忍び寄るサイレントキラー

メタボリックシンドロームの正体と
加齢との宿命

「メタボリックシンドロームの病態生理:その発症機序と加齢との本質的関連性に関する理論的考察」を元に作成

メタボは、単なる「肥満」ではない

心筋梗塞や脳卒中、2型糖尿病のリスクを著しく高める、
代謝異常の集合体です。

物語の核心①
内臓脂肪

物語の核心②
加齢

あなたは大丈夫? 日本の診断基準

内臓脂肪蓄積は必須項目です。

診断項目 基準値
必須項目
内臓脂肪蓄積
ウエスト周囲径
男性 ≥85 cm / 女性 ≥90 cm
選択項目
(上記に加え2項目以上)
  • 脂質異常: 中性脂肪 ≥150mg/dL or HDLコレステロール <40mg/dL
  • 高血圧: 収縮期 ≥130mmHg or 拡張期 ≥85mmHg
  • 高血糖: 空腹時血糖 ≥110mg/dL

※薬剤治療中も項目に含まれます。

すべての始まり:主犯は「内臓脂肪」

脂肪は単なるエネルギー貯蔵庫ではありません。

すべての始まり:主犯は「内臓脂肪」

特に内臓脂肪は、ホルモンを分泌する
「暴走する内分泌器官」へと変貌します。

善玉 vs 悪玉ホルモン

肥大化した内臓脂肪は、ホルモン(アディポサイトカイン)の分泌バランスを崩壊させます。

善玉の減少

アディポネクチン
インスリン感受性を高め、血管を守る保護的なホルモンが減ってしまう。

悪玉の急増

TNF-α, PAI-1, etc.
炎症を起こし、血栓を作り、血圧を上げる有害なホルモンが溢れ出す。

悪玉ホルモンが引き起こす3つの悲劇

一つの原因(内臓脂肪の暴走)が、メタボの各症状を直接引き起こします。

悪玉ホルモン増加
TNF-α
→ 高血糖
PAI-1
→ 血栓
アンジオテンシノーゲン
→ 高血圧

物語のハブ:「インスリン抵抗性」

悪玉ホルモンの影響で、血糖値を下げるインスリンが効きにくくなる状態です。

これが、メタボの多様な病態を結びつける中心的なハブとして機能します。

高血圧
脂質異常
インスリン
抵抗性
高血糖
血栓傾向

負のスパイラル

インスリン抵抗性に対する身体の「代償反応」が、事態をさらに悪化させます。

1. インスリンが効きにくい(抵抗性)
2. 膵臓が頑張ってインスリンを過剰分泌
(高インスリン血症)
3. この過剰なインスリンが...
高血圧 と 脂質異常症 を直接悪化させる!

行き着く先:「2型糖尿病」

長年インスリンを過剰分泌し続けた膵臓は、やがて疲弊し、機能が低下。

ついに血糖コントロールは破綻し、顕性の2型糖尿病へと移行します。

元気な膵臓

(高インスリン血症期)

膵臓の疲弊

(インスリン分泌低下)

なぜ年を取るとリスクが高まるのか?

加齢という名の「促進因子」

加齢は、メタボのリスクを多角的に、そして強力に加速させます。

① 身体の変化
② ホルモンの衰え
③ 累積的ダメージ

加齢の影響① 身体の変化

筋肉の減少(サルコペニア)

筋肉は、血糖値の主要な「受け皿」です。筋肉が減ると、血糖が処理されにくくなり、インスリン抵抗性が悪化します。

基礎代謝の低下

筋肉が減ることで、安静時のエネルギー消費も低下。同じ量を食べても脂肪がつきやすくなります。

血管内の糖

筋肉(糖の受け皿)

エネルギーとして消費

加齢で「受け皿」が小さくなると、糖が行き場を失います。

最悪のコンビ「サルコペニア肥満」

筋肉が少なく、脂肪が多い状態は、破滅的な悪循環を生み出します。

筋肉が減る
(サルコペニア)
脂肪が増える
(代謝低下)
脂肪が炎症を起こす

増えた脂肪が、さらに筋肉の分解を促進する

加齢の影響② ホルモンの衰え

代謝を制御するホルモンも、加齢とともに劇的に変化します。

ソマトポーズ (男女)

成長ホルモン低下 → 筋肉減少・脂肪増加

メノポーズ (女性)

エストロゲン低下 → 内臓脂肪へ再分配

アンドロポーズ (男性)

テストステロン低下 → 筋肉減少・内臓脂肪増加

加齢の影響③ 累積的ダメージ

「遺伝」という設計図の上に、長年の「生活習慣」が積み重なります。

遺伝的素因
  • 食事
  • 運動不足
  • ストレス
  • 睡眠不足
発症リスク

問題は、これらの影響が単純な足し算ではないことです。

リスクの「乗数効果」

加齢は体の「ハードウェア」を変化させ、生活習慣の悪影響を何倍にも増幅させます。

若い身体

高い基礎代謝と豊富な筋肉量で、多少の不摂生は緩衝できる。


不健康な生活習慣

加齢した身体

代謝も筋肉も落ち、準備万端の身体に悪影響が直撃。深刻な結果に。

メタボの進行と「終着駅」

病態は静かに、しかし着実に進行します。

腹囲増
脂質異常
高血圧
高血糖
心筋梗塞
脳卒中

これら全てが血管を傷つけ、動脈硬化を促進します。

高齢者医療の新しい視点

しかし、後期高齢者では優先順位が変わります。

過度な管理の危険性

フレイル(虚弱)な高齢者への厳格なカロリー制限は、筋肉減少(サルコペニア)を加速させ、転倒や寝たきりのリスクを高める可能性があります。

目標は理想的な数値から、「筋力と生活の質の維持」へ。

結論:生涯を通じたプロセス

メタボリックシンドロームは…

  • 「内臓脂肪の暴走」から始まり、
  • 「インスリン抵抗性」をハブとして全身に広がり、
  • 「加齢」という避けられない要因によって加速される、

生涯にわたる、複雑でダイナミックなプロセスです。

各ライフステージに応じた理解と対策が不可欠です。

ご清覧ありがとうございました

本資料は、科学的知見に基づき、メタボリックシンドロームの理解を深めるために作成されました。

出典:「メタボリックシンドロームの病態生理:その発症機序と加齢との本質的関連性に関する理論的考察」
および、関連する厚生労働省、日本老年医学会等の公開資料。