practices):
.clinerulesの活用: プロジェクト固有のルール(命名規則、テスト方針など)を.clinerulesファイルに記述し、プロジェクトルートに配置することで、Clineが一貫したコードを生成するようになる。- Plan Modeの重視: 複雑なタスクの場合、いきなり実行させず、まず計画(Plan)を立てさせ、人間がそれをレビュー・修正してから実行に移すことで手戻りを防げる。
- MCPサーバーの利用: データベースや外部APIへのアクセスが必要な場合、MCPサーバーを介してClineにツールを提供することで、より高度な自動化が可能になる。
- 陥りやすい罠 (Antipatterns):
- コンテキストの過負荷:
@で大量のファイルやフォルダを無差別にコンテキストに追加すると、トークン消費が増えるだけでなく、LLMの注意力が散漫になり精度が低下する。 - Auto-approveの過信: 「Always Allow」モードは便利だが、意図しない破壊的な変更を防ぐため、重要なファイル操作やコマンド実行は必ず人間が確認すべきである。
- コンテキストの過負荷:
14. ユーザーの声(レビュー分析)
- 調査対象: Reddit, Qiita, 個人の技術ブログ (qodo.ai, enyanz.com, sider.ai)。主要レビューサイト(G2, Capterra)には登録なし。
- 総合評価: 全体的に評価は高いが、コストに関する懸念が散見される。
- ポジティブな評価:
- 「数時間詰まっていた問題をAIが解決していくのを初めて目の当たりにした。これがAGIの瞬間だ」(Fortune 500, シニアエンジニア)
- 「セキュリティチームが唯一承認したAIコーディングツール。クライアントサイドアーキテクチャが鍵だった」(金融サービス, CTO)
- アーキテクトやシニアリード向けに作られたツールのように感じ、コードの背後にある広範な意図を理解しているように見える。
- ネガティブな評価 / 改善要望:
- トークン消費量が多く、API料金が非常に高くなる可能性がある。
- セットアップが簡単ではなく、カスタマイズ性では他のCLIツールに劣る場合がある。
- CopilotやCursorのUXの方が初心者には親しみやすい。
- 特徴的なユースケース:
- 大規模なリファクタリングや、既存のフレームワークへの新機能の統合など、人間であれば数日かかるようなタスクを数時間で完了させる。
15. 直近半年のアップデート情報
(出典: Cline GitHub Releases)
- 2026-01-08: (v3.41.0) 新しいモデルプロバイダーとしてMistralをサポート。
- 2025-12-15: (v3.40.1)
apply_patchコマンドの不具合を修正、安定性を向上。 - 2025-12-04: (v3.40.0)
- Gemini 3 Proモデルのデフォルト思考レベルを設定。
- 破損したタスク履歴を自動回復する機能を追加。
- 2025-12-02: (v3.39.0)
- コードレビューのための変更点を説明する
Explain Changes機能を追加。 - Grok 4.1 と Grok Code モデルをサポート。
- コードレビューのための変更点を説明する
- 2025-11-27: (v3.38.3)
TaskCompleteフックを実装。- Claude Opus 4.5をサポート。
- 2025-11-18: (v3.38.0)
- Gemini 3.0 Proをサポート。
- 2025-11-13: (v3.37.0)
- OpenAI GPT 5.1をサポート。
- AGENTS.mdのサポートを追加。
- 2025-10-23: (v3.34.0)
- Hooks機能の追加 (TaskStart, TaskResume, TaskCancel)。
16. 類似ツールとの比較
16.1 機能比較表 (星取表)
| 機能カテゴリ | 機能項目 | Cline (本ツール) | Cursor | GitHub Copilot | Roo Code |
|---|---|---|---|---|---|
| 基本機能 | モデル選択 | ◎ 完全自由 (BYOK) |
△ 制限あり |
◎ GPT-5/Claude 4.5等 |
◎ 完全自由 |
| 環境 | エディタ統合 | ◯ VS Code拡張 |
◎ 独自IDE (VS Codeフォーク) |
◎ 多数のIDEに対応 |
◯ VS Code拡張 |
| エージェント | 自律タスク実行 | ◎ Plan/Actループ |
◯ Agent mode |
◎ Copilot Agents |
◎ Cloud Agents連携 |
| 非機能要件 | オープンソース | ◎ MIT License |
× プロプライエタリ |
× プロプライエタリ |
◎ MIT License |
16.2 詳細比較
| ツール名 | 特徴 | 強み | 弱み | 選択肢となるケース |
|---|---|---|---|---|
| Cline | IDE/CLIで動作する協調型AIエージェント。BYOKモデル。 | オープンソース、高いセキュリティ、モデル選択の自由度。 | 学習コストが高く、API料金が変動する。 | セキュリティ要件が厳しい、または特定のLLMに縛られたくない場合。 |
| Cursor | AI機能を深く統合したフォーク版VS Code。 | コードベース全体を理解し、AIとの対話がスムーズ。 | サブスクリプションモデル。エディタの移行が必要。 | AIとの対話を中心とした開発スタイルを求める場合。 |
| GitHub Copilot | コード補完・生成に特化したAIアシスタント。 | IDEとの統合が強力で手軽に利用開始できる。業界標準。 | BYOKではなくサブスクリプション。透明性はClineに劣る。 | 日常的なコーディングの効率化を求める場合。 |
| Roo Code | Clineのフォーク。クラウドエージェント機能を強化。 | クラウドベースの自律エージェントとの連携、Slack連携。 | 機能が多く複雑。クラウド機能は従量課金。 | チーム全体でAIエージェントを活用したい場合。 |
17. 総評
- 総合的な評価: Clineは、単なるAIアシスタントの域を超え、複雑な開発タスクを遂行可能な「協調型AIエージェント」として非常に強力なツールである。オープンソース、モデルの自由度、高いセキュリティという設計思想は、特にエンタープライズ環境や、AIの動作を完全にコントロールしたいと考えるシニア開発者にとって魅力的。一方で、コスト管理と学習曲線が導入のハードルとなる可能性がある。
- 推奨されるチームやプロジェクト:
- セキュリティ要件が厳しいプロジェクト: コードを外部に送信できず、ローカルで完結させる必要がある場合。
- 大規模なリファクタリング: コードベース全体を理解した上での複雑な変更が必要な場合。
- 最新モデルを活用したいチーム: 特定のプロバイダーに依存せず、その時々の最良のモデル(Claude 4.5, GPT-5等)を柔軟に切り替えたい場合。
- 選択時のポイント:
- コントロールと透明性を重視する場合: オープンソースで動作がすべて可視化されるClineが最適。
- コストの予測可能性を重視する場合: CursorやCopilotのような定額サブスクリプションモデルが適している。
- チーム連携を重視する場合: Slack連携などを持つRoo Codeと比較検討すると良い。