スクラムの進化

スクラムガイド2020の核心と、エクスパンションパックによる戦略的拡張を紐解く

哲学の対比:ルールから戦略へ

スクラムガイド2020はスクラムの「何(What)」、つまり不変のルールを定義します。対してエクスパンションパックは、そのルールを現代のビジネス環境で「どのように(How)」実践し、勝利に繋げるかの戦略的ガイダンスを提供します。

スクラムガイド2020

What

(不変のルール)

エクスパンションパック

How

(オプションの戦略)

核心的転換:アウトプットからアウトカムへ

最大の変更点は、焦点のシフトです。単に「機能を開発・リリースすること(アウトプット)」から、「ビジネスや顧客にとっての真の価値を実現すること(アウトカム)」へと、成功の定義そのものが進化します。

従来の焦点:アウトプット

「何をどれだけ作ったか」

チームの活動は、完成した機能の量やスプリントで消化したストーリーポイントで測られがちでした。これは「ビルドトラップ」に陥る危険性をはらんでいます。

新たな焦点:アウトカム

「どのような価値を生み出したか」

エクスパンションパックは、証拠に基づく経営(EBM)の考え方を導入し、チームの活動がビジネス成果にどう結びついているかを測定・可視化することを推奨します。

戦略的エンジン:証拠に基づく経営 (EBM)

EBMは、価値を測定し、改善するための経験的なフレームワークです。4つの主要価値領域(KVA)を通じて、プロダクトの現状と将来性を客観的なデータで捉えます。

📈

現在の価値 (CV)

プロダクトが今日、顧客に提供している価値。

💡

未実現の価値 (UV)

将来実現可能な、潜在的な価値の最大値。

🔬

イノベーション能力 (A2I)

新しい価値を効果的に提供できる組織の能力。

⏱️

市場投入までの時間 (T2M)

アイデアが顧客の手に渡るまでの時間。

進化するスクラムチームの役割

アウトカムへの焦点は、チームメンバー全員の役割とマインドセットの進化を促します。単なる役割分担から、プロダクトの成功に対する共同所有へと移行します。

プロダクトオーナー:価値戦略家へ

プロダクトオーナーは、バックログの管理者から、EBMを用いてプロダクトの事業的成功に責任を負う戦略的リーダーへと昇格します。

スクラムマスター:組織変革エージェントへ

スクラムマスターは、チームのプロセス円滑化に加え、組織全体にアウトカム主導のマインドセットをコーチングする役割を担います。

開発者:「プロダクト開発者」へ

「開発者」は、コードの品質だけでなくプロダクトの成功そのものに責任を持つ「プロダクト開発者」へと進化します。

開発者 (Developers)

Howを実装する

➡️

プロダクト開発者 (Product Developers)

Whyを理解し、Whatを問い、Howを実装する

  • プロダクト発見への積極的関与
  • 顧客ニーズの深い理解
  • アウトカムへの共同責任

生きたドキュメントとしての進化

エクスパンションパックはGitHub上で公開され、コミュニティの貢献を受け入れながら進化し続けます。これにより、スクラム自体がアジャイルであり続けます。

スクラムガイド

創設者による安定的かつ稀な更新(数年に一度)。フレームワークの核としての安定性を重視。

エクスパンションパック

四半期ごとの更新を計画。AIのような急速に変化する技術やプラクティスに迅速に対応。コミュニティからの貢献を歓迎する「生きたドキュメント」。

新たなフロンティア:チームメンバーとしてのAI

エクスパンションパックは、AIを単なるツールではなく、チームの生産性を向上させる「チームメンバー」として捉える先進的な視点を提示します。これは、現代の技術的現実に対応するための未来志向の要素です。

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詳細比較一覧

スクラムガイド2020とエクスパンションパックの主要な違いを一覧で確認します。

要素 スクラムガイド2020 (The 'What') エクスパンションパック (The 'How')
核心的焦点 価値があり利用可能なインクリメントの提供 具体的なビジネス/顧客アウトカムの実現
プロダクトオーナー バックログ管理を通じた価値の最大化 EBMを用いた戦略策定と仮説検証
開発者 インクリメントを作成する機能横断的な専門家 アウトカムに共同責任を負うプロダクト開発者
スクラムマスター チームと組織に奉仕する「真のリーダー」 アウトカム主導のマインドセットを促進する変革エージェント
AI 言及なし 潜在的なチームメンバーとしての考慮
進化 安定的で稀な更新 コミュニティ主導の継続的な更新(生きたドキュメント)