完全自動運転の現在地と未来

事故調査レポートから読み解く技術・安全性・社会の課題

本日のアジェンダ

  • 序(起): 自動運転の「いま」を知る
  • : 世界の開発競争と規制
  • : 安全性の真実 - データ vs. 認識
  • : 事故から学び、未来への教訓

レベル5はまだ未来の話

本レポートが分析するのは、現在商用化されている最高レベルの「レベル4」です。

レベル4: 高度運転自動化

特定のエリアや条件下で、システムが完全に運転します。現在、商用化されている最高レベルです。

レベル5: 完全運転自動化

どんな状況でもシステムが運転する理論上の最終段階です。その実現はまだ遠い将来の課題とされています。

本報告書の主要な登場人物

Waymo

Alphabet傘下。米国の複数都市で商用ロボタクシーを展開する業界リーダーです。

Baidu Apollo

中国の検索大手。国家戦略を背景に世界最大規模のロボタクシーを運用しています。

Cruise

GM傘下。重大事故と不透明な対応により事業停止に追い込まれ、業界の教訓となりました。

世界の開発競争: 規制が戦略を決める

米国: イノベーション主導型

州ごとにルールが異なる「パッチワーク」状態。 Waymoのように特定都市で深く掘り下げ、成功モデルを横展開する戦略を採ります。

中国: 国家主導型

政府主導で大規模な実証実験区を整備。 Baiduのように複数都市で一気に展開し、規模(スケール)で優位に立つ戦略を採ります。

欧州・その他の動向

欧州:統一規制を目指す協調アプローチ

ドイツがレベル4の国内法を世界に先駆け成立させました。 現在はEU全体での統一規制の導入を目指しており、実現すれば市場のスケールアップが期待されます。

その他の注目国

シンガポール、オランダ、英国なども、法整備やインフラの質で高い評価を得ています。

安全性の真実①:データの罠

自動運転車 (AV)

ごく軽微な接触もほぼ100%報告する義務があります。

人間ドライバー

物損のみの事故の約60%は警察に未報告という推計も存在します。

単純な事故件数の比較は、自動運転車が不利に見えるという誤解を生みます。

安全性の真実②:深刻な事故は激減

報告バイアスの影響が少ない「負傷を伴う事故」や「警察への報告があった事故」で比較すると、自動運転の優位性が明確になります。

指標 (100万マイルあたり) Waymo 人間 (ベンチマーク)
負傷を伴う事故率 0.41 2.78 件
警察への報告があった事故率 2.1 4.85 件

新たな課題: 「非人間的な」運転

AVの安全性が、新たなリスクを生むというジレンマが存在します。

AVの挙動

交通法規を厳格に遵守し、常に安全マージンを確保。人間には「慎重すぎる」「予測不能」と映ることがあります。

人間の反応

AVの挙動にいらだちや誤解を抱き、結果としてAVが被害者となる追突事故の一因となるケースが多数報告されています。

事例研究:Cruise歩行者事故 (2023年)

事故の経緯

二次衝突後、システムは歩行者が車両下にいることを検知できず、安全な場所への移動プロトコルを実行。歩行者を引きずったまま約6m移動してしまいました。

致命的な失敗

技術的な「認識の失敗」 もさることながら、その後の報告で「引きずり」の事実を十分に開示しなかった透明性の欠如が、信頼を完全に失墜させました。

もし事故に遭遇したら? 乗員の役割は「保護されること」

やるべきこと (Do's)

  • 冷静に車内に留まる
  • 遠隔サポートと通信する
  • 警察や救急隊の指示に従う

やってはいけないこと (Don'ts)

  • 自分で車を操作しようとしない
  • 現場で責任について言及しない
  • 不必要に車外に出ない

総括:到達点と残された課題

到達点

レベル4が商用化され、特に重篤な事故の削減において、人間を上回る大きな可能性を示しています。

残された課題

複雑な「エッジケース」への対応、グローバルな規制の調和、そして人間社会との相互理解が大きな課題です。

未来への展望

技術の進化

ODDの段階的拡大と、自家用車の高度運転支援(レベル2+)の普及が現実的な進路となります。

規制の進化

安全性とイノベーションのバランスを取りながら、国際的な規制調和が進んでいきます。

社会の進化

プライバシー保護や雇用など、より現実的な倫理的・社会的議論が本格化します。

ご清聴ありがとうございました

技術と社会が共存する、より安全な未来へ