act (nektos/act) 調査レポート
1. 基本情報
- ツール名: act (nektos/act)
- ツールの読み方: アクト
- 開発元: nektos (コミュニティ主導のOSS)
- 公式サイト: https://nektosact.com/
- 関連リンク:
- GitHub: https://github.com/nektos/act
- ドキュメント: https://nektosact.com/introduction.html
- レビューサイト: なし (GitHub Stars: 68k+ / 2026年1月時点)
- カテゴリ: DevOps / CI/CD
- 概要: GitHub Actionsのワークフロー定義ファイル(
.github/workflows)を読み込み、Dockerコンテナを使用してローカル環境で実行するコマンドラインツール。「Think globally, act locally」を掲げ、クラウドへのプッシュなしでCI/CDパイプラインのテストを可能にする。
2. 目的と主な利用シーン
- 解決する課題:
- GitHub Actionsの動作確認のために、修正のたびにコミット・プッシュを行う手間と時間の無駄。
- 「コミット→プッシュ→CI失敗→修正」という長いフィードバックループ。
Makefile等のローカルタスクランナーとCI設定の二重管理。
- 想定利用者:
- GitHub Actionsを利用してCI/CDパイプラインを構築するすべての開発者。
- CIのデバッグに時間を取られているエンジニア。
- 利用シーン:
- CIワークフローのローカルデバッグ: シンタックスエラーやスクリプトの動作をプッシュ前に手元で確認。
- ローカルタスクランナー:
Makefileの代わりにGitHub Actionsの定義を使ってビルドやテストを実行。 - クリーンな環境でのテスト: 依存関係が含まれたDockerコンテナ上でテストを実行し、「自分のマシンでは動く」問題を排除。
3. 主要機能
- ワークフローのローカル実行:
.github/workflows/内のYAMLファイルを解析し、Docker APIを通じてジョブを実行。 - イベントトリガーのシミュレーション:
pushやpull_requestなどのGitHubイベントをローカルで発火させてワークフローを実行。 - アーティファクトの利用: アクション間でのデータの受け渡しやアーティファクトの保存・利用をサポート。
- シークレット管理: ローカルの
.secretsファイルを通じて、APIキーなどの機密情報を安全に注入可能。 - プラットフォーム指定:
-Pオプションにより、ジョブを実行するDockerイメージ(Ubuntuなど)をカスタマイズ可能。 - ドライラン: 実際の実行を行わずに、どのジョブが実行されるかを確認する機能(
act -n)。 - 特定のジョブのみ実行: ワークフロー全体ではなく、特定のジョブを指定して実行可能(
act -j job_name)。
4. 開始手順・セットアップ
- 前提条件:
- Docker Engine (または Docker Desktop) がインストールされ、実行されていること。
- Git がインストールされていること。
- インストール/導入:
# macOS (Homebrew) brew install act # Windows (Chocolatey) choco install act-cli # Linux (Curl) curl -s https://raw.githubusercontent.com/nektos/act/master/install.sh | sudo bash - 初期設定:
- 初回実行時にデフォルトのDockerイメージサイズ(Large/Medium/Micro)を選択するプロンプトが表示される。
.actrcファイルにデフォルトの引数を設定可能。
- クイックスタート:
# リポジトリのルートディレクトリで実行(デフォルトですべてのpushイベントを実行) act # 特定のイベント(例: pull_request)をトリガーとして実行 act pull_request
5. 特徴・強み (Pros)
- 高速なフィードバックループ: コード変更からテスト結果確認までの時間を数分〜数十分から数秒〜数分に短縮できる。コミット履歴を汚さずに試行錯誤が可能。
- GitHub Actionsとの互換性: 標準のYAML構文をそのまま解釈するため、特別な設定ファイルを追加で書く必要がない。
- 環境の一貫性: Dockerコンテナ上で実行されるため、ローカル環境の汚れや依存関係の差異に影響されにくい。
- クロスプラットフォーム: Windows, Mac, Linuxのいずれでも動作(Dockerが必要)。
6. 弱み・注意点 (Cons)
- 完全な互換性ではない: GitHubホステッドランナーの環境を完全に再現できるわけではない。特にプリインストールされているソフトウェアの違いがある。
- Docker依存: 実行にはDocker Engineが必要であり、Docker Desktop等のライセンスやリソース消費(CPU/メモリ)の影響を受ける。
- Docker in Dockerの複雑さ: ワークフロー内でさらにDockerを使用する場合(Serviceコンテナなど)、設定が複雑になりトラブルが発生しやすい。
- Apple Silicon (M1/M2/M3) の課題: 一部のx86_64ベースのDockerイメージを使用する際、エミュレーションによりパフォーマンスが低下する場合がある。
7. 料金プラン
| プラン名 | 料金 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| OSS (MIT License) | 無料 | すべての機能を無制限に利用可能。 |
- 課金体系: 完全無料(オープンソース)。
- 無料トライアル: なし(最初から全機能利用可能)。
8. 導入実績・事例
- 導入企業: 特定の企業導入リストは公開されていないが、GitHub Star数68,000超(2026年1月)という数字が広範な利用を示している。
- 導入事例:
- OSSプロジェクト: コントリビューションガイドラインに「PR作成前に
actでテストを通すこと」を推奨するプロジェクトが多数存在。 - 個人開発者: プライベートリポジトリの無料枠(Actions実行時間)を節約するためにローカルでテストを完結させる。
- OSSプロジェクト: コントリビューションガイドラインに「PR作成前に
- 対象業界: Web開発、クラウドネイティブ開発、DevOpsを採用している全業界。
9. サポート体制
- ドキュメント: User Guide が整備されており、インストールから高度な設定まで網羅されている。
- コミュニティ: GitHub Discussions と Issues が非常に活発。ユーザー同士の助け合いや開発者からのレスポンスがある。
- 公式サポート: 企業による有償サポートはない。コミュニティサポートのみ。
10. エコシステムと連携
10.1 API・外部サービス連携
- API: 外部から制御するための公式Web APIはないが、CLIツールとしてスクリプトから呼び出し可能。
- 外部サービス連携:
- Docker: 実行基盤として必須。
- GitHub: APIトークンを使用することで、GitHub上のリポジトリ情報やパッケージと連携可能。
- VS Code: 公式拡張機能ではないが、
actを統合するサードパーティ製拡張機能が存在する。
10.2 技術スタックとの相性
| 技術スタック | 相性 | メリット・推奨理由 | 懸念点・注意点 |
|---|---|---|---|
| Node.js / JS / TS | ◎ | 軽量なコンテナで高速に動作。 | 特になし |
| Python | ◎ | Python環境のセットアップが容易。 | 特になし |
| Go | ◎ | コンパイル・テストが高速。 | 特になし |
| iOS / macOS | × | DockerはLinuxコンテナがベースのため動作不可。 | macOS固有の機能(Xcode等)は利用できない。 |
| Windows | △ | Docker上でWindowsコンテナを使う必要があり設定が複雑。 | 基本的にはLinuxベースのワークフロー向け。 |
11. セキュリティとコンプライアンス
- 認証: GitHub Personal Access Token (PAT) を
-s GITHUB_TOKEN=...で渡すことでプライベートリポジトリにアクセス可能。 - データ管理: すべてのデータはローカルマシン内で完結し、外部サーバーへの送信は行われない(GitHub APIを叩く場合を除く)。
- 準拠規格: OSSのため特定の認証は取得していないが、コードは公開されており透明性が高い。
12. 操作性 (UI/UX) と学習コスト
- UI/UX: シンプルなCLI。実行結果はGitHub ActionsのウェブUIのログに似た形式でカラー出力され、視認性が高い。
- 学習コスト: DockerとGitHub Actionsの基本知識があれば、追加の学習コストは非常に低い。数個のコマンドオプションを覚えるだけで使える。
13. ベストプラクティス
- 効果的な活用法 (Modern Practices):
- 軽量イメージの利用:
-P ubuntu-latest=node:16-buster-slimのように、必要なツールだけが入った軽量Dockerイメージを指定することで実行速度を上げる。 - Makeでのラップ:
Makefileにtest: actのように記述し、開発者がコマンド一発で実行できるようにする。
- 軽量イメージの利用:
- 陥りやすい罠 (Antipatterns):
- シークレットのコミット:
.secretsファイルを誤ってGitにコミットしてしまう。必ず.gitignoreに追加すること。 - 過度な信頼: 「
actで動いたから本番でも動く」と思い込み、GitHub上での最終確認を怠る。環境差異による失敗はあり得る。
- シークレットのコミット:
14. ユーザーの声(レビュー分析)
- 調査対象: GitHub Issues, Twitter (X), Tech Blogs (Qiita, Zenn, Dev.to)
- 総合評価: 非常に好評。特に「待ち時間」に不満を持つ開発者から熱烈に支持されている。
- ポジティブな評価:
- 「もう “fix ci”, “retry” といったゴミコミットを量産しなくて済むのが最高。」
- 「飛行機の中など、オフラインでもCIの一部を動かせるのが便利。」
- 「デバッグサイクルが圧倒的に速くなった。」
- ネガティブな評価 / 改善要望:
- 「GitHubホステッドランナーに入っているツールがなくてコケることがある(Imageの差異)。」
- 「M1 MacだとDockerの挙動が遅かったり、アーキテクチャ違いで動かないアクションがある。」
- 「
services(DBなど) の立ち上げでトラブルが起きがち。」
- 特徴的なユースケース:
- CIの設定ファイルを「ローカル開発環境のセットアップスクリプト」として兼用し、新規参画者の環境構築を自動化する。
15. 直近半年のアップデート情報
- 2026-01-01 (v0.2.84): メンテナンスリリース。依存パッケージのセキュリティアップデートとバグ修正。
- 2025-12-01 (v0.2.83): Mergify設定の更新など、開発フロー周辺の改善。
- 2025-10-XX (v0.2.82): 依存関係のアップデートによる安定性向上。
- 2025-09-XX (v0.2.81): Matrix展開ロジックの修正や、ステップコンテナのワークディレクトリ処理の修正。
- 2025-08-XX (v0.2.80): テスト環境のベースイメージ更新(buster -> bookworm)。
(出典: GitHub Releases)
16. 類似ツールとの比較
16.1 機能比較表 (星取表)
| 機能カテゴリ | 機能項目 | act | GitHub Actions (Cloud) | CircleCI CLI | Dagger |
|---|---|---|---|---|---|
| 実行環境 | ローカル実行 | ◎ Dockerで再現 |
× 不可 |
◯ 専用コンテナ |
◎ どこでも動作 |
| 互換性 | Actions構文 | ◎ ネイティブ対応 |
◎ 本家 |
× CircleCI構文 |
× 独自/CUE/SDK |
| セットアップ | 容易さ | ◯ Installのみ |
◎ 不要 |
△ Token設定等 |
△ SDK学習必要 |
| コスト | 無料利用 | ◎ 完全無料 |
◯ 制限あり |
◯ 制限あり |
◎ OSS版あり |
16.2 詳細比較
| ツール名 | 特徴 | 強み | 弱み | 選択肢となるケース |
|---|---|---|---|---|
| act | GitHub Actionsローカルランナー | Actionsの資産をそのまま使える。無料。 | 完全な環境再現は困難。Docker必須。 | GitHub Actionsを利用しており、ローカルで高速にフィードバックを得たい場合。 |
| GitHub Actions (Cloud) | 本家クラウド実行環境 | 完全な互換性。セットアップ不要。並列実行能力。 | フィードバックが遅い。デバッグがしにくい。 | 最終的な動作確認、本番デプロイ、重い処理。 |
| CircleCI CLI | CircleCI用ローカルツール | 強力なデバッグ機能とCircleCIとの整合性。 | GitHub Actionsとは互換性がない。 | CircleCIをメインのCIとして利用している場合。 |
| Dagger | ポータブルCI/CDエンジン | 特定のCIツールに依存せず、Go/Python等で記述可能。 | 独自の学習が必要。Actions資産は直接使えない。 | ベンダーロックインを避け、CIパイプライン自体をコードとして管理・ポータブルにしたい場合。 |
17. 総評
- 総合的な評価:
actは、GitHub Actionsを中心とした現代の開発ワークフローにおいて、開発者体験(DX)を大きく向上させる重要なピースである。クラウド上のCIの結果を待つという「無駄な時間」を排除できる点は、個人の生産性だけでなくチーム全体の速度向上に寄与する。 - 推奨されるチームやプロジェクト:
- GitHub ActionsをメインのCI/CDとして採用しているすべてのプロジェクト。
- CIパイプラインの修正や保守を行う頻度が高いDevOpsチーム。
- 選択時のポイント:
- 「ローカルでの事前検証用」と割り切り、最終的な品質保証はクラウド上のGitHub Actionsで行うという運用設計ができるかどうかが鍵となる。完全な互換性を求めすぎると、Docker環境の調整に時間を取られるため注意が必要。