第1部:物質の構成と性質
1. 物質の分類と分離
私たちの身の回りにある物質は、その成り立ちによって分類され、混合物は様々な方法で分離することができます。これらの基本的な知識は、化学を学ぶ上での第一歩です。
純物質 vs 混合物
純物質: 1種類の物質だけでできているもの。 (例: 水 $H_2O$ 💧, 食塩 NaCl 🧂)
混合物: 2種類以上の純物質が混じり合っているもの。(例: 食塩水, 空気 💨)
純物質は固有の融点・沸点を持ちますが、混合物の性質は成分や割合で変化します。
単体 vs 化合物 vs 元素
元素: 物質を構成する基本的な成分の種類。(例: 水素 H, 酸素 O)
単体: 1種類の元素だけでできている純物質。(例: 酸素ガス $O_2$, 鉄 Fe)
化合物: 2種類以上の元素が化学的に結合した純物質。(例: 水 $H_2O$)
主な混合物の分離方法
混合物から特定の物質を取り出すためには、成分の物理的性質の違いを利用した様々な分離方法があります。適切な方法を選ぶことが重要です。
分離方法 | 利用する性質の違い | 具体例 |
---|---|---|
ろ過 | 粒子の大きさと溶解性 | 泥水から泥を分離 |
蒸留 | 沸点の差 | 海水から純水 |
分留 | 沸点の差 (精密) | 石油からガソリン等 |
再結晶 | 温度による溶解度の差 | 硝酸カリウムの精製 |
抽出 | 溶媒への溶解性の差 | ヨウ素水溶液からヨウ素を分離 |
クロマトグラフィー | 吸着力・分配係数の差 | インクの色素分離 |
2. 原子の構造と周期表
全ての物質は原子からできています。原子の構造と、元素の性質が周期的に変化する周期表の理解は、化学の根幹を成します。
原子の構成粒子
ヘリウム原子 (He) モデル
- 陽子 (P+): 正の電荷。原子核内。
- 中性子 (N): 電荷なし。原子核内。
- 電子 (e-): 負の電荷。原子核の周り。
原子核中の陽子の数(原子番号)が元素の種類を決定します。
元素の性質の周期性 (第2周期の例)
周期表では、元素の性質が周期的に変化します。例えば、第2周期元素 (Li~Ne) のイオン化エネルギーは右に行くほど増大する傾向があります。
イオン化エネルギー: 原子から電子1個を取り去るのに必要なエネルギー。希ガスで極大。
3. 化学結合と結晶
原子同士は化学結合によって結びつき、分子や結晶を形成します。結合の種類によって物質の性質は大きく異なります。
イオン結合
陽イオンと陰イオンが静電気力で結合。(例: NaCl)
Na+ + Cl- → NaCl (イオン結晶)
共有結合
原子同士が価電子を共有して結合。(例: $H_2O$)
水分子 ($H_2O$): 酸素原子1個と水素原子2個が共有結合。
分子の形: $CO_2$ (直線形), $NH_3$ (三角錐形), $CH_4$ (正四面体形)
金属結合
金属陽イオンと自由電子による結合。(例: Fe, Cu)
自由電子が金属光沢や電気伝導性をもたらす。
展性・延性に富む。
第2部:物質の変化
1. 物質量と化学反応式
化学反応を定量的に扱うためには、物質量 (mol) の概念が不可欠です。これは目に見えない粒子と実験室での測定値を結びつけます。
アボガドロ定数 ($N_A$)
$6.02 \times 10^{23}$
/mol (1molあたりの粒子数)
鉛筆12本が1ダースであるように、粒子 $6.02 \times 10^{23}$ 個の集まりが1molです。
気体のモル体積 (標準状態)
22.4 L
/mol (0℃, $1.013 \times 10^5 Pa$ での気体1molの体積)
気体の種類によらず、標準状態ではほぼ一定です。
化学反応式: $2H_2 + O_2 \rightarrow 2H_2O$
この反応式は、水素分子2molと酸素分子1molが反応して水分子2molが生成することを示します。係数の比は物質量の比を表します。
- 反応物: 水素 ($H_2$), 酸素 ($O_2$)
- 生成物: 水 ($H_2O$)
- 量的関係: $H_2$ : $O_2$ : $H_2O$ = 2 : 1 : 2 (mol比)
2. 酸と塩基
酸と塩基は身近な物質の性質を特徴づけ、中和反応はそれらの性質を打ち消し合います。pHは酸性・塩基性の度合いを示す尺度です。
pHスケール (25℃)
$pH = -log_{10}[H^+]$ で定義され、値が小さいほど酸性が強いことを示します。
中和反応
酸と塩基が反応し、互いの性質を打ち消しあい、多くの場合、水と塩(えん)が生成します。
例: 胃酸を制酸剤で中和する、酸性土壌を石灰で中和する。
3. 酸化還元反応
物質が電子を失う「酸化」と、電子を受け取る「還元」は常に同時に起こります。金属のサビや電池の原理も酸化還元反応です。
酸化と還元 (電子による定義)
酸化: 原子やイオンが電子 ($e^-$) を失う変化。
還元: 原子やイオンが電子 ($e^-$) を受け取る変化。
例: 鉄のサビ ($Fe \rightarrow Fe^{3+} + 3e^-$ は酸化)
ダニエル電池の原理
イオン化傾向の異なる2種類の金属を用いた電池です。
- 負極 (Zn): $Zn \rightarrow Zn^{2+} + 2e^-$ (酸化)
- 正極 (Cu): $Cu^{2+} + 2e^- \rightarrow Cu$ (還元)
化学エネルギーを電気エネルギーに変換します。
金属のイオン化傾向
金属が水溶液中で陽イオンになろうとする性質の強さ。大きいほど酸化されやすい。
(大) ⟵ イオン化傾向 ⟶ (小)
(H)より左の金属は希酸と反応して水素を発生します。
第3部:化学基礎の学習を深めるために
化学基礎の理解を確実なものにするためには、混同しやすい用語の区別や、学習のコツを掴むことが大切です。
混同しやすい重要用語の整理
単体 vs 元素
単体は「物質そのもの」(例: $O_2$)、元素は「成分の種類」(例: $H_2O$ の中のO)。
イオン化エネルギー vs 電気陰性度
イオン化エネルギーは「電子を失いにくいか」、電気陰性度は結合時に「電子を引き付けたいか」。
同素体 vs 同位体
同素体は同じ元素の「異なる単体」(例: Oと$O_3$)、同位体は同じ元素の「異なる原子」(例: $^1H$と$^2H$)