NHKの構造的赤字と2030年代の存続モデル:公共放送の財政的持続可能性と機能変容に関する包括的分析

タグ: 経営

作成日: 2026年01月27日

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NHKが赤字経営が続いている状況だが、このまま赤字が続いた場合のNHKの行く末についてまとめて欲しい。

📋 目次

NHKの構造的赤字と2030年代の存続モデル:公共放送の財政的持続可能性と機能変容に関する包括的分析

1. 序論:公共放送が直面する「複合的危機」の構図

1.1 問題の所在:赤字経営の深層

日本放送協会(NHK)は現在、組織の存立基盤を揺るがす複合的な危機に直面している。表面的な事象として最も注目されているのが、2023年度(令和5年度)決算における大幅な赤字計上と、それに続く中期的な赤字見通しである。一般企業において、赤字の常態化は経営破綻への序曲と解釈されるが、特殊法人であり公共放送であるNHKの場合、その力学はより複雑怪奇である。

NHKの赤字は、単なる放漫経営の結果ではない。それは、受信料値下げという高度な政治的圧力への対応、物価高騰による調達コストの上昇、そして何よりも「放送から通信へ」という歴史的なメディア環境の変化への適応コストが重なり合った結果である。2023年10月に断行された受信料の約1割値下げは、年間約700億円規模の減収をもたらし、収支構造を根本から変質させた。この減収影響が通年で及ぶ2024年度、2025年度においても、事業収支差金がマイナスとなることは確実視されている1。

しかし、この赤字を単なる「財務上の危機」と捉えるだけでは、NHKの行く末を見誤ることになる。NHKには、過去の受信料収入の蓄積である「財政安定のための繰越金」や、関連団体を含めた連結ベースでの膨大な剰余金が存在しており、短期的(今後3〜5年)な資金ショートのリスクは極めて低い。それにもかかわらず、「赤字」が強調される背景には、内部留保を取り崩すことで「国民への還元」をアピールしつつ、組織のスリム化やネット業務への投資原資を正当化するという、戦略的な意図が見え隠れする。

本報告書では、NHKの財務状況を「構造的赤字」と「戦略的赤字」の両面から解剖し、2025年の放送法改正に伴うインターネット業務の必須化、放送波(BS・ラジオ)の削減、そして英国BBCの先行事例との比較分析を通じて、赤字が続いた先に待ち受けるNHKの未来像を包括的に論じる。

1.2 報告書の構成と分析視座

本報告書は、NHKの経営問題を単一の視点ではなく、以下の多角的な視座から分析するものである。

  1. 財務的視座: 決算書における赤字の実態と、内部留保(埋蔵金)による耐久力の検証。
  2. 法的・制度的視座: 2025年施行の改正放送法がもたらす「インターネット必須業務化」と「ネット受信料」の制度設計。
  3. 技術的・インフラ視座: 衛星放送(BS)およびAMラジオ放送の縮小・廃止に伴う公共インフラとしての機能変容。
  4. 国際比較視座: 受信料凍結とインフレによりNHK以上の苦境にある英国BBCのリストラ策(Digital First戦略)との比較。

これらの分析を通じ、2030年代に向けてNHKが辿りうるシナリオを提示する。特に、赤字構造が是正されなかった場合、組織がどのように変質し、あるいは解体的な出直しを迫られるのかについて、具体的な予測を行う。

2. 財務構造の解剖:赤字のメカニズムと耐久力

2.1 2023-2024年度決算に見る収支の断層

NHKの財務状況を理解するためには、まず直近の決算数字を精緻に読み解く必要がある。2023年度(令和5年度)の決算において、NHKは事業収支差金で赤字を計上した。この赤字は突発的な事故によるものではなく、構造的な要因に基づいている。

受信料収入の激減

最大の要因は、2023年10月に実施された受信料値下げである。地上契約・衛星契約ともに約1割の値下げが行われた結果、年間ベースで約700億円の減収効果が発生している。2023年度はこの影響が半期分であったが、2024年度以降は通年での減収となるため、収入のベースラインが一段階切り下がった状態が固定化される。加えて、契約件数そのものも減少傾向にある。少子高齢化による世帯減に加え、若年層のテレビ離れ、さらに物価高による家計防衛意識の高まりが、未契約や解約を後押ししている1。

支出の高止まりと物価高

一方で、支出面では削減が追いついていないのが現状である。番組制作費は、高精細な映像制作や出演料の高騰により上昇圧力がかかっている。さらに、放送センターの建て替えや、全国に張り巡らされた送信網の維持管理コストは、資材価格やエネルギー価格の高騰(インフレ)の影響を直に受けている。2024年度予算案において、事業支出は依然として高水準を維持しており、収入減少分をコストカットで吸収できていないことが明らかである2。

以下の表は、直近の財政状況を整理したものである。

項目 財務状況の概要 構造的要因
事業収支 2023年度決算、2024年度予算ともに赤字 受信料1割値下げによる恒久的な収入減
赤字額 年間数百億円規模(400〜600億円程度) 収入減に対し、支出削減(スリム化)のペースが遅行
受信契約 純減傾向 世帯数減少、テレビ保有率低下、割増金制度への反発
補填財源 財政安定のための繰越金 過去の黒字蓄積を取り崩して対応

2.2 「財政安定のための繰越金」という名の安全装置

NHKが赤字決算を出しながらも経営危機に陥らない理由は、「財政安定のための繰越金」の存在にある。これは、過去の黒字決算の積立金であり、本来は将来の経営安定や受信料還元のために留保されている資金である。

2023年度末時点で、この繰越金の残高は数千億円規模に上ると推測される。さらに、NHK本体だけでなく、NHKメディアホールディングス傘下の子会社群を含めた「連結剰余金」まで視野を広げると、その資力はさらに強固なものとなる。報道によれば、グループ全体でのプール金(連結剰余金)は5,113億円に達するとの試算もあり、これがいわゆる「NHKの埋蔵金」として議論の的となっている1。

NHK経営陣の戦略としては、この潤沢な内部留保を「赤字の補填」という形で計画的に取り崩していくことにある。これにより、以下の二つの効果を狙っていると考えられる。

  1. 批判の回避: 黒字を出し続ければ「受信料を取りすぎだ」との批判が高まり、さらなる値下げ圧力がかかる。赤字決算を計上し、内部留保を取り崩す姿を見せることで、「経営努力によって国民に還元している」というナラティブ(物語)を構築できる。
  2. 改革の時間稼ぎ: 豊富な資金があるうちに、放送から通信へのインフラ転換や、人員配置の適正化といった構造改革を進めるための猶予期間を確保する。

しかし、中期経営計画(2024-2026年度)においても赤字収支が見込まれており、2025年度には前年度比でさらに80億円の受信料収入減が予測されている1。繰越金は有限であり、現在のペースで赤字を垂れ流し続ければ、数年後には底をつく計算となる。その時こそが、NHKにとって真の「経営危機」の始まりとなる。

2.3 赤字の質:戦略的赤字か、統制不能な赤字か

現在の赤字は、ある程度コントロールされた「戦略的赤字」の側面が強いが、同時に「統制不能な赤字」への移行リスクも孕んでいる。 特に懸念されるのが、インターネット業務の拡大に伴うコスト増である。後述するように、2025年度からネット業務が必須業務化されるが、これに伴うサーバー増強費、配信権処理費、サイバーセキュリティ対策費などは指数関数的に増加する可能性がある。2024年度予算ではネット業務費用として195億円が計上されているが3、これはあくまで「予算」であり、実需に応じたコストがどこまで膨らむかは未知数である。従来の放送インフラ維持費(固定費)に加え、ネットインフラ費(変動費的側面が強い)が重なることで、支出構造が硬直化し、繰越金の枯渇スピードが予想以上に早まるリスクがある。

3. 2025年のパラダイムシフト:インターネット必須業務化と受信料制度の変容

NHKの行く末を決定づける最大の分水嶺は、2025年度後半に予定されている「インターネット活用業務の必須業務化」である。これは、1950年の放送法制定以来の大転換であり、NHKの定義を「電波を飛ばす組織」から「情報を届ける組織」へと書き換えるものである。

3.1 任意業務から必須業務への昇格

これまで、NHKのインターネット配信(NHKプラス、ニュースサイト等)は、放送法上、放送を補完する「任意業務」と位置づけられてきた。そのため、実施予算には「受信料収入の20%」といった厳しい上限(キャップ)が課されており、あくまで放送の従属物としての扱いだった。

しかし、改正放送法の施行により、インターネット配信は放送と並ぶ「本来業務(必須業務)」へと格上げされる4。これにより、予算のキャップ規制が撤廃または大幅に緩和され、NHKは放送波に縛られずにコンテンツを国民に提供する法的義務を負うことになる。これは、若年層を中心とした「テレビを持たない層」へのリーチを可能にする一方で、肥大化するネット業務コストを誰が負担するのかという新たな火種を生むことになる。

3.2 「ネット受信料」の設計思想と限界

必須業務化に伴い、新たに「ネット受信料」の徴収が開始される。ここで重要なのは、徴収の対象範囲(トリガー)である。総務省の公共放送ワーキンググループやNHKの方針では、以下の点が明確化されている。

  • デバイス保有のみでの徴収不可: スマートフォンやPCを持っているだけでは、受信料徴収の対象とはならない。「スマホを持つだけで受信料を取られる」という国民の懸念に対し、NHKおよび総務省は「選択肢に入らない」と明確に否定している5。
  • 能動的な利用開始が条件: 徴収の対象となるのは、アプリのインストールやID登録を行い、利用規約に同意して「能動的に視聴を開始した者」に限定される見通しである。
  • 地上波契約者への追加負担なし: 既にテレビで受信契約を結んでいる世帯は、追加料金なしでネットサービス(NHKプラス等)を利用できる(現在のモデルを継承)4。

この制度設計は、法的な整合性と国民感情への配慮のバランスをとったものであるが、収益面では大きな課題を残している。テレビを持たない層が、月額料金(地上波契約と同水準の月額1,100円程度を想定)を支払ってまでNHKのネット配信を契約するかは極めて不透明である。NetflixやYouTube Premiumなどの強力な競合が存在する中で、NHKのコンテンツ単体にそれだけの支払意欲(Willingness to Pay)を持つ層は限定的であると考えられる。したがって、ネット受信料が、減少する放送受信料の穴埋めとして即座に機能するとは考えにくい。

3.3 「理解増進情報」の曖昧さと予算配分の懸念

ネット業務の必須化に伴い、議論の的となっているのが「理解増進情報」と呼ばれるカテゴリーである。これは、番組本編の配信だけでなく、番組の内容を理解しやすくするための関連情報(クリップ動画、解説テキスト、文字ニュース等)を指す。

2024年度予算・事業計画案において、ネット業務費用195億円のうち、この「理解増進情報」を含む費用は約90億9千万円と計上されている3。問題は、この情報の範囲が極めて曖昧である点だ。 ビジネスジャーナル等の分析によれば、理解増進情報の基準はNHKの裁量に委ねられており、第三者によるチェック機能が働きにくい構造にある6。

  • 無料と有料の境界線: NHKは現在、ウェブサイトで膨大なニュース記事を無料で提供しているが、これが「理解増進情報」として整理された場合、将来的にどこまでが無料で、どこからが有料(契約が必要)になるのかが不明確である。
  • 民業圧迫の懸念: 無料で質の高いテキストニュースや動画クリップが大量に供給されれば、新聞社や民間ネットメディアの経営を圧迫するという批判が根強い。

赤字経営の中で、この「理解増進情報」にどれだけのリソースを割くかは、NHKの公共性と市場への影響のバランスを問う重大な論点となる。もし赤字が深刻化すれば、無料範囲を縮小して有料契約へ誘導する(ペイウォール化する)圧力が高まる可能性もあるが、それは「公共放送による情報のユニバーサルアクセス」という理念と矛盾することになる。

4. 放送インフラの撤退戦:BSとラジオの削減

赤字経営が続く中、NHKはコスト削減の聖域であった「放送波(チャンネル)の数」に手をつけ、物理的なスリム化を進めざるを得なくなっている。これは、拡大一辺倒だったNHKの歴史における明確な転換点(Turnaround)である。

4.1 衛星放送(BS)の再編とプレミアムの消滅

NHKは従来、BS1、BSプレミアム、BS4K、BS8Kという多チャンネル体制を敷いていたが、2024年3月末をもって「BSプレミアム」の通常放送を終了し、チャンネル再編を断行した7。 この再編の狙いは明確なコスト削減である。特にエンターテインメントやドラマ、紀行番組などを中心とした高コストなコンテンツを放送していたBSプレミアムを廃止・統合することで、衛星放送にかかる帯域使用料や編成コストを圧縮する意図がある。

  • 影響: 長年のBSプレミアムファン(特に高齢層)からの反発は避けられず、これが衛星契約(地上契約より高額)の解約理由となるリスクがある。また、2025年6月には民放BS局(BS松竹東急など)の再編も動いており、衛星放送業界全体が縮小均衡に向かう中で、NHKのプレゼンスも低下していくことが予想される8。

4.2 AMラジオの歴史的転換点:2026年の第2放送廃止

より衝撃的なスリム化が行われるのがラジオ部門である。NHKは現在、ラジオ第1(R1)、ラジオ第2(R2)、FMの3波体制を維持しているが、2026年3月をもって「ラジオ第2放送」を廃止する方針を決定している9。

  • ラジオ第2の機能: 語学講座、気象通報、株式市況、高校講座など、教育・福祉的な番組を専門としてきた。これらは商業ベースに乗りにくい、まさに公共放送ならではのコンテンツであった。
  • 移行先: これらの番組は、FM放送の空き時間や、インターネット配信(らじる★らじる)、ポッドキャストへと移行される。R2の廃止は、95年にわたる歴史の幕引きであり、NHKが「電波」から「ネット」へと軸足を移す象徴的な出来事である。

さらに、AM放送設備(巨大な送信所と広大な敷地、電力消費)の維持コストは極めて高く、老朽化も深刻である。NHKは民放AM局がFM転換(ワイドFM)を進めるのと歩調を合わせ、将来的にはAM放送そのものを全廃し、FM波とネット配信へ一本化するロードマップを描いていると考えられる11。

  • 防災上の懸念: AM波は遠くまで届き、山間部でも受信しやすく、電池の持ちも良いという特性がある。南海トラフ地震などの巨大災害時において、ネット回線が途絶した際の「最後の命綱」としてのAM波を捨てて良いのかという議論は、赤字対策とは別の次元で、国の防災戦略として検証される必要がある。

5. 比較ケーススタディ:英国BBCに見る「未来のNHK」

NHKの「赤字経営の行く末」を予測する上で、最も有力な手掛かりとなるのが英国放送協会(BBC)の現状である。BBCはNHKと同様の受信料(License Fee)制度を採用しているが、日本よりも数年早く、インフレと政府による予算凍結の直撃を受け、過酷なリストラとデジタルシフトを強行している。

5.1 受信料凍結とインフレの二重苦

英国政府は2022年、BBCの受信料を2年間凍結することを決定した12。当時の英国はインフレ率が10%に迫る勢いであり、収入が固定される中での物価上昇は、実質的な予算の急激な削減(Real-terms cut)を意味した。BBCの試算によれば、これにより年間数億ポンド規模の資金不足が生じたとされる。

これに対し、BBCのティム・デイヴィー事務局長は「Digital First(デジタルファースト)」戦略を掲げ、伝統的な放送部門を切り捨てて原資を捻出する道を選んだ13。

5.2 BBCの断行したリストラ策:NHKへの示唆

BBCが実行、あるいは計画している施策は、NHKが今後直面するであろう課題を先取りしている。

  1. チャンネルのネット専業化: 子供向けチャンネル「CBBC」や教養チャンネル「BBC Four」のテレビ放送を終了し、2025年を目処にオンライン(iPlayer)専用サービスへ移行する計画を発表した13。これは、NHKにおける「Eテレのネット移行」議論に直結する先行事例である。
  2. ローカル放送の削減: イングランド各地のローカルラジオ局において、独自番組を大幅に削減し、時間帯によっては全国共通番組や近隣局との共有番組に切り替える措置をとった。これに伴い、約1,000人規模の人員削減や配置転換が進められている13。
  3. ワールドサービスの縮小: 予算不足により、BBCワールドサービスの一部の言語放送をラジオからデジタルのみへ移行するなど、国際的な発信力の一部を縮小せざるを得なくなっている。

5.3 デジタルシフトの副作用と「ユニバーサルサービス」の危機

BBCの改革は、財務的な帳尻を合わせるためには不可避であったが、公共放送としての正当性を揺るがす副作用も生んでいる。

  • 受信料回避(Evasion)の増加: 若年層を中心にTikTokやYouTubeへのシフトが加速し、BBCを利用しない層が増加した。その結果、受信料の支払いを回避する世帯の割合(Evasion Rate)は12.5%にまで上昇し、約11億ポンドの損失が生じているとの報告がある18。
  • 公平性の欠如: 高齢者や低所得者層など、高速インターネット環境を持たない人々が、CBBCやBBC Fourのコンテンツから排除される「デジタル・デバイド」の問題が顕在化している20。これは「誰でも、どこでも見られる」という公共放送のユニバーサルサービスの理念と矛盾する。
  • 地域社会との乖離: ローカルラジオの縮小は、地域社会におけるBBCの存在感を希薄化させ、災害時や地域選挙時の情報拠点としての機能を弱体化させているとの批判がある19。

NHKが今後、赤字対策としてBS削減やラジオ廃止、さらには地上波チャンネルの統廃合(Eテレのネット移行など)を進めた場合、BBCと同様に「受信料を払っているのにサービスが受けられない(または利用しにくい)」という国民の不満が爆発し、受信料不払い運動や制度そのものの崩壊につながるリスクがある。BBCの事例は、デジタル化を急ぐあまり「信頼」という最大の資産を毀損してはならないという教訓を示している。

6. シナリオ分析:赤字が続いた場合のNHKの2030年像

以上の財務分析、法的変更、比較分析を踏まえ、NHKがこのまま赤字経営を続け、内部留保が枯渇し始める2030年頃にどのような姿になっているか、3つのシナリオを予測する。

シナリオA:縮小均衡と「静かなる死」(高蓋然性)

最も可能性が高いのは、抜本的な改革を先送りし、資産を食いつぶしながら徐々にサービスを低下させていくシナリオである。

  • 財務: 2027-2028年頃に内部留保が底をつきかけ、受信料の値上げを模索するが、政治と世論の猛反発に遭い断念。結果、番組制作費が大幅にカットされる。
  • コンテンツ: 再放送(アーカイブ)の比率が劇的に高まる。新作ドラマやドキュメンタリーの本数が減り、海外ニュースの独自取材網も縮小。BSは完全な「再放送チャンネル」と化す。
  • ネット業務: 必須化されたものの、有料契約者は伸び悩み、赤字垂れ流し部門となる。「理解増進情報」も予算不足で更新頻度が低下。
  • 組織: 新規採用の抑制と早期退職募集により、組織の空洞化が進む。地方局は事実上「支局」化し、独自の番組制作能力を喪失する。
  • 結末: 「あってもなくてもいい存在」として国民の関心を失い、受信契約率が6割台まで低下。存在意義が希薄化したまま、ゾンビ企業のように存続する。

シナリオB:デジタルプラットフォーマーへの脱皮(中蓋然性)

BBCの「Digital First」戦略をより過激に推し進め、放送を捨ててネットに生き残りをかけるシナリオである。

  • 制度変革: 受信料制度を「放送受信契約」から、ドイツのような「負担金(全世帯徴収)」や、フランスのような「税金化(テクス・ダビタシオン等への統合)」へ移行させることに成功し、安定財源を確保する。
  • インフラ: 地上波テレビ放送を1波(総合のみ)に集約し、Eテレを完全ネット化。AM放送は全廃。浮いたインフラ維持費をアプリ開発とコンテンツ制作に全振りする。
  • 機能: スマホアプリが国民の必須インフラ(防災、教育、認証基盤)として定着。若年層の利用率が回復する。
  • 結末: 放送局としてのNHKは消滅するが、日本の「公共デジタルメディア基盤」として再生する。ただし、これには放送法の大改正と、国民の強力な合意形成(負担金化への同意)が不可欠であり、ハードルは極めて高い。

シナリオC:解体と機能特化(低〜中蓋然性)

赤字が拡大し、ガバナンス不全や不祥事が重なった場合、政治主導でNHKの解体が進むシナリオである。

  • 分割: NHKを「報道・防災・教育(公共部門)」と「エンターテインメント・スポーツ(商用部門)」に分割する。
  • 資金: 公共部門のみ税金または低額の受信料で運営し、商用部門は完全な民営化(スクランブル化、広告収入、サブスクリプション)で自活させる。
  • 結末: 巨大なNHKは消滅。大河ドラマや紅白歌合戦は民営化された新会社が引き継ぐか、終了する。「公共放送」は災害情報と国会中継、教育番組だけを流す小さな組織となる。

7. 結論:赤字の先にある「公共」の再定義

NHKの現在の赤字経営は、単なる収支の不均衡ではない。それは、戦後日本の放送体制を支えてきた「受信機設置に基づく受信料制度」と「全国あまねく放送するインフラモデル」が、デジタル時代において持続不可能になったことを示すシグナルである。

2025年からの数年間は、NHKにとって「死の谷(Death Valley)」となるだろう。ネット業務を必須化したにもかかわらず、そこからの収益(ネット受信料)は限定的であり、一方で既存のテレビ視聴者からの収入は減り続け、インフラ維持費とネット投資の二重負担が財政を圧迫するからだ。内部留保という「貯金」があるうちに、NHKが自らの身体をどこまで削ぎ落とし、何を守るべきかを選別できるかが勝負となる。

もし、赤字を理由にしたコストカット(BS・ラジオ削減)ばかりが先行し、新たな価値(ネットでの公共性)を提示できなければ、BBCが直面しているような「受信料回避の常態化」と「社会的合意の崩壊」が日本でも現実のものとなる。その時、NHKの行く末は、国民による「不要」の烙印と共に、静かなる解体へと向かうことになるだろう。NHKに残された時間は、繰越金が枯渇するまでの数年しかない。


参照文献・データソース 本報告書の記述は、以下の提供された調査資料に基づいている。 1 NHK決算・予算資料、ビジネスジャーナル報道 5 総務省公共放送WG、PHILE WEB報道 7 BS放送再編に関する公式発表・Wikipedia 9 NHKラジオ廃止・再編に関する報道(ASCII.jp, @DIME等) 12 BBC年次報告書、英国議会報告書、The Guardian等の海外報道

引用文献

  1. NHK、赤字決算の裏で5千億円の剰余金プール…娯楽番組制作費用に1千億円, 1月 27, 2026にアクセス、 https://biz-journal.jp/company/post_381886.html
  2. NHK令和6年度決算の概要, 1月 27, 2026にアクセス、 https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/gian_hokoku/20251216nhkgaiyo.pdf/$File/20251216nhkgaiyo.pdf
  3. 2024年度予算・事業計画案、NHK経営計画に対する見解を表明 メディア開発委員会, 1月 27, 2026にアクセス、 https://www.pressnet.or.jp/news/headline/240209_15320.html
  4. NHKネット配信「必須業務化」は2025年度後半開始を目指す。ネット受信料額は「地上波契約と同水準」, 1月 27, 2026にアクセス、 https://www.phileweb.com/sp/news/d-av/202405/24/60416.html
  5. NHKネット受信料、アプリ入れた時点で徴収? 総務省WGでネット活用“必須業務化”など議論, 1月 27, 2026にアクセス、 https://www.phileweb.com/sp/news/d-av/202305/26/58206.html
  6. 総務省、スマホ所有者からNHK受信料徴収、WGで意見一致…テレビ非保有者も徴収, 1月 27, 2026にアクセス、 https://biz-journal.jp/company/post_340222.html
  7. NHK BSプレミアム - Wikipedia, 1月 27, 2026にアクセス、 https://ja.wikipedia.org/wiki/NHK_BS%E3%83%97%E3%83%AC%E3%83%9F%E3%82%A2%E3%83%A0
  8. 衛星放送の再編など最新動向 - 受信サービス株式会社, 1月 27, 2026にアクセス、 https://www.jushin-s.co.jp/media/category01/a18
  9. NHKラジオ第2放送、2026年3月廃止へ 1931年開始、95年の歴史に幕 - ASCII.jp, 1月 27, 2026にアクセス、 https://ascii.jp/elem/000/004/356/4356432/
  10. 95年の歴史にさよなら!「NHKラジオ第2」が2026年3月で廃止する理由 - @DIME アットダイム, 1月 27, 2026にアクセス、 https://dime.jp/genre/2056173/
  11. NHK R2廃止で“AM1+FM1”へ。民放AM→FM転換の“いま”【2025年10月版】, 1月 27, 2026にアクセス、 https://ameblo.jp/torashi2/entry-12938869871.html
  12. TV licence fee frozen for two years - GOV.UK, 1月 27, 2026にアクセス、 https://www.gov.uk/government/news/tv-licence-fee-frozen-for-two-years
  13. BBC announces raft of closures with CBBC and BBC Four to be online only - The Guardian, 1月 27, 2026にアクセス、 https://www.theguardian.com/media/2022/may/26/bbc-announces-raft-of-closures-cbbc-four-online-only
  14. BBC Four and CBBC TV channels to close as part of further cuts at broadcaster, 1月 27, 2026にアクセス、 https://ca.news.yahoo.com/bbc-four-cbbc-tv-channels-140523312.html
  15. CBBC and BBC Four channels to close by 2025 : r/unitedkingdom - Reddit, 1月 27, 2026にアクセス、 https://www.reddit.com/r/unitedkingdom/comments/uy81nk/cbbc_and_bbc_four_channels_to_close_by_2025/
  16. CBBC and BBC Four to stop being broadcast on TV by 2025, BBC boss confirms, 1月 27, 2026にアクセス、 https://www.examinerlive.co.uk/news/tv/cbbc-bbc-four-stop-being-24071846
  17. BBC to cut 115 jobs in Nations and Regions editorial and production - Press Gazette, 1月 27, 2026にアクセス、 https://pressgazette.co.uk/news/bbc-to-cut-115-jobs-in-nations-and-regions-editorial-and-production/
  18. BBC Accounts and Trust Statement 2024–25 - Parliament UK, 1月 27, 2026にアクセス、 https://publications.parliament.uk/pa/cm5901/cmselect/cmpubacc/1230/report.html
  19. BBC Accounts and Trust Statement 2024–25 - UK Parliament Committees, 1月 27, 2026にアクセス、 https://committees.parliament.uk/publications/50289/documents/272446/default/
  20. The BBC will cease broadcast of CBBC and BBC Four - Empoword Journalism, 1月 27, 2026にアクセス、 https://www.empowordjournalism.com/all-articles/the-bbc-will-cease-broadcast-of-cbbc-and-bbc-four/
  21. Request for changes to BBC’s Operating Licence Ofcom, 1月 27, 2026にアクセス、 https://www.ofcom.org.uk/siteassets/resources/documents/consultations/category-3-4-weeks/consultation-changes-to-the-bbcs-operating-licence/main-documents/request-for-changes-to-bbcs-operating-licence.pdf?v=405797
  22. Television Licence Fee Trust Statement 2024-25 - NAO report - National Audit Office, 1月 27, 2026にアクセス、 https://www.nao.org.uk/reports/television-licence-fee-trust-statement-2024-25/
  23. BBC is losing £1bn a year in potential licence fee revenue, say MPs - The Guardian, 1月 27, 2026にアクセス、 https://www.theguardian.com/media/2025/nov/21/bbc-losing-potential-licence-fee-revenue-say-mps
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