2025年日本国内における米価高止まりの構造的要因分析および2026年以降の市場展望に関する包括的調査報告書

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作成日: 2025年12月06日

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2025年にお米の価格が未だ下がらない理由(真因)を調査し、今後の米価格の予想をして欲しい。

📋 目次

2025年日本国内における米価高止まりの構造的要因分析および2026年以降の市場展望に関する包括的調査報告書

1. エグゼクティブ・サマリー:2025年の「米価パラドックス」

2025年(令和7年)、日本の米市場は経済学的な常識を覆す特異な現象に直面している。前年(2024年)に発生した「令和の米騒動」と呼ばれる供給不足と価格急騰は、2025年産米の収穫によって緩和されるというのが大方の市場予測であった。実際、農林水産省が公表した統計データによれば、2025年産の作況指数は「やや良(102)」を示し、収穫量は前年比で大幅な増加を記録している 1。通常の需給理論に従えば、供給曲線の右方シフト(供給増)は均衡価格の低下をもたらすはずである。

しかし、現実は理論と大きく乖離している。2025年12月現在、小売店頭における精米価格は5kgあたり4,000円台前半から半ばという歴史的高値圏で推移しており、一部では過去最高値を更新し続けている 2。卸売市場における取引は「閑散」としており、新米が出回る時期特有の価格調整機能が不全に陥っている 4。

本報告書は、なぜ「豊作」が「価格低下」に結びつかないのか、その深層にある「真因(Root Causes)」を、単なる天候要因だけでなく、生産コストの構造的変化、流通在庫の心理的マネジメント、政府・農協による政策的介入、そして消費構造の不可逆的な変容など、多角的な視点から徹底的に調査・分析したものである。さらに、現在水面下で進行している在庫の積み増しが、2026年の市場にどのような「反動(Backlash)」をもたらすか、専門家の予測モデルとデータに基づき、将来の価格推移に関する詳細なシナリオを提示する。

分析の結果、現在の高値は持続可能な均衡点ではなく、生産者のコストプッシュ圧力と、2024年の欠乏体験に基づく流通業者の在庫確保心理、そして政府の価格維持的な政策が拮抗した結果生じた「人工的な高値」である可能性が高いことが判明した。そして、このバランスが崩れる2026年夏頃には、需給の緩みが表面化し、価格暴落のリスクが高まるという「2026年問題」が差し迫っていることを示唆している。


2. 2025年産米の供給実態分析:数量的豊作と質的課題の乖離

価格高騰の原因を解明するためには、まず基礎的な供給データを正確かつ粒度高く把握する必要がある。2025年の収穫状況は、マクロな数字上の「量」と、市場価値に直結するミクロな「質」の間で深刻な乖離が見られる点が最大の特徴である。

2.1 収穫量と作況指数の詳細分析

農林水産省が2025年11月に公表した確定値に近い予想収穫量(10月25日現在)は、主食用米の供給安定を十分に示唆する数値となっている。

項目 2025年産(令和7年産)数値 対前年比較 分析・備考
予想収穫量(1.7mmベース) 746万8,000トン +67万6,000トン 前年比約10%増の大幅な回復 1
予想収穫量(生産者使用網目ベース) 718万1,000トン +66万2,000トン 実質的な市場流通量は718万トン規模 1
全国作況指数 102 - 「やや良」の判定。平年を上回る 1
10a当たり収量(単収) 526kg +7kg 単位面積当たりの生産効率も向上 1

このデータを見る限り、供給量は前年の不作(2023年産、2024年流通分)から完全に回復しており、物理的なコメ不足は解消されていると言える。特に日本の穀倉地帯である東北地方の回復が顕著である。

地域別生産動向の深層

  • 秋田県: 作況単収指数は「103」と東北6県で最高を記録した。8月から9月にかけての大雨被害が懸念されたものの、全般的には天候に恵まれ、予想収穫量は45万3,900トンと前年より5万5,400トンもの増収が見込まれている 5。
  • 青森県: 全体の収穫量は26万2,200トンで、前年比3万9,700トンの増加となった。これは約15%以上の増産にあたり、市場への供給圧力としては十分な規模である 6。
  • 西日本(近畿・中国・四国・九州): 10月上旬から中旬にかけての好天が登熟(穀粒が実ること)を促進し、軒並み単収が前年を上回った。特に九州では前年比+26kg/10a、四国では+24kg/10aと劇的な回復を見せている 1。
  • 北海道: 一方で、北海道は6月上旬までの日照不足が響き、単収は549kg(前年比-13kg)とやや苦戦したものの、全体需給を逼迫させるほどの落ち込みではない 1。

2.2 「隠れた減収」メカニズム:高温障害と歩留まりの悪化

統計上の「豊作」が価格低下に直結しない技術的な要因として、玄米の品質低下による「歩留まり(Yield Rate)」の問題がある。2025年の夏も記録的な猛暑に見舞われた地域が多く、高温障害が玄米の品質に深刻な影響を与えている。

農林水産省が今回初めて公表した玄米品位データは、生産現場の苦悩を浮き彫りにしている 1。

  • 白未熟粒(はくみじゅくりゅう): 全国平均で3.7%(2017-2021年参考値は2.8%)。これは高温によりデンプンの蓄積が阻害され、米粒が白く濁る現象である。白未熟粒は精米時に砕けやすく、食味も劣る。
  • 胴割粒(どうわれりゅう): 1.1%。登熟期の高温や急激な乾燥により、米粒内部に亀裂が入る現象。これも精米工程での砕米発生の主因となる。

精米コストへの波及メカニズム:
通常、玄米1俵(60kg)から得られる白米の量は約54kg(歩留まり90%)とされるが、白未熟粒や胴割粒が多い年はこの歩留まりが低下する。例えば、精米工場で色彩選別機を使って白未熟粒を除去したり、砕米を取り除いたりする過程で、製品として出荷できる白米の量が減少する。
仮に歩留まりが通常より2-3%低下した場合、実質的な製品原価は数%上昇することになる。さらに、質の悪い玄米を加工するための選別ラインの負荷増大や処理速度の低下など、目に見えない製造コスト(マニュファクチャリング・コスト)の上昇も招いている。これが、玄米価格の下落幅以上に、白米卸売価格が下がりにくい技術的な背景である。

2.3 一等米比率の低下とブランド米のプレミアム化

品質のばらつきは、等級比率にも表れている。一等米比率(整粒歩合70%以上などの基準を満たす米の割合)は、産地のブランド価値と価格交渉力を決定づける重要な指標である。

2025年産の一等米比率ランキング(速報値)では、地域間格差が拡大している 7。

  • 高品質地域: 岩手県(96.04%)、長野県(96.02%)、山形県(94.24%)は、高温対策や栽培管理が功を奏し、極めて高い一等米比率を維持した。これらの地域のコメは「高品質米」として希少性が高まり、市場価格を牽引するプライスリーダーの役割を果たしている。
  • 品質低下地域: 関東や東海、近畿以西の一部では、一等米比率が50%を割り込む県も散見される(例:愛知55.02%、大阪47.28%)。等級が下がれば農家の手取りは減少するため、生産者は少しでも高く売れるルート(農協以外への出荷や直販)を模索し、結果として正規流通ルートへの安価な玉の供給が不安定化している。

3. 価格が高止まりする構造的真因(Real Causes)の徹底究明

2025年の米価高騰は、単なる一時的な需給のミスマッチではない。それは、日本農業が抱える構造的なコスト上昇と、市場参加者の心理的バイアス、そして流通構造の変化が複合的に作用した結果である。以下に、その核心となる要因を詳述する。

3.1 生産コスト(Cost-Push Inflation)の不可逆的上昇

価格が下がらない最大の物理的要因は、生産コストの高止まりが米価の「新しい底値(Floor Price)」を形成してしまったことにある。デフレ経済下で長く抑えられてきた米価は、世界的なインフレの波を受け、2025年において劇的なコスト転嫁を余儀なくされた 8。

具体的なコスト増大要因

  1. 肥料価格の高騰: 化学肥料の原料であるリンやカリウムは輸入に依存しており、円安と地政学的リスク(中国の輸出規制やウクライナ情勢等)により価格が高騰したままである。これは一過性のものではなく、構造的なコストアップとして定着している。
  2. エネルギーコスト: トラクター、田植え機、コンバインの燃料となる軽油価格の上昇に加え、収穫後の乾燥調整施設で使用する灯油や電気代の高騰が、収穫コストを直撃している。
  3. 労働コストと「2024年問題」: 物流業界の「2024年問題」に伴う輸送費の上昇は、肥料の搬入から玄米の出荷に至るすべてのサプライチェーンでコストを押し上げた。また、農作業補助者の人件費(最低賃金の上昇)も、限界的な農業経営を圧迫している。

これらのコスト上昇分を回収するためには、従来の価格水準(例:60kgあたり12,000円〜13,000円)では全く採算が合わず、農家が再生産を続けるためには、少なくとも15,000円〜18,000円、あるいはそれ以上の水準が必要となっている。この「生存ラインの上昇」が、価格の下方硬直性を生んでいる。

3.2 「概算金ショック」とJAの戦略転換

2025年産米の価格決定において決定的な役割を果たしたのが、農協(JA)が生産者に支払う「概算金(仮渡金)」の大幅な引き上げである 9。

  • メカニズム: 概算金とは、収穫時にJAが生産者に支払う手付金のようなものであり、これが事実上の「農家の最低手取り額」として機能する。また、JAが卸売業者に販売する際の価格のベース(原価)ともなる。
  • 2025年の異変: 2024年の集荷競争において、JAは民間業者に多くのコメを奪われた(集荷率の低下)。この反省から、JAグループは2025年産米の集荷を確保するため、概算金を前代未聞の高値に設定した。
  • 市場への影響: 一度高く設定された概算金は、農家保護の観点からも事後的に引き下げることは極めて困難である。JAが高い概算金を支払っている以上、卸売業者への販売価格(相対取引価格)も高く設定せざるを得ない。これが、豊作であっても卸値が下がらない直接的な金融的要因である。例えば、2024年産米の取引価格が60kgあたり24,000円という過去最高値を記録した流れを引き継ぎ、2025年産も高値でのスタートを余儀なくされた 11。

3.3 「令和の米騒動」が残した心理的トラウマと行動変容

2024年の夏に発生したスーパーからのコメ消失現象(令和の米騒動)は、市場参加者(生産者、流通業者、消費者)の心理に不可逆的な変化をもたらした 9。

  • 生産者の強気: 長年「作っても余る」「価格は下がる一方」というデフレマインドに支配されていた生産者は、「コメは高くても売れる」「不足すれば価格は跳ね上がる」という実体験を得た。これにより、安値提示に対して出荷を拒否し、倉庫に保管して様子を見る(売り惜しみ)行動が合理的な選択となった。
  • 流通業者の恐怖: 卸売業者や小売バイヤーは、「商品を欠品させることの恐怖」を味わった。そのため、多少高くても在庫を確保しようとするバイアスがかかり、価格交渉において買い手側の立場が弱くなった。
  • 「逆転現象」の発生: 通常であれば、新米が出回れば前年産米(古米)の価格は暴落するが、2025年は古米の仕入れ値が高騰していたため、新米価格もそれに引きずられる形で高値が維持されるという異常な価格形成(逆転現象)が発生している 9。

3.4 流通構造の複雑化と「中抜き」業者の台頭

コメの流通ルートはかつての「農家→JA→卸→小売」という単純な構造から大きく変容している 13。

  • 新規参入者の増加: 米価高騰を好機と見た新規の中間業者やブローカーが参入し、農家から直接買い付けを行う事例が増えた。これにより産地での買い付け競争(集荷合戦)が激化し、産地価格が吊り上げられた。
  • 在庫の分散と不透明化: JA経由のルートであれば在庫量や価格が可視化されやすいが、中抜き業者や直販ルートに流れたコメは統計に表れにくく、市場全体の需給判断を難しくしている。一部の業者は、価格上昇を見込んで在庫を抱え込んでいる(投機的在庫)との指摘もあり、これが市場へのスムーズな供給を阻害している 13。

4. 政策的要因の深層分析:市場不介入という名の「介入」

2025年の米価高止まりを語る上で、政府・農林水産省の政策スタンスは無視できない要素である。表向きは「市場原理」を掲げつつも、実質的には高値維持を容認、あるいは支援するかのような政策運営が行われている。

4.1 鈴木農水大臣の「市場コミット拒否」の真意

2025年10月に就任した鈴木憲和農林水産大臣は、就任直後から米価政策について一貫して「市場重視」の姿勢を崩していない 14。

  • 発言の分析: 鈴木大臣は「価格はマーケットの中で決まるべき」「政府が価格にコミット(関与)すべきではない」と繰り返し述べ、価格水準への具体的言及を避けている。これは、石破茂元首相や森山幹事長が「5kg 3,000円台が適正」と具体的なターゲットプライスを口にしたのとは対照的である 15。
  • 備蓄米放出の断固拒否: 「令和の米騒動」の際も、そして2025年の高値局面においても、政府備蓄米の放出を一貫して否定している。その論理は「備蓄米は凶作による物理的な供給不足(100万トンレベルの不足)に備えるものであり、価格調整のために放出すれば市場を歪める」というものである 14。
  • 市場へのシグナル: しかし、専門家はこの「不介入」こそが、市場に対する強力な「高値容認シグナル」になっていると指摘する。供給が回復しても政府が調整弁(備蓄米)を使わないと宣言することで、市場参加者(特に売り手側)は「価格が強制的に下げられるリスクはない」と安心し、高値維持の戦略をとりやすくなる 14。

4.2 「おこめ券」配布政策とマッチポンプ批判

2025年11月に閣議決定された経済対策において、物価高騰対策として「おこめ券(Kome-ken)」等の配布が含まれたことは、米価の維持に強く作用する政策と見なされている 16。

  • 政策の詳細: 政府は「重点支援地方交付金」を拡充し、低所得者世帯等を対象に「おこめ券」や電子クーポンを配布する支援策(一人当たり約3,000円相当の加算など)を盛り込んだ。総額は約4,000億円規模とされる 17。
  • 経済学的効果: 通常、必需品の価格が高騰すれば、消費者は代替財(パンや麺)にシフトし、需要減退を通じて価格は均衡点まで下落する。しかし、補助金(おこめ券)によって消費者の購買力を補填すれば、高い価格のままでも需要が維持されることになる。
  • 「マッチポンプ」の構造: キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁氏らは、この政策を厳しく批判している。減反政策(生産調整)によって供給を絞り米価を上げつつ、その副作用である国民負担を税金(おこめ券)で穴埋めするという、政府による自作自演(マッチポンプ)の政策であり、JAグループや農家の収益を守るための「高価格維持政策」であるとの指摘である 16。

4.3 2026年産に向けた「減産」指針の影響

農水省は2025年10月末の食糧部会において、2026年産米の適正生産量を711万トンとする基本指針を決定した 18。2025年産の予想収穫量(約747万トン)と比較して、来年は約36万トンも生産を絞る方向性を示している。

このタイミングでの「減産シグナル」の発出は、現在の市場心理に大きな影響を与える。
「来年は供給が減らされる」という見通しがあれば、流通業者は「今年の在庫は貴重になるかもしれない」と考え、在庫放出を急がなくなる。つまり、将来の供給削減計画が、現在の在庫の流動性を低下させ、価格を下支えする要因となっているのである。


5. 需要サイドの構造変化:消費者の「静かなる反乱」と輸入米の台頭

供給・価格構造の変化に対し、需要サイド(消費者・外食産業)では静かだが確実な構造変化が進行している。短期的には価格を下げる圧力にはなっていないが、中長期的には国産米市場を縮小させる重大な脅威となりつつある。

5.1 代替財へのシフトと「パン・麺」の逆転

米価の高騰に伴い、家庭内消費における「米離れ」が加速している。価格弾力性(価格の変化に対する需要の変化率)が低いと思われていた主食市場において、明確な代替行動が観測されている。

  • 消費データの変化: 米穀機構の調査によると、2025年の精米消費量は前年同期比でマイナスが続いており、5ヶ月連続で減少した月もある 19。
  • 購買行動の変容: コープ(生協)の調査では、主食を選ぶ理由として「パンや麺は安い、経済的だから」という回答(9.4%)が、「米」を選ぶ理由(6.4%)を初めて逆転した 20。これは、これまでの「米は安くて腹持ちが良い」という国民的常識が、価格高騰によって崩れ去ったことを意味する。
  • 若年層・子育て層の離脱: 特に30代〜40代の子育て世代において、「米が高くて買えない」という理由で購入量を減らす動きが顕著であり、パスタやうどんへの切り替えが進んでいる 21。

5.2 外食産業における「輸入米」への不可逆的シフト

さらに深刻な構造変化は、外食・中食産業(業務用米市場)における国産米から輸入米への切り替えである。これは一度定着すれば元に戻りにくい「不可逆的」な変化である。

  • 価格差の逆転: 従来、輸入米(MA米や民間輸入米)は品質面やイメージから敬遠されていた。しかし、国産米価格が高騰し、卸値が60kgあたり20,000円を超えたことで、高額な関税(kgあたり341円)を支払ってもなお、輸入米の方が割安になるという異常事態が発生した 22。
  • 民間輸入の急増: 2024年度の民間輸入量(関税を払って輸入される枠外輸入)は急増しており、大手商社(兼松など)が米国産米の1万トン規模の輸入を計画するなど、輸入ルートが本格的に確立されつつある 22。2024年7月の輸入量は前年同月比で200倍以上を記録したデータもある 23。
  • ブレンド米の普及: 大手牛丼チェーン、コンビニエンスストアのおにぎり、定食チェーンなどにおいて、国産米にカリフォルニア米や豪州産米をブレンドしてコストを抑制する動きが水面下で広がっている。小泉元農相も「静かに入ってきている可能性がある」と認めており、外食産業のメニューに「米国産・国産ブレンド」の表記が増え始めている 23。
  • 投資判断への影響: アナリストレポートによれば、外食企業にとって2025年後半から2026年にかけての米価動向は収益を左右する最大要因であり、リスク分散の観点から輸入米の採用は経営戦略として正当化されている 22。

6. 在庫ダイナミクスと「2026年問題」:暴落のシナリオ

現在の高値構造と、水面下で進行する在庫の積み増しを踏まえ、2026年に向けた米価格の推移を予測する。結論から言えば、**「2026年夏に在庫過多による暴落(クラッシュ)が発生するリスク」**が極めて高い。

6.1 民間在庫の激増予測

農林水産省や民間シンクタンクの予測データは、衝撃的な未来を示唆している。

時期 予測在庫量(民間在庫) 比較対象 意味合い
2026年6月末 200万トン ~ 229万トン 2015年(226万トン) 過去10年で最大級の在庫過剰 24
適正在庫水準 180万トン ~ 200万トン - 適正上限を大幅に超過

この229万トンという数字は、かつて米価が暴落し、農家経営が危機に瀕した2014年-2015年(平成26-27年)の水準に匹敵する 24。

6.2 大手米卸社長の警告:「暴落は間違いない」

米卸最大手「神明ホールディングス」の藤尾益雄社長は、2025年12月の講演において、「このままいけば(米価格が)暴落するのは間違いない。どこまで暴落するかはわからないが、かなり暴落する可能性はある」と強い言葉で警告を発した 24。

暴落のメカニズム:

  1. 倉庫の満杯: 2025年産米が高値で売れ残り、在庫として積み上がる。
  2. 新米スペースの欠如: 2026年の収穫時期(秋)が近づくと、倉庫を空けるために在庫を処分しなければならなくなる。
  3. 投げ売りの連鎖: 一部の業者が在庫調整のために安値で放出し始めると、市場全体が「下げ相場」に転じ、買い手が買い控える中で価格がスパイラル的に下落する。

6.3 専門家による価格予測シナリオ

複数の専門家レポートや予測モデル 22 を総合すると、以下の3つのシナリオが描かれる。

シナリオA:高値維持・軟着陸(確率:低)

  • 推移: 2026年も5kg 4,000円前後を維持。
  • 条件: 2026年産が不作になる、または政府が大規模な市場隔離(備蓄米買い入れ等)を行う。
  • 結果: 消費者の米離れが決定的になり、輸入米が完全に定着する。

シナリオB:在庫調整による暴落(確率:高)

  • 推移: 2026年夏頃から急落。5kg 3,000円割れを試す展開。
  • 条件: 在庫が200万トンを超え、消費減退が続く(現状のトレンド)。
  • 結果: 消費者には恩恵があるが、高コスト体質になった生産者が耐えきれず、離農が加速する。

シナリオC:スタグフレーション(確率:中)

  • 推移: 名目価格は下がらないが、販売数量が激減し、実質的な市場規模が縮小する。
  • 条件: コストプッシュインフレが続き、値下げ余地がない中で、消費者が購入を諦める。

テックジムの専門家予測では、標準シナリオとして「2026年初頭まで高値圏での推移が続く」としつつも、長期的には生産調整やコスト増により値下がりは期待しにくいとしている 26。一方で、在庫積み上がりによる需給緩和圧力は無視できず、2026年後半の調整局面は不可避であろう。


7. 長期的影響:日本農業の構造的危機

価格の乱高下は、日本農業の足腰を弱らせる深刻な副作用をもたらす。

7.1 離農の加速と供給基盤の崩壊

2025年の高米価は、一時的には農家の収益を改善させたように見えるが、実際には「離農」を止める力にはなっていない。

  • 高齢化の限界: 農業従事者の平均年齢は67.6歳に達し、さらに上昇している 28。
  • 経営リスクの増大: 資材高騰、気候変動リスクに加え、政策の不確実性(猫の目農政)が、後継者や新規就農者の参入意欲を削いでいる。
  • 弾力性の喪失: JA全中の食糧部会では、生産者が減り続けることで「需要に応じた供給(増産)」を行う能力、すなわち「供給の弾力性」があと数年で完全に失われるとの危機感が共有されている 18。

7.2 負のスパイラル

「高値による消費減退」→「在庫過多」→「価格暴落」→「離農加速」→「供給不足」→「価格再高騰」という、振幅の激しい「負のスパイラル(ボラティリティの増大)」が常態化する恐れがある。安定した価格と供給という、かつての日本米市場の常識は崩れ去ろうとしている。


8. 結論と提言

8.1 結論

2025年の米価が下がらない真因は、以下の複合要因に集約される。

  1. コスト構造の不可逆的変化: 肥料・エネルギー・労賃の高騰による損益分岐点の上昇。
  2. 市場心理の硬化: 「令和の米騒動」のトラウマによる売り惜しみと、JAの高概算金設定による価格の下方硬直性。
  3. 政策的な高値誘導: 政府の「備蓄米放出拒否」と「おこめ券配布」による需要下支え(マッチポンプ構造)。
  4. 流通の機能不全: 高値在庫を抱えた業者の様子見による市場の流動性低下。

8.2 将来予測のまとめ

  • 2025年冬~2026年春: 高値安定(5kg 3,800円〜4,300円)。消費者は高値を受け入れざるを得ないが、パン・麺への流出は続く。
  • 2026年夏~秋: 在庫ショックによる調整局面。229万トン級の在庫が重石となり、価格が急落(暴落)するリスクが極めて高い。

8.3 提言

  • 消費者への提言: 短期的には高値が続くため、ふるさと納税の活用や、信頼できる農家との「年間契約(農家直販)」 13 を結ぶことで、中間マージンを省き、価格変動リスクを回避する自衛策が有効である。
  • 政策当局への提言: 目先の価格維持や選挙対策的な「おこめ券」バラマキではなく、2026年の暴落リスクを見据えた在庫の市場隔離策(備蓄米の戦略的運用)や、飼料用米へのスムーズな転換支援など、市場のソフトランディングに向けた出口戦略を早急に策定すべきである。また、輸入米との競合が不可避となる中で、国産米のコスト競争力を高めるための真の構造改革(スマート農業の実装、農地の集約化)を加速させる必要がある。

以上


本報告書における主要参照データ・引用元一覧

  • 市場・価格データ: 2
  • 収穫・品質データ: 1
  • コスト・心理要因: 8
  • 政策・政治分析: 14
  • 消費・需要動向: 19
  • 将来予測・在庫: 22
  • 構造問題: 18

引用文献

  1. 25年産米 収穫量746万8000t 9月予想より9000t下振れ|JAcom …, 12月 6, 2025にアクセス、 https://www.jacom.or.jp/kome/news/2025/11/251119-85813.php
  2. 米価「下がる」見通し判断 さらに増える 米穀機構調査|JAcom 農業 …, 12月 6, 2025にアクセス、 https://www.jacom.or.jp/kome/news/2025/12/251204-86117.php
  3. 27年6月末 最大245万tの民間在庫 米の需給見通し - JAcom, 12月 6, 2025にアクセス、 https://www.jacom.or.jp/kome/news/2025/10/251031-85458.php
  4. 株式会社日本農産情報 トップページ, 12月 6, 2025にアクセス、 https://nousan-j.com/
  5. 2025年産米の作況単収指数 秋田県全体で「103」 渇水や大雨被害の影響少なく東北6県で最高に, 12月 6, 2025にアクセス、 https://www.fnn.jp/articles/-/962848
  6. 2025年産米 予想収穫量 前年産比 3万9700t増加 ABAニュース, 12月 6, 2025にアクセス、 https://www.aba-net.com/news/news-161509.html
  7. 都道府県別一等米比率 - とどラン, 12月 6, 2025にアクセス、 https://todo-ran.com/t/kiji/11788
  8. 【2025年最新】米の値上がりの理由と今後の予測、「安くておいしいお米を手に入れる方法」, 12月 6, 2025にアクセス、 https://guide.furusato-izumisano.jp/guide/255/
  9. 今年の新米事情を徹底分析!豊作なのに価格は下がらない理由とは? - 神戸ステーキハウス 和豪, 12月 6, 2025にアクセス、 https://wagou.jp/fcblog/2025/09/13/8501/
  10. 【2025年8月】米の価格推移と今後の予測|価格が高騰している理由とお得に購入する節約術を解説 コメチャンネル 公明党, 12月 6, 2025にアクセス、 https://www.komei.or.jp/komechan/safety/cost-of-rice-202508/
  11. コメの価格なぜ下がらない? ニュース - 公明党, 12月 6, 2025にアクセス、 https://www.komei.or.jp/komeinews/p393185/
  12. 2025年産の新米の卸価格はどうなる?|JAの買取価格(概算金)データを元に今年の卸価格を予測 - クールコネクト, 12月 6, 2025にアクセス、 https://www.cool-c.com/column/72
  13. 2025年版!今後の米の価格はどうなる?安定的に購入する方法とは - たんぼや市河十三代, 12月 6, 2025にアクセス、 https://tanboya-ichikawa.com/contents_post/2025komekakaku/
  14. 【批判殺到】鈴木憲和農水大臣の「コメ市場任せ」発言が物価高を悪化させる理由 - note, 12月 6, 2025にアクセス、 https://note.com/zep4/n/n7433136b5225
  15. 政治家の「コメ価格誘導発言」を禁じる法制化を !・・・鈴木新農相の”価格コミットしない”原則を一過性で終わらせない|浅川 芳裕 - note, 12月 6, 2025にアクセス、 https://note.com/yoshihiroasakawa/n/nac3cdb6f3390
  16. 高市首相の「食料安保を守る」と矛盾する…鈴木農水大臣が進める”コメの値段を下げさせない”新政策の正体 キヤノングローバル戦略研究所, 12月 6, 2025にアクセス、 https://cigs.canon/article/20251127_9434.html
  17. 『令和のコメ騒動』(9)「おこめ券」の意義と課題 食料自給率と …, 12月 6, 2025にアクセス、 https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20251204.html
  18. 米生産 現場は離農増を懸念 経営環境の安定化が急務 食糧部会 - JAcom, 12月 6, 2025にアクセス、 https://www.jacom.or.jp/nousei/news/2025/11/251105-85528.php
  19. 米の消費減、5ヵ月連続に 米穀機構調査 米からめん類に替える人も 2025年8月28日 - JAcom, 12月 6, 2025にアクセス、 https://www.jacom.or.jp/kome/news/2025/08/250828-84113.php
  20. 2025年 お米についてのアンケート調査お米を買うときに重視することは「国産米である(83.4%)」が圧倒的多数。消費者の譲れない「こだわり」が明らかに。 - 日本生活協同組合連合会, 12月 6, 2025にアクセス、 https://jccu.coop/info/newsrelease/2025/20251120_01.html
  21. お米の消費実態調査2025:毎日2回以上食べる人は5割弱、価格高騰が消費減少の主要因に, 12月 6, 2025にアクセス、 https://www.commercepick.com/archives/64948
  22. 2025-2026年 日本の米価格見通し: 輸入米増加の影響と投資視点 - PERAGARU, 12月 6, 2025にアクセス、 https://alt-data.peragaru.net/reports/1deed12c-8c42-807d-b25d-f43d1d4926fd
  23. 輸入米増加で国産米販売落ちる 中食・外食向け 7月 - JAcom, 12月 6, 2025にアクセス、 https://www.jacom.or.jp/kome/news/2025/09/250902-84210.php
  24. 「このままでは暴落」 神明社長、米生産者大会で 消費減退に懸念 …, 12月 6, 2025にアクセス、 https://www.jacom.or.jp/kome/news/2025/12/251204-86118.php
  25. 米の民間在庫量 来年6月末 198万~229万玄米tの見込み 2025年9月18日 - JAcom, 12月 6, 2025にアクセス、 https://www.jacom.or.jp/kome/news/2025/09/250918-84567.php
  26. 米価格はいつまで高騰が続く?最新動向と今後の見通しを徹底解説 - テックジム, 12月 6, 2025にアクセス、 https://techgym.jp/column/rice/
  27. 米(コメ)の需給、価格、騒動ピークアウト予測モデルを生成AIで開発してみた - エネがえる, 12月 6, 2025にアクセス、 https://www.enegaeru.com/ricesupplyanddemandforecastmodel
  28. 農業経営体 5年で約25万減 82万8000経営体 2025農林業センサス結果 - JAcom, 12月 6, 2025にアクセス、 https://www.jacom.or.jp/nousei/news/2025/11/251128-86002.php
  29. 【農業業界】時流予測レポート2025 (今後の見通し・業界動向・トレンド) - 船井総研, 12月 6, 2025にアクセス、 https://www.funaisoken.co.jp/dl-contents/jy-agriculture_S076
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