見知らぬ他者へのオンライン攻撃の深層心理:X(旧Twitter)における「ダル絡み」の精神状態に関する包括的分析

タグ: 心理学

作成日: 2025年06月17日

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𝕏(Twitter)を見ていると他人のポストにダル絡みする人が居るが、見ず知らずの他人に対して敵意を向ける人の精神状態について詳しく教えて欲しい。

見知らぬ他者へのオンライン攻撃の深層心理:X(旧Twitter)における「ダル絡み」の精神状態に関する包括的分析

序論

本稿は、X(旧Twitter)などのソーシャルメディアプラットフォーム上で観察される、見知らぬ他者の投稿に対して執拗かつ無意味に、あるいは敵意をもって関与する「ダル絡み」と呼ばれる現象について、その背後にある精神状態を深く掘り下げることを目的とする。この行動は、単なる迷惑行為や「荒らし」という言葉で片付けられることが多いが、実際には個人の心理、社会力学、そしてテクノロジーが複雑に絡み合った、多層的な現象である 1。

単に攻撃的なリプライのパターンを分類するだけでは、この問題の根源を理解するには不十分である 1。本稿では、この行動を単なる個人の逸脱行為としてではなく、特定の環境下で顕在化する人間の心理的傾向として捉え、そのメカニズムを解明することを目指す。

分析は、以下の4つの相互に関連する柱を軸に展開される。

  1. 環境要因: オンラインコミュニケーション固有の性質が、いかにして攻撃性を誘発するのか。
  2. 個人要因: 攻撃者の内面世界、すなわち認知の歪みやパーソナリティ特性がどのように作用するのか。
  3. 社会要因: オンライン上の集団心理や群衆力学が、いかにして対立を増幅させるのか。
  4. 技術要因: プラットフォームの設計思想やアルゴリズムが、いかにして敵対的な相互作用を助長するのか。

これらの柱を統合的に分析することで、見知らぬ他者へ敵意を向ける人々の精神状態についての包括的かつ詳細な理解を提供し、この現代的な社会課題に対するより深い洞察を提示する。


第1部 敵意の構造:オンライン脱抑制効果

対面でのコミュニケーションにおいて、我々の行動は社会的な規範や相手への配慮によって自然と抑制されている。しかし、オンライン環境はこの抑制を解き放ち、現実世界では見られないような振る舞いを引き起こす。この現象は、心理学者ジョン・スラーが提唱した「オンライン脱抑制効果(Online Disinhibition Effect)」として知られており、オンラインでの攻撃性を理解する上での基礎となる概念である 3。この効果は、個人の攻撃性を新たに生み出すというよりも、むしろ現実世界で攻撃性を抑制している心理的な障壁を体系的に取り除くことで、潜在的な敵意が表面化しやすい「許容的な空間」を創出する。

1.1 脱抑制を引き起こす6つの要因(Suler, 2004)

スラーは、オンライン脱抑制効果を促進する6つの主要な要因を特定した。これらが複合的に作用することで、人々はオンライン上でより攻撃的になりやすくなる 5。

乖離的匿名性(Dissociative Anonymity)

オンライン上では、ユーザー名やアバターの背後に自身の本当の身元を隠すことができる 3。この匿名性は、オンラインでの言動が現実世界の自分とは切り離されているという感覚、すなわち「乖離」を生み出す。自分の発言が現実の社会的評価や人間関係に影響を及ぼしにくいと感じるため、責任感が低下し、普段は口にしないような過激で攻撃的な発言への心理的ハードルが著しく下がる 5。「どうせバレない」という感覚が、自己抑制のタガを外す最大の要因の一つとなる。

不可視性(Invisibility)

テキストベースのコミュニケーションでは、相手の表情、声のトーン、身振りといった非言語的な手がかりが完全に欠落する 5。対面であれば相手の苦痛に満ちた表情を見て攻撃をためらう場面でも、オンラインでは相手が単なる画面上のテキストに過ぎないため、感情を持つ生身の人間として認識することが困難になる 8。この共感性の欠如は、相手の感情を想像する能力を低下させ、残酷な言葉を投げかけることへの抵抗感を麻痺させる 5。

非同期性(Asynchronicity)

Xでのやり取りは、リアルタイムの会話とは異なり、時間的なズレを伴う 5。攻撃的なコメントを投稿した後、すぐに相手の反応に直面することなく、一方的にログアウトすることが可能である 5。この「言い逃げ」ができる構造は、熟考を経ない衝動的な発言を助長する 9。相手からの反論やその場の気まずさから逃れられるため、攻撃的な言動がエスカレートしやすくなる 5。

唯我独尊的な取り込み(Solipsistic Introjection)

相手に関する情報が乏しいオンライン環境では、我々は無意識のうちに相手の人物像を自分自身の心の中で勝手に作り上げてしまう 3。この想像上のキャラクターは、しばしば自分の都合の良いように単純化されたり、悪者として脚色されたりする。攻撃の対象が、感情を持つ現実の人間ではなく、自分が作り出した「敵役のキャラクター」であるかのように感じられるため、罪悪感なく攻撃することが可能になる 5。

解離的想像力(Dissociative Imagination)

一部のユーザーは、オンライン空間を現実世界とは切り離された、ルールや規範の異なる一種のファンタジーゲームのように捉えることがある 3。この「ゲーム感覚」は、現実の道徳観や倫理観を一時的に棚上げさせ、オンラインでの攻撃的なやり取りを、現実への影響がないエンターテイメントの一環として楽しむことを可能にする。他者を傷つける行為が、現実的な結果を伴わない「遊び」として認識されてしまうのである 5。

権威の最小化(Minimization of Status and Authority)

現実世界では、年齢、役職、社会的地位といった権威の差が、人々のコミュニケーションを調整している。しかし、オンライン上ではこれらの手がかりがほとんど存在しない 3。企業のCEOも、一介の学生も、同じフラットな土俵に立つように見える。これにより、現実世界では敬意を払うべき相手や、通常は意見することさえためらわれるような相手に対しても、遠慮なく攻撃的な言葉を投げつけることが可能になる 5。

1.2 有毒的脱抑制と良性的脱抑制

オンライン脱抑制効果は、必ずしも否定的な結果のみをもたらすわけではない。自己開示が進み、現実では得られないようなサポートコミュニティを見つけるといった「良性的脱抑制(Benign Disinhibition)」につながることもある 5。しかし、「ダル絡み」に代表されるようなネットいじめや誹謗中傷は、この効果が負の側面で発現した「有毒的脱抑制(Toxic Disinhibition)」の典型例である 4。この両者を分けるのは、その意図と結果である。良性的な効果が他者とのつながりや自己の解放を目指すのに対し、有毒的な効果は他者への攻撃や破壊を目的とする。

このように、オンライン環境は、それ自体が敵意を生み出すわけではない。しかし、現実世界における対人関係の「安全装置」である共感、責任、そして即時的なフィードバックといった抑制メカニズムを構造的に無力化する。その結果、個人の内面に潜む攻撃性や歪んだ認知が、何の妨げもなく表出するための「理想的な培養地」となっているのである。


第2部 攻撃者の内面世界:認知バイアスとパーソナリティ特性

オンラインという許容的な環境は、誰もが攻撃的になる可能性を高めるが、実際に執拗な敵意を他者に向ける人々には、特有の心理的傾向が見られる。彼らの行動は、単なる衝動ではなく、世界を歪んで捉える認知の枠組みと、他者との関わり方を規定する根深いパーソナリティ特性に起因している。攻撃は、しばしば強さの表れではなく、深刻な内的脆弱性の防衛反応として現れる。

2.1 歪んだ知覚:世界を敵意に満ちたものと見なす心

攻撃者の心の中では、世界は常に脅威に満ちている。彼らは中立的な出来事さえも、自分への攻撃として解釈してしまう傾向がある。

敵意帰属バイアス(Hostile Attribution Bias)

これは、他者の意図が曖昧、あるいは友好的でさえあるにもかかわらず、それを敵意のあるものだと解釈してしまう認知の歪みである 11。例えば、X上で単に事実を問う質問をされただけで、「自分を試している」「攻撃している」と受け取ったり、異なる意見の表明を人格否定と捉えたりする 13。このバイアスの根底には、低い自己重要感や劣等感、そして他者から見下されることへの強い恐怖が存在することが多い 13。したがって、彼らの攻撃は、自ら争いを仕掛けているというよりも、彼らの歪んだ知覚の中では、既に始まっている「攻撃」に対する「正当な報復」なのである 12。

自己正当化のメカニズム

一度攻撃的な行動を取ると、人間は「自分は正しい人間である」という自己認識を保つために、その行動を無意識に正当化しようとする。

2.2 オンライン攻撃者のパーソナリティ・プロフィール

特定のパーソナリティ特性を持つ人々は、オンラインでの攻撃行動に走りやすいことが研究で示されている。特に社会的に好ましくないとされる特性群が、この行動と強く関連している。

ダークトライアド(Dark Triad)

これは、ナルシシズム、マキャベリズム、サイコパシーという3つの邪悪なパーソナリティ特性の総称であり、オンラインでの攻撃行動と一貫して関連が指摘されている 19。

日常的サディズム(Everyday Sadism)

この特性は、時に「ダークテトラッド(4つの邪悪な特性)」の第4の要素と見なされ、特にオンラインの「荒らし」行為を強力に予測する因子とされる 24。サディズムとは、他者の苦痛を見たり、与えたりすることから、純粋な喜びや興奮を得る傾向を指す。サディストにとって、「ダル絡み」の目的は議論に勝つことではなく、相手に精神的苦痛を与えることそのものである。相手の苦悩こそが、彼らにとっての報酬なのである 24。

2.3 攻撃の燃料:歪んだ正義感と承認への渇望

攻撃者の多くは、自身をいじめっ子ではなく、正義の執行者だと認識している。彼らの行動は、個人的な欲求や感情によって駆動されている。

「正義の」攻撃者(歪んだ正義感)

多くの攻撃者は、自分が「間違っている」「不道徳だ」と見なした相手を罰しているのだという、歪んだ正義感に基づいて行動している 19。彼らは自らを、社会の規範を乱す者に対して鉄槌を下す「正義の味方」と位置づけることで、自身の残酷な行為に強力な道徳的正当性を与える。コロナ禍における「自粛警察」の行動は、この心理が現実世界でどのように現れるかを示す好例である 26。

飢えた自尊心(承認欲求)

自己肯定感が低い人々にとって、他者からの注目は、たとえそれが否定的なものであっても報酬となり得る 19。Xのようなプラットフォームは、「いいね」やリプライ、閲覧数といった形で注目を数値化する。攻撃者は、強い反発を誘発することで議論の中心となり、現実の生活では満たされない承認欲求(他者から認められたいという渇望)を満たすことができる 27。彼らの攻撃は、注目と自己価値を求める必死の叫びなのである 29。

これらの心理的特徴は、一見すると強さや自信の表れのように見えるかもしれない。しかし、その実態は全く逆である。敵意帰属バイアス、ナルシシズム、そして過剰な承認欲求は、いずれも不安定で脆弱な自己意識に根差している。オンラインでの攻撃は、彼らが脅威に満ちていると認識する世界から、その脆い自尊心を守るための防衛機制であり、先制攻撃なのである。つまり、「ダル絡み」という行動は、他者への攻撃であると同時に、自己の内的危機を外部に投影し、必死に管理しようとする試みなのだ。


第3部 増幅装置:社会力学とプラットフォームの仕組みがいかに対立を激化させるか

個人の内面に潜む攻撃性が、X上で観察されるような大規模な敵意へと発展するには、それを増幅し、方向付ける外部の力が必要である。ここでは、オンライン特有の集団心理と、Xというプラットフォームの設計思想そのものが、いかにして個人の敵意を社会的な現象へと変貌させるかを分析する。プラットフォームは中立な舞台ではなく、対立を誘発し、利益を得る積極的な演出家として機能している。

3.1 デジタルモブ(群衆)の心理学

個人が群衆の一部となるとき、その心理と行動は劇的に変化する。オンライン環境は、この群衆心理をかつてない規模で発生させる。

没個性化(Deindividuation)

巨大で匿名の集団の中にいると感じると、人々は自己意識と個人的な責任感を失う傾向がある 30。自分が「大勢の中の一人」であるという感覚は、「自分だけがやっているわけではない」という責任の拡散を生み、一人では決して行わないような集団的な攻撃(リンチ)への参加を容易にする 8。

集団極性化(Group Polarization)

同じ考えを持つ人々が集まって議論をすると、その集団の意見はより極端な方向へと傾く傾向がある 30。オンライン上の攻撃的な集団では、怒りが怒りを呼び、一つの攻撃的なコメントが次のコメントを正当化し、さらに過激化させる。これにより、集団全体の行動が、当初の誰かが意図したレベルをはるかに超える極端な敵意へと突き進んでいく。

3.2 アルゴリズムという名のコロッセオ:Xの設計はいかにして対立を育むか

Xの根幹をなすアルゴリズムは、真実や礼節を広めるために設計されているわけではない。その至上命題は、ユーザーの「エンゲージメント」(いいね、リプライ、シェア、滞在時間)を最大化することである 33。

エンゲージメント経済

数々の研究が示すように、人間の感情を強く揺さぶるコンテンツ、特に「怒り」や「敵意」は、最も高いエンゲージメントを生み出す 35。したがって、プラットフォームのアルゴリズムは、最も「エンゲージメントが高い」コンテンツである対立や論争を優先的にユーザーのタイムラインに表示し、増幅させる 34。プラットフォームのビジネスモデルにとって、対立は利益なのである。

エコーチェンバーとフィルターバブル

アルゴリズムは、ユーザーの過去の行動に基づいて、その人が好みそうなコンテンツを提示し続ける。これにより、自分と同じ意見や価値観が反響し合う閉鎖的な空間「エコーチェンバー」が形成される 36。この環境に閉じ込められると、自分の考えが世の中の総意であるかのように錯覚し、異なる意見を持つ「アウトグループ(外部集団)」に対する不寛容と敵意が育まれていく 39。

デジタルトライバリズムの台頭

エンゲージメント至上主義のアルゴリズムとエコーチェンバーが組み合わさることで、プラットフォーム上には「我々 対 彼ら」という部族的な対立構造(デジタルトライバリズム)が生まれる 34。Xは、健全な議論の場ではなく、敵対する部族を論破したり、嘲笑したりすることで「ポイントを稼ぐ」Player-vs-Player(PvP)の競争環境と化す 34。ここでの敵意はもはや個人的な感情の発露ではなく、自らが所属する部族への忠誠を示すためのパフォーマンスとなる。

3.3 引用リツイートという名の公開処刑の武器

Xの機能の中でも、特に「引用リツイート(QR)」または「引用ツイート(QT)」は、攻撃のために独自に兵器化されてきた。直接的なリプライとは異なり、引用リツイートは、攻撃対象の投稿を、敵意に満ちたコメントと共に、攻撃者自身のフォロワー(オーディエンス)の前に晒し上げる機能を持つ 42。

この行為は、一種の「デジタルリンチ」として機能する 42。それは、攻撃対象者を本人の同意なく攻撃者の「ホームグラウンド」に引きずり込み、フォロワーたちに一斉攻撃させる号令となる。元々の投稿者は、突如として自分が関与を望まなかった群衆からの集中砲火に晒されることになる。一方で、攻撃者は自らの部族から賞賛とエンゲージメントという報酬を得る 42。これは、プラットフォームの機能が、意図的かどうかは別として、標的型ハラスメントのために転用されている典型的な例である。

結論として、X上で見られる敵意は、単にユーザーの心から自然発生したものではない。それは、プラットフォームの根幹をなすビジネスモデルが、意図的、あるいは少なくとも予測可能な結果として生み出したものである。プラットフォームは中立な公共の広場などではなく、利益を最大化するために高度に設計された闘技場であり、そこでは「対立こそが最も収益性の高い商品である」という事実を学習してしまっている。ユーザーが目撃する「ダル絡み」は、不幸な副作用などではない。それは、プラットフォームの経済的利益に奉仕するために、システム全体で奨励され、増幅された行動なのである。我々が目にしているのは、個人の精神状態の表出であると同時に、巨大な利益志向の社会工学実験の行動的アウトプットなのだ。


第4部 オンライン攻撃の統合モデルと提言

これまでの分析を統合し、オンラインでの敵対的行動がどのように発生し、維持され、増幅されるのかを一つのモデルとして提示する。さらに、この複雑な問題に対して、個人、プラットフォーム、そして社会が取り得る対策を提言する。

4.1 オンラインにおける敵意の悪循環

見知らぬ他者への攻撃は、以下の自己強化的なサイクルを通じて発生・悪化する。

  1. 環境設定(Environment): まず、オンライン脱抑制効果が、現実世界の社会的抑制を取り払い、攻撃行動が心理的に容易な「許容的環境」を作り出す。
  2. 個人的な引き金(Individual Trigger): この環境の中で、敵意帰属バイアスナルシシズム的な脆弱性を持つ個人が、他者の曖昧な投稿を自身への攻撃と誤って解釈する。
  3. 攻撃行動(Aggressive Act): 引き金を引かれた個人は、自己正当化のメカニズムや歪んだ正義感、あるいは承認欲求サディスティックな快楽に駆られて、敵対的なコメントや引用リツイートで反撃する。
  4. 社会的増幅(Social Amplification): この対立が他のユーザーの注意を引き、デジタルモブが形成される。没個性化集団極性化によって、当初の攻撃は大規模な集団リンチへとエスカレートする。
  5. 技術的強化(Technological Reinforcement): プラットフォームのアルゴリズムが、この対立によって生じた高い「エンゲージメント」を検知し、投稿をさらに広範囲に拡散させる。これにより、攻撃者は注目という報酬を得ると同時に、敵対的な行動が常態化し、デジタルトライバリズムが強化される。
  6. このサイクルが繰り返されることで、個々の敵意はエコシステム全体を汚染する持続的な対立へと発展していく。

4.2 オンライン攻撃要因のマトリクス

本報告書の分析を要約し、心理学的概念、そのメカニズム、そしてX上での具体的な現れ方を一覧できるように以下の表にまとめる。これは、複雑な現象を構造的に理解するための分析ツールとして機能する。

要因・概念 中核的メカニズム X上での現れ方(「ダル絡み」) 関連するプラットフォーム機能
オンライン脱抑制効果 現実世界の社会的抑制(責任、共感、即時フィードバック)の除去 5 全般的な無礼さ、衝動性、オフラインでは決して言わないような発言。 匿名性(ユーザー名)、非同期的なリプライ、テキスト中心のフォーマット。
敵意帰属バイアス 曖昧な刺激を意図的な悪意として解釈する 11 中立的な質問に対し「なぜ攻撃するのか?」と反応。悪意の決めつけ。 短文テキストコミュニケーションの曖昧さ。
ダークトライアド/サディズム 共感の欠如、誇大性、操作性、他者の苦痛から快楽を得る 19 苦しめること自体が目的の残酷さ、相手の苦悩を楽しむ、戦略的な個人攻撃。 スクリーンがもたらす距離感、ブロックや逃避による結果回避の容易さ。
自己正当化 自身の否定的行動を合理化し、認知的不協和を低減する 17 反論されるとさらに主張を強める、責任転嫁、攻撃対象が攻撃されて当然だと描写する。 反対意見のミュート/ブロック機能、自己正当化的なフィードバックループの形成。
歪んだ正義感 攻撃を、規範を執行する正義の行いとして位置づける 19 道徳的な過ちを犯したとされる人物の「糾弾」、集団でのキャンセル行為。 投稿の公開性、特定の「正義」運動を組織するためのハッシュタグ。
没個性化/群衆心理 集団内での個人的アイデンティティと責任感の喪失 30 何百人ものユーザーが同じ侮辱や脅迫を繰り返す「パイルオン(集団攻撃)」。 フォロワー数、引用リツイートによる投稿のウイルス的拡散、トレンド機能。
アルゴリズムによる増幅 感情的なエンゲージメント(特に怒り)が高いコンテンツを優先する 34 元の投稿や穏健なリプライよりも、敵対的で物議を醸すリプライが目立つ現象。 「おすすめ」タイムライン、リプライの表示順序アルゴリズム、引用リツイート機能。

4.3 敵意に満ちたデジタル環境を航行するために

この複雑な問題に対処するには、多角的なアプローチが不可欠である。

個人にとって

最も強力なツールはメタ認知、すなわち自分自身の思考や感情を客観的に観察する能力である 30。リプライを送る前に、「なぜ自分は今、このように感じているのか?」「これは敵意帰属バイアスではないか?」「自分は群衆心理に流されていないか?」と自問することが重要である。これらの心理的罠を認識するためのデジタルリテラシーを身につけることは、自己防衛と責任あるデジタル市民であるための第一歩となる。

プラットフォームにとって

Xのようなプラットフォームは、その最適化の目標を、文脈を無視した単なる「エンゲージメント」から、「健全な対話」へと移行させる必要がある。具体的には、敵対的な引用リツイートの表示順位を下げる、集団攻撃に対して一時的にリプライを制限する「サーキットブレーカー」を導入する、単なる対立ではなくニュアンスのある議論に報酬を与えるようアルゴリズムを再設計する、といった対策が考えられる 39。

社会にとって

我々は、デジタル空間における共感教育に、より一層力を入れる必要がある。子供たちに物理的な遊び場での振る舞いを教えるのと同様に、デジタルの遊び場における心理力学を教え、より回復力があり、思いやりのある次世代のデジタル市民を育成することが求められる。

結論

X上で見られる「ダル絡み」は、一部の「悪意ある」個人による孤立した行為ではない。それは、人間の心理が特定の技術的・経済的システムと衝突することによって生じる、システム的な問題である。それは、抑制が解かれた環境、脆弱な個人の心理、群衆力学、そして利益を追求するアルゴリズムが相互に燃料を供給し合う、複雑なフィードバックループの産物なのである。

この深く、多層的な心理を理解することは、変化への第一歩である。それは、単に個人を非難することから脱却し、我々が日々没入しているデジタル環境そのものと、それを設計するシステムに対して、より困難な問いを投げかけることを可能にする。個人のメタ認知を育み、プラットフォームに対してより責任ある設計を要求することによってのみ、我々はオンライン空間が単なるコロッセオではなく、真のコミュニティとなる未来を期待できるのである。

引用文献

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  31. バッシングや誹謗中傷を助長してしまう!?『没個性化現象』 - 株式会社SBSマーケティング, 6月 17, 2025にアクセス、 https://sbsmarketing.co.jp/blog/deindividuation-phenomenon-2024-03/
  32. SNS時代に知っておきたい「エコーチェンバー現象」 - とりもち, 6月 17, 2025にアクセス、 https://www.torimochi.jp/2024-12/
  33. Xでフォロワーを爆増させる!リプライ戦略でアルゴリズムを味方にする方法 - note, 6月 17, 2025にアクセス、 https://note.com/til_com/n/n22e499c87a91
  34. SNSのPvP環境解析【苦手な人へ】|アツキ - note, 6月 17, 2025にアクセス、 https://note.com/atk_drums/n/ndeca5a3ed809
  35. 対立するグループへの敵意がSNSでのエンゲージメントを促進するという研究結果 - GIGAZINE, 6月 17, 2025にアクセス、 https://gigazine.net/news/20250325-hostility-outsiders-engagement-social-media/
  36. SNSでは偏った意見や主張を増幅させてしまう!?『エコーチェンバー』, 6月 17, 2025にアクセス、 https://sbsmarketing.co.jp/blog/whatis-echo-chamber-2023-12/
  37. 対立や分断もつくる? SNSの負の側面【エコーチェンバー】。影響度を見える化する研究も, 6月 17, 2025にアクセス、 https://studyu.jp/feature/theme/echo_chamber/
  38. フィルターバブルとエコーチェンバー:情報社会に潜む教育への影響とは? - note, 6月 17, 2025にアクセス、 https://note.com/kazuki_edu/n/nb6315a07fa33
  39. SNSの分断 – オンラインコミュニティの断絶とその影響 TMTユニバーサル株式会社, 6月 17, 2025にアクセス、 https://tmt-universal.com/jp/853
  40. SNS時代に気をつけたい「エコーチェンバー現象」とは?問題点、対策について解説, 6月 17, 2025にアクセス、 https://www.sowelleber.jp/beplanning/content/sns%E6%99%82%E4%BB%A3%E3%81%AB%E6%B0%97%E3%82%92%E3%81%A4%E3%81%91%E3%81%9F%E3%81%84%E3%80%8C%E3%82%A8%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%BC%E7%8F%BE%E8%B1%A1%E3%80%8D/
  41. エコーチェンバーとは~SNSの情報は偏っている!? SHARE info Press, 6月 17, 2025にアクセス、 https://blog.theshare.info/sharing-economy/echo_chamber/
  42. 引用リツイート合戦が嫌いな理由を説明しよう|うにぽん - note, 6月 17, 2025にアクセス、 https://note.com/donaiya/n/naa8021627025
  43. 攻撃的ツイートに対する拡散行動促進要因に関する 探索的研究 - 信州大学, 6月 17, 2025にアクセス、 https://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/education/course/psychology/paper/21/099.pdf
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